**厨房**


中に入ってみるとなにやら、やけに香ばしい香りがする。オーブンの前には、ヴォルフラムが生きる気を無くした様な顔で座り込んでいる。

「どうしたんだ、ヴォルフ?」

ヴォルフラムは、振り返ったが目にいつものような力がない。
ユーリは近くに寄ってヴォルフラムの手の中を覗き込む。鍋掴みを付けた手には、オーブンの板を持っている。その上には、香ばしい香りを放つ元が乗っていた。

「何?お前。クッキー作ったの?」

その言葉にヴォルフラムは、目に光を宿し、キッとユーリを睨み付けた。

「違う!これは『まどれーぬ』だっ!」
「マドレーヌ?これが?………やけに良い色だし。やけに平べったいけど…」
「うるさいっ!」
「あぁ〜これは焼きすぎたな。ヴォルフ、俺の言ったことちゃんと聞いていたか?焼きあがったら型から外して網の上で冷まし、乾燥させるないようにと…」
「……」

聞いていなかったらしい。
はぁと大きくヴォルフラムは溜め息をついた。その姿は、羽を無くして途方に暮れている天使のようだった。

「でもお前が作ったんだろ?どれ一つ」
「あ、こらユーリ!!」

ユーリは一つ取って口に入れてしまう。

「ユ、ユーリ?」
「う〜ん。マドレーヌじゃなくなっているなぁ。やっぱりクッキーみたいだ」
「ふん!なら食べるな!」

ヴォルフラムは立ち上がり、鉄板を持ったままゴミ箱の方にスタスタと歩いていく。

「おい、どうするんだよ?それ……」
「捨てる!!」
「えーそんなもったいない!」

ユーリも立ち上がりお皿を棚から取り、ヴォルフラムの前に回りこみ、鉄板の上に乗っているヴォルフラム作のマドレーヌを全部皿に移し、テーブルに置いて椅子に座る。

「おい、何を…」
「何って食べるに決まってんじゃん!」

ユーリはニカッと笑い。手を伸ばす。

「美味かろうが、不味かろうが、関係ないよ。ヴォルフが初めて一生懸命に作ったものが頂けるんだから」

はむっと口に入れてぼそぼそしたマドレーヌを食べる。

「コンラッドも一つどう?」
「そうですね。いただきます」

コンラッドも一つ口に入れる。

「うん…バターの味はしっかりしているじゃないか」
「なぁ、美味いよな」
「ええ」

あっという間に皿は空っぽになった。完食だ。

「ごちでした」
「ユーリ…」
「美味かったよ。ちょっとぼそぼそとしていたけど。また作る気が起きたらまた作ってくれよ」

ユーリはヴォルフラムに向かって微笑んで、立ち上がった。

「お腹いっぱいになりましたか?」
「うん。でも食べたらまた眠くなってきたぁ〜…」

ふぁ〜と大きく欠伸をする。

「でももう寝ちゃだめですよ」

コンラッドは苦笑する。

「だよな〜」
「では、食後の運動でもしますか?」
「お!いいねぇ。じゃ、キャッチボールしようぜ!!」

二人は歩き出しながら話す。

「いいですよ。やりましょうか」
「やったー!!」

ユーリは万歳して後ろを振り返り、ヴォルフラムにじゃあな!と手を振って厨房を後にした。
ヴォルフラムは静かになった厨房で大きく深呼吸をし、先刻のユーリの言葉を思い出す。


『作る気が起きたらまた作ってくれよ』


その言葉を頭の中で反芻し、ヴォルフラムは再び腕まくりをし、何かを作り出した。

その後、グウェンダルの所に苦情が来た。

「閣下ー!!どうにかして下さいよぉ」
「なんだ?どうした」
「ヴォルフラム閣下が厨房から退いてくれないんですよぉ!何やら一生懸命作っているようで。このままじゃ夕食が作れません!!」

泣きついてきたのは料理長。

「はぁ……」

グウェンダルは大きく溜め息を吐いた。


終わり


あとがき

これが私の一番の初期作品です。一番まともだと思います。ほぼ全員出ているしww
だれも壊れてないしw原作にも忠実だと自分では思っているんですが…どーでしょうか?(笑)
マドレーヌの作り方が今まで全然知らなかったので作り方の載っているお菓子のカレンダーを参考にしました。
私はスコーンをクッキーみたいにしたことがあります;;薄くしすぎたという。お粗末!だってスコーンは初めてだったんだもーん。
2006/05/19 蒼月輝人

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