差出人 : Tomo Sakata <サカタ@カナダ>
宛先 : "Kubo Motohiro@共犯新聞
件名 : Re: トルシエ・ジャパン論
日付 : Sun, 19 May 2002 23:57:48 -0700



  ■□ サカタともです

// "Kubo Motohiro"-san wrote (on 05/19) //
> 『共犯新聞』日記に、そのメンバーの人選について私ならではの視点から検討してみた。
:
> ■私は柳沢敦が、ここ数年でワイルドなルックスに変貌したことが、好きだ。
> 実はかっこいいベビー・フェイスなのだろーが、某タレントと噂された後、
> あえて(?)彼はヒールに変身した。その後の活躍も、いーぞ。
> 君は日本でサッカー通訳はしないのかい?

 なにを隠そう私は鹿島アントラーズの通訳として 97 年に韓国に行ったことがあるのだ。
そのときの日記を末尾にコピーしておきます。
君がよいといっているヤナギは当時1年目のホープで、移動バスの中で私がいくら話し掛けても
ほとんど返事をしてくれない、非常に内気な青年であった。
よくここまでたくましくなったものだ。つーてもまだ本気の外国強国とやって活躍したことが
ないみたいだから、今一つ信用できないんだけど。

 しかし現代表で一番かっこいいのは、間違いなく鈴木だと思います。
彼は鹿島でレギュラーになったときにキャーキャーいうファンを見て、
「なんだ、ちょっと活躍したらこれかよ」と腹を立てたのだというほど日の目を
見ずにそれまで来ていた人。私の行った韓国遠征にも連れていってもらえなかったほど
低迷していた人なのだ。そのひねびた気持ちが顔とプレーに出ていて、ヤナギや西澤とは
まったく違う顔をしています。
私は彼に一番期待してます。中山も4年前より今の方がうまいぜ :-)。

 私も3年ぶりに日本に行き、日本代表が敗退するまでサッカー狂の母
と共にTVで応援する予定。それじゃまた。
 ┌───┐
 │サカタ│
 └───┘


韓国日記(さ)-97/11/1921:34:35

韓国で風邪ひいてふうふうの管理人です。なんでこんな仕事が来
たのかというと、知り合いに3カ国語を操る超人がいるのですが、彼のところに
「鹿島の通訳が行けなくなった、誰か紹介してくれないか」とアントラーズの旅
行代理店から電話があったそうなのです。彼の頭には即座に私が浮かび(感謝)、
電話がまわってきたと。以下、日記のコピーをどうぞ。

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●体調最悪のスタート
前の晩寝付けず、ふらふらで空港に着くと、チェックイン・カウンターにジーコがおり、
荷物のチェックインに立ち会っている。こんな朝からやってきて、そしてこれから韓国
まで飛んでいくなんて、本当にこの人はサッカーが好きなんだなあ。俺がジーコなら
もっと安逸で怠惰な生活をしてるわ。

フライトの間ひたすらじっと体を休めていたおかげで、プサンについた頃は体調が落ち
着いたのだが、そこで昼食を摂る選手たちを置いて、スタッフと監督、そして通
訳の俺はマイクロバスを飛ばしてウルサンのホテルでのミーティングに出席しな
ければならなかった。韓国は全体に道がバンピーで車の乗り心地が悪い。疲れる
道中だ。がカルロス監督は文句を言わずに座っている。さっきジーコについて思
ったのと同じ感慨を感じる。道中景色は日本とほとんど同じだった。

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●通訳はたいへん過ぎ
そして通訳はきつかったー。想像してたよりもはるかに正式な会議で、めっちゃ
たいへんだった(鹿島には俺が本来翻訳家で、サッカーが好きだから来ただけだ
なんて全く伝わってなかったのだ)。マレーシアから来たマッチコミッショナー
が話すことを鹿島側全員に訳すのが仕事だったのだが、なまりもあるしおじいさ
んだから声に力がないし、サッカー進行上の決め事というのは思ってもみなかっ
たほど細かいものなので困った
。コーチングボックスに通訳を入れていいかどう
かなどと、下手したら試合の行方を左右してしまう重大な点についてのネゴシ
エーションもあるわけで、もし間違っていたら大変だと何度も念を押してしまう。

するとそれが裏目に出て、俺がしつこく確認をするのでコミッショナーが短気を
起こしてきてしまう。おかげで余計にわかりにくくなり、血の気の引くような展
、だんだん頭の中が白くなっていく。ルールを知っていたら大丈夫だったのか
もしれないけど、途中何度か俺の頭は「???」と?だらけになってしまい、冷
や汗かきまくり。全体的には初めての通訳体験にしてはまあまあだったと思うの
だが、鹿島にとっては俺の自己評価など関係ないのだし、次はやりたくないわ。
速記の取り方とか、ちゃんとトレーニングを受けてないと無理な仕事なんだなと
つくづく思った。

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●鹿島の素顔
スタッフと一緒にホテルの夕飯を食べる。代表じゃないからコックが帯同したり
はしないんだな。ジーコ、ジョルジーニョを始めまわり中有名な選手ばかりなの
で写真くらい撮りたいのだが、一人だけ浮いた行動をとるのが気が引ける。だい
たい俺を手配したのは旅行代理店なので、鹿島の人は俺が単なる「サッカー好き
でたまたま英語が喋れる男」だとは知らない
ので、わざわざ正体を明かすのも業
務上まずい^_^;)。でも鹿島のスタッフはみんな気さくないい人であった。選手
たちをできるだけいい体制でこの試合に向かわせてやろうと燃え燃えなのが感じ
られて気持ちよかった。

 コミッショナーのパスポートチェックのときに選手全員と対面したが、ほとん
ど皆単なるサッカー小僧という感じだった(笑)。世界を極めたジョルジーニョな
ども含めてみな、合宿に来ている体育会学生という感じ
だったな。

 夜中まで一人でゆっくりと本を読む(パラサイトイブ★★)。旅のホテルで本
を読めるのはシアワセだが、こんな遠い場所に一人であることにわびしさを感じ
て仕方がない。自分で旅程を調整して動くこともできないし、仕事の出張という
のはいやだな。

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●試合当日
 朝飯を食べにカフェに行くと、ジョアン・カルロス監督と一緒になった。
会釈をするが、ポルトガル語が話せないのでコミュニケートできず。サッカーは
ラテン語の世界だ、英語などほとんど役に立たないのではないだろうか。

 この仕事を引き受けたときから緊張してほとんどものを食えなかったのだが、
トマトジュースがあったので大量に飲む。コリアのパンはお話にならぬまずさで
あった。

 朝のウルサン郊外を歩いてみる。竹が多い他は本当に日本みたいだな。そして
この町は、見るものすべてが現代重工業の町だ。昨日港で見た数万台のヒュンダ
イ新車平原もすごかったし、カーメーカーというのはすごいビッグ・ビジネスだ。
でも日本の企業はこれよりも大きいわけなのだが。

 昼まで用はないので部屋に戻ると、下痢をしていた。気をつけてミネラルウ
ォーターを飲んでいたけど、旅では避けられないものか。選手たちは大丈夫なん
だろうか。しかし見ていると、試合当日となっても選手たちというのは意外との
んびりしてるものなんだな。まあカリカリしても仕方がないけど。

 昼飯もそこそこ食えた。これで体調が戻ると助かるのだが。さてスタジアムに
出発だ。

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 バスの中、風邪をひいているという黒崎とちょろっと話しつつスタジアムにつ
くと、すでにファンが入っていていいムード。が、韓国側の用意のずさんさに俺
が走り回ることに
なる。コミッショナーが見つからないだの、ヒュンダイのメン
バー表がおかしいだの、コーチの椅子が足りないだの、果てはグラウンドにうん
こが落ちてるだの。通訳に来てうんこ拾いをするとは思わなかった。

 韓国のサッカーは、1対1なら必ず勝負するという気概にあふれていて気持ち
いい。鹿島は日本らしく組織で受け止めていくので、韓国対日本らしい試合にな
っていた。地力が違うという感じで鹿島がペースを握り、スーパーなプレイはな
いものの着実に得点
していった。韓国のキーパーがへぼで笑ってしまい、そいつ
が退場にもなってしまい、なんだか笑えるほのぼのムードの試合だった。

 試合後プレス・インタビューを行う手はずになっていたのだが、ヒュンダイの
監督が拒否して取り止めになってしまう。ヒュンダイ側の通訳の子と俺が両チー
ムの板ばさみになり困り笑う。しかし現代自動車から派遣されてきたというこの
子は昨日のミーティングにも出ていたけど、かわいくて親切で日本語まで完璧で、
韓国のおでんを俺におごってくれるというめちゃめちゃすばらしい女の子
であっ
た :-)。

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ともあれそれで仕事は終了、どーっと肩の荷が降りた。後半からはスタジアム内
が寒くて、スーツだけでコートを持ってこなかった俺はガタガタに震えていた。
やばい、風邪をひきそうな気がする。

あとは目の前で起こっている韓国ガキどもの大騒ぎを眺めて楽しんでいた。サイ
ンをもらおうと大騒ぎ。試合中もこのガキどもがグラウンドに降りたりしてたの
だが、セキュリティなどいないようだった。ヒュンダイの引退選手という感じの
いかつい兄さんが大声で追っ払っているだけだった。

 30分ほどして鹿島の選手がいなくなると共に騒ぎも収まったのだが、途中一
度だけスタジアムの管理人という感じのじいさんが用務員室から竹ぼうきを持っ
て出て来て、ガキんちょのけつを滅茶恐い顔でひっぱたいていた。おお子供がジ
ャケンにされているのなんて、久しく見ていない。なんか日本の20年前の風景

だなあと感動してしまった。韓国はやっぱり古きアジアの味わいが残っているわ。

 快勝後の帰りのバスはなごやかなムードであった。試合に出られなかったサブ
の連中の表情は、やっぱり少し暗かったけれど。

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 そういうわけで3日間サッカーチームと行動を共にして、これは面白いゲーム
だなあと思った。関わる誰もが夢中になれるはずだわ。スタッフは万全を尽くす
べく走り回り、選手はフィールドで全力を尽くす。そして試合が終わるとよおし
よおしと手を取り合って、ヨロコビ帰って行くのだ(負けたらまた別なのかもし
れないけど)。バンドのツアーとそっくりの一体感だった。なつかしい燃える空
気だった。


 俺とJリーグから派遣されてきたMさんはやっぱり完璧に部外者なので、終始
その一体感の外にいるという感じで残念だったが、まあいいかと思って俺は仕事
に徹していた。サインなんかもらっても仕方ないし、初対面の選手たちと心に残
るような面白い話をできるはずもないし(若者の団体はなんだって排他的なもの
なのだ・笑)。

 夕食後、読む本が切れて苦しみながら韓国のTVを見る。言葉がまるきり分か
らないTVを見て、Mはふだんこういう感じなんだなあ、フラストレーションが
たまるわけだわと思う。

 韓国のTVを見ていると、なんか日本のTVとおそろしく似ている。影響があ
るのかないのか全く分からないが、コマーシャルの作りとか、声の感じとか、芸
能人の女の子の顔とかが全く同じに見える。

 芸能歌番組に出てくる歌手なんかもそっくりで、ただ音楽の質がやや落ちる。
というか、本質的には日本の芸能歌手も質はまったく同等なのだが、日本はうつ
わ(カラオケやメロディの質)で高級感を出すのがうまいので、ぱっと見たとき
に韓国の歌手より上質に見えるわけだ。馬鹿な日本の消費者にこれを見せてやり
たいと思う。彼ら彼女らがキャーキャー言ってる日本の歌手たちとこの韓国の
ミーハー芸能人を比べさせて、全く同じなのだと分からせてやりたい。まあ無理
だろうけどなあ......。

Mに電話をする。通訳はめちゃたいへんだよ、だけどすべてが面白かったけどね。
明日帰るから、みんなで日本代表の試合を見よう。

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 そして帰ってきて昨夜KちゃんちでWCアジア三位決定戦を見たわけなのだが、
めちゃくちゃ面白い試合だった。こんな面白い試合をして初の予選を突破できた
のだから、日本はラッキーだわ。簡単に決めたしまった韓国よりも。

 後半逆転されたあとも、ミスさえせず守っていれば必ず追いつけると思ってた
のだが、どうしてもミスが頻発するので恐かった。作るチャンス/ゴールの確率
はイランの方がはるかに高い。中山とカズを両方入れ替えたときはこれでいいの
かとほんとにどきどきした。中山は効いていたし、城は全く点を取っていない。
———が、その城がめちゃくちゃに、不思議なほど切れていたのだった。おそる
べし岡田監督


 北澤が効いていない、森島を入れてくれと思っていると、監督は延長戦そこに
岡野を入れてきた。これでいいのか、これでいいのか。もう胃の調子の悪さもあ
って、息が苦しくなるほど胸がドキドキいっていた。何度もはずす岡野、だけど
奴が走っているとたとえだめでも喜劇的でいいかもしれない(笑)。

 そして決めた、決めてくれた。......はああああとこの長かった4年間を俺は
思い返すのだった。ドーハのあとの4年間。それは、俺がずっとカナダで過ごし
た4年間でもあったのだよ(はああああああ......深呼吸)。

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