麒麟館グラフティ


 北海道の学生向けの下宿屋・麒麟館を舞台にした若者たちの物語。雪は降るけど人は熱い。むっちゃ熱くて激しいお話です。

 全篇これ、怒涛のような感情と真情の奔流である。
 主人公・妙がすごい。何のウソごともごまかしもなく、身の保身などちらりとも思わず、大好きな親友のために、そして何よりも、「実は冷酷非情な男だった初恋の男」を”好きだった自分の心のため”に、その男を「ほんの少しでも、髪一筋のもしかしたらでも信じたくて」全身で嵐にも罠にも飛び込んでいくすんばらしい女である。

 主人公の親友となる菊子もステキだ。複雑で不幸な生い立ちのために周りに遠慮ばかりする「癖」が身についている。それに目をつけられて強引に「都合のいい妻」にされていたのだが、親友になる妙をはじめとする、自分を「一人の人間」として扱ってくれる同居人たちとのかかわりや、洋裁の仕事を持つことで自信や自我を獲得していく−と書くととっても教科書ぽい響きになるけど、(笑)それを描く物語は極上のドラマである。最初は夫やその実家・会社関係者たちのイジメに耐えてばかり、泣いてばかりだった彼女が次第に顔を上げ、闘うことを始めていく姿がとってもいい。しかもその闘いは、自分を犬猫以下に扱っていた冷酷な夫への復讐ではない。妙同様、なんとかしてこの男の心を開くことを、この男も幸せになることを彼女は願う。

 そして男たちも変わっていく。菊子の夫である秀継は菊子という「人間」が存在することについに気づく。

「麒麟館三バカ」の一人だった学生・美棹は菊子への恋を育てることで、スーパーマンにも負けない男に成長するのである。

 麒麟館グラフティは極上の人間賛歌である。どんなに傷ついても、傷つけられても、愛すること・信じることを諦めない女たちが男たちを変え、一緒に幸せを作っていく。そんな人間ドラマである。


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