恭一とあの二人組みの関係は知る必要がない

「はぁ、部長の家についていけばよかったな」

 引き合わせたのは自分だと分かってはいるし、恭一はあまり男と女というのを気にする性質でないことも知っている。

「それでも気にはなる・・・か。思ったよりも乙女だな、わたしは」

 部屋中に置いてある作品が今日に限って妙に癇に障り、売り払ってしまおうかと町内会のお知らせを引っ張り出しフリーマーケットの予定を見ると、もう出店の受付は終了していた。

「うまくいかないな、こういう時は」

 晩御飯でも作ろうと冷蔵庫を覗き込むと、

「レタスと味噌・・・・・・・サラダと具なし味噌汁か」

 レタスの葉を適当に引っぺがし軽く水で洗う。次にお椀に味噌を適当に取りお湯をかけて終了。

「だめだな」

 想像してみたが、想像以上にだめ人間だったので、仕方なく床下の貯蔵庫開き中漁っていると

「ようっ」

「うわぁっ」

 突然、恭一が飛び込んできたため頭から貯蔵庫に落ち、さらにとどめとばかりに上からふたが落ちてきた、もっと収納が深かったならうまくいけば中に葉子一人ぐらいなら入れただろう、だが小さなアパートの床下収納では葉子の頭が入るところまでで精一杯だったため、背中を激しく打ちつけてしまった。

「よ、葉。だいじょうぶか?」

「平気だ」

 梅酒くさいが

「じゃ来てくれ、ルナが大変なんだっ

「ルナ?・・・・あぁ、彼女の妹か。何かあったのか?事件なら警察、怪我や病気なら病院だ、うちの電話を使うか?」

「違うっ、カガミがお前を呼べって。お前もそうだってのはビックリしたけど、お前なら何とかできるんだろっ

「なにがなんだかわからないな。詳しく話してくれないか?」

「だから魔法使いなんだろ。お前も」

「・・・・・救急か」

 厄介なことになった

「いいから来いっ

 葉子は恭一に無理やり自転車に乗せられ、いつ恭一を病院に連れて行こうか思案しながら恭一の家に連れて行かれることとなった。

 

 

 

「恭一、離してくれ」

「だめだ、お前逃げるだろ

 こういう時は理解してるんだな

「葉子ちゃん来たっ?」

「葉子さん、ルナをっ、ルナを助けてくださいっ

「うわっ」

 姉さんの声、そして物凄い速さでタックルをしてきたのは、

「確か、セレネだったか。何事かは知らないが、私にできることなんてないと思うが」

「葉子ちゃん、まずはこっちに来て」

「はぁ」

 やばいものでも食べたか?

「まずはこれを見て」

「これは・・・・・」

 完全に人間のように見える女の肩から先、二の腕の中間ほどから先がなくなり、その切断面

は木と鉄の塊だった。

「・・・・人形?いや、呼吸している。恭一が言っていた魔法使いというのは妄想ではないのか。だが、わたしでは何もできそうにないな」

「さすが葉子ちゃん話が早い。それから葉子ちゃんにしてもらいたいのは人形作りだから」

「確かにそれは得意分野だが。こんな複雑な」

「大丈夫できるようにするから、セレネ」

「はい。すいませんルナのためですから、我慢してください」

「つっ」

 セレネが小さな針のようなもので葉子の腕に傷をつけ、その針をカガミに渡し、

「ここに能力を委任する」

 カガミは自身の指先を傷つけ、その指を葉子の傷口に押し付けた。

 一瞬、指先から腕にかけ黒い紋様が広がり

 消える

「何をした?」

「魔法を葉子ちゃんに貸したのよ。まだ、魔法が全身に行き渡ってないからわからないかもしれないけど、すぐにわかるようになるから。じゃあ恭一と葉子ちゃんは着いてきて。セレネはルナの横を離れないで、何かあったらすぐに呼んでね」

 ルナの横にセレネを残して三人はカガミの部屋に向かう。カガミが扉を開くと、今まで何度か入ったこざっぱりとしたよく片付けられた部屋は、よくわからない物体の瓶詰めや、古臭い器具が几帳面に並べられてはいるが、荷物の量が多すぎて雑多な印象を与える部屋となっていた。

「さてと、じゃあ二人とも入って。あっ、葉子ちゃんはその辺のものに触っちゃだめよ。魔法を制御できない暴走状態だから、もしかしたらその辺の魔具が反応しちゃうかもしれないから」

「わかった」

 言われなくても、わけのわからない物体にいきなり触るほど怖いもの知らずではない

「俺はいいのか?」

 カガミが押入れに頭を半分突っ込んだまま、

「恭一には護りの魔法を入れてるけど、本人の魔法で使うものじゃないから」

「魔法は足りなくなっても問題は無いのか?」

「精神力の類だから寝れば全快するわよ。葉子ちゃんなら三日間徹夜したら空になって身動き取れなくなるかな」

「そうか」

「そうよ・・・・・・・あったぁ」

 カガミが引っ張り出してきたのは、二種類の金属と小さな木箱だった。

「まずこの液体金属。古代において不老不死の薬と呼ばれた

「水銀か」

「だな」

知ってたの?」

「俺たち日本史選択でさ、先生がそういう脱線大好きなんだ」

「でも、最後までやらせてくれてもいいと思うわ。それでこっちは、そのまんま銀です。純度は99・9で、ふっる時代の何か聖人が清めてくれたものよっ

 なぜ怒る。

 そもそも、緊急事態ではなかったのか?

「それで、この箱は?」

「これはルナの遺髪。これでルナの体を作るのっ」

「なるほど、骨と血と神経か。だが元々の体は木製だ、相性はどうする?」

「それに気づくって事は魔法がだいぶ全身に行き届いてきたね。木と金属だから相性は悪くないよ」

「それは工業的にだろう

「うーん、何かもう逆転されちゃった?でも、これ以外に手が無いのよ。前にルナに使った分で神木は打ち止めだったから。代わりに神経部分や肉でかなりいい素材を使うわよ」

「肉だ、肉も忘れていた。まさかあるのか?」

「ううん、ルナの体はどこにも無いわ。代わりに私の腕を使おうと思うの。私の腕は黒の魔女としてあらゆる要素を持っているわ、だからつなぎ役としては申し分ないと思うの」

「確かに、そんな感じがする」

「じゃあ恭一、そこの鉈でスパーンといって」

「マジか?」

「まじっす。ほらほら、私が目をつぶってる間に・・・・・・・・・私、初めてなの、痛くしないでね」

「下ネタか」

「セレネの横で腹の中身ぶちまけてた人間の言うことじゃーな。んじゃ、いくぞ」

 恭一は部屋の隅に置かれている鉈を手に取り、カガミの腕に押し当て

「うわっ、そんな何の迷いもなく親代わりの腕に刃物を向けるなんてっ

「やれって言ったり、やるなって言ったり。どっちだ」

「だから痛くしないでって

 今日の姉さんはキャラが違うな

「んじゃやるぞ」

 カガミが目をそむけた瞬間、恭一が鉈を一気に振り下ろした。

 思いっきりいったか、何か嫌なことでもあったか?

「ぎゃーっ」

 わざとらしい悲鳴を上げ、切り口に血止めらしいよくわからない物体を塗りたくったカガミは、

「さてと、ヒーリングを始める前に。葉子ちゃんできる?」

「わからない、でもできる気がする」

「思ったとおりにやれば勝手に導いてくれるわ」

「わかった」

「じゃあわたしと恭一はセレネとどこかで待ってて

「俺も手伝う」

「あのね、腕だけくっつけて終わりってわけにはいかないから、脱がせるだけど見たいの?」

「外で待つ」

「セレネも外なのは」

「あの子は厄介な性癖持ってるから

「性癖ってどんな?」

「まぁ結構ヤバめだ。じゃ、セレネ連れてどっかに行くわ」

 恭一が部屋を出て行ってしまった。

「じゃあ私たちは始めましょ、早くこの腕の再生も始めたいしね」

「わかった」

 

 

 

 

 

「るぅなぁぁぁぁぁぁー」

 魂の抜けきったような腑抜けた声を上げて、セレネが窓に張り付いている。

「葉子がおびえて手元が狂っても知らねー

「それは困りますけど、でもルナが」

「だいじょうぶだ。葉子は器用だから」

「手先がいくら器用でも魔法に関しては素人もいいところじゃないですか」

「その辺はカガミが何とかしてくれるだろ」

「でもぉぉぉぉ」

「ガラス割るなよ」

「ナイスアイデアです。ガラスを割れば中に入れますねっ」

 実は恭一とセレネは家から閉め出されている、。恭一が鍵は閉めていないはずだが、カガミが何かしたらしく扉はびくともしなくなっていた。カガミが防犯用といいながら、半ば趣味で買ってきた外灯のおかげで明るいことだけは救いだった。

 カガミがそんなミスをするとは思えないがセレネの思ったとおりにさせてやろうと思ったというか、いちいち今のセレネに突っ込みを入れるのはめんどいので、

「がんばれー」

 応援することにした。

「えぇ、見ていてください」

 調子に乗ったセレネは明らかに大きすぎだろうっていう様な庭石に張り付くような姿勢から、ふらつきながらも持ち上げ、

「せやぁっ」

 ガラスに向かって落とすような動きで投げた。

「おぉっ、すげぇ」

 もちろんガラスは割れたりはしなかったが、

「きゃぁぁぁぁぁっ」

 色のついたガスが大量に噴き出してきた。

「すっかりまだらになったな」

「なんて凶悪な」

 セレネが自分の惨状を想像してつぶやいたのと同時に、

「あはははははっ」

 屋根から聞こえたのは、誰かの笑い転げる声と音。

「誰だっ

「あの声は・・・・・敵ではないですから、気にしないでいいです」

「そうは言っても、屋根の上に見ず知らずの人間を乗せておく趣味はないぞ」

「たちの悪いのぞき魔の類ですけど基本的には害はないですし、そのうちどこかへ行きますよ」

「それより先に落ちてきそうな気がすんな

「そんなたまじゃありません」

 ゲラゲラと笑い転げる声がようやく鳴り止んだころ、屋根の上から白い布がひらひら落ちてきてセレネの頭に落ちてきた。

「手拭いときたか」

「まぁ親切心として受け取っておきましょう」

 頭の上に乗っかった手拭いで顔と腕を拭くと、

「なんで色が変わるですかっ」

 赤と緑と青の塗料で塗りつぶされていたセレネの顔は、いまやショッキングピンクとオレンジと紫にまだら模様はそのままに色だけ変わっていた。

あはははははっ、色がっ、変わって

 始めのうちは普通の笑い声だったが、だんだんと息が続かなくなったのか喉から空気の漏れるような苦しそうな笑い声に変わる。

「つぼに入ったみたいだな。さっきより笑い声が激しい」

「えぇ、呼吸困難に陥っていますね、ちょっと殺してきます

「しまった暴走か

 セレネを捕まえようとするが、魔法で加速したセレネを捕まえられるはずもなく、壁を蹴って屋根の上に行ってしまった。そして、殴りあう音とちょっとやばい金属音が鳴り響き、異常にまぶしい光が輝いたと思うと、

「くっ、閃光弾なんて卑怯です」

 しっかりと右目にあざを作ったセレネが落ちてきた。

「負けたのか?」

「ドローです。私はあの女の服の乳と尻を丸見えにしてきました。見てくださいっ、なんと下着まで

 したり顔で笑って手に持った何かのキャラクターが描かれた布地を見せてきたが、残念ながら下着の切れ端を見て興奮する趣味はなかった。

「お前外道すぎるぞっ。これ使え

 先ほど落ちてきた手ぬぐいを屋根に向かって投げると物凄い勢いで手が飛び出してしっかりとつかみ、軽く手を振ってきた。

「あんな女に親切にする必要はありません」

「仲悪いのか?」

「異端尋問官と仲良くしたい人がいたら見てみたいです。あの方たちは罪を犯した異端を一人排除するために何百人という人を殺しても何とも思わないような連中なんですから」

「マジか」

「マジです」

「そんなの屋根に乗っけておいて平気か?」

「あぁ、あれならもういません。あなたが下着を凝視している間に跳んでいきましたよ」

「見てねぇっ」

「ホラホラ、ペンギンさんですよー、ちょっと伸びてますけど

「やめろって」

「二人とも五月蝿いって葉子ちゃんが」

 カガミが騒がしい二人に注意をしようと思ったのか窓を開けた瞬間

「今です

 魔法を使いセレネは走り出し、

「きゃぁっ」

 何かに激突した。

「あのね、窓を開けたからって結界が無くなるわけないでしょ。それからセレネ、それは水で洗えば取れるわよ」

「・・・・・・・・はい」

「じゃ、これお茶ね」

 カガミがグラスに入ったお茶を出してくれた。

「何これ?」

「カモミールティーの紅茶割り?」

「おっしゃれー」

「じゃあ静かにね。今から腕をつなぐから静かにね」

「はーいっ」

だっ誰が返事したのっ?」

「異端尋問官のようです。追い払ったと思ったのに、まだいたみたいですね」

「そう、飲み物いる?」

 カガミが聞いた瞬間、風を切る鋭い音を立てて鋼線が恭一とカガミの中間あたりに落ち、催促するように小刻みに揺れる。

「これに縛ればいいの?」

元気よく動く

どうやらそういうことらしい。

「でもこぼれますよ。確実に、馬鹿ですね、いたっ」

 セレネの後頭部に石が飛んできて、ついでに鋼線の張りが悪くなった。飲み物を貰えないことにへこんでいるようだ。

 取りに来ればいいじゃーか?

まぁ何かあるだろうきっと

「あっそうだ、水筒に入れてあげる」

 カガミはパタパタと奥に戻っていき、すぐに水筒を手に戻ってきた。

「相変わらず早いな」

「作り置きにしようと思っていっぱい作ってあったの・・・・・・・はいっ出来た

 カガミが水筒を鋼線に縛り付けた瞬間、水筒は夜空に飛び立っていった。

「おぉっすげぇ」

「・・・・・・・・あんなの、たいした事ないです」

「セレネぇ」

「な、何ですか?」

「何でもぉ」

「気になりますね・・・あいたっ」

 小石がまた飛んできた。

「あなたっ、持っててください」

 恭一にグラスを押し付け、

ぶっ殺しますっ

 物凄い勢いで走っていってしまった。

「後はよろしくー」

「ルナのことは頼んだ」

「だーじょうぶ。じゃねっ」

 窓を閉めて、ついでにカーテンまで閉めて行ってしまった。

「カーテンぐらい開けといてくれてもいいじゃーか?」

 一人さびしくカガミがくれたアイスティーを飲み五分ほど、ようやくセレネが帰ってきた。なぜか、

「なんで立ってねぇんだ?」

「わにゃにかかりまひたぁ」

「罠にかかったか?」

ひょうでひゅ。へんにゃ、くしゅりうひゃれまひたぁ」

「何があったかしらねーけど、お疲れさん

 力尽きたセレネに肩を貸してルナの治療が終わるまでの一時間ほどを、会話もなくさびしく過ごすことになった。

 

 

 

「さてっ、これでよしっ」

 プラナリア並みの再生能力を発揮し、いつの間にか恭一が切り取った腕が再生していたカガミが怪しげな草やら液体を混ぜた物体をセレネの口に漏斗を差し込んで無理やり流し込んだ。

「楽になったでしょ?」

 ゆっくりとした動きで手を閉じたり開いたりして、

「・・・・しゃい悪です」

 微妙にまだしびれているらしい。

「それで、セレネがやられるなんて珍しいじゃない」

「ひとり追い詰めたら、いきなり後ろからおしょわれました」

「狼は群れで行動するものだからね。まっ、この辺のウルブズは無茶する子達じゃないから」

「知り合いか?」

「葉子ちゃん鋭いね。そうじゃないかなって子は何人か目星をつけてるけど、正解かは知らないし、確かめるつもりもないわ」

「なんでだ?確かめりゃいいじゃ

「普通の人として恭一と一緒にいたかったからかなー」

「なっ」

「そういえば、どうして先生はこちらに?」

「恭一がいていいって言ってくれたからかな・・・・あっ、恭一が生まれる前に死んじゃったお祖父さんの恭一ね」

「なるほど。まぁそれ以上を聞くのは野暮ですね」

「まさかカガミは俺のばあちゃんなのかっ

「いやいやいや、年はいってるけど違うよー」

「あっなんだ」

「それで、彼女はなんだ、人間なのか?」

「うわっ、俺があえて聞かなかったことを」

「当然の疑問ですから仕方ありませんね・・・・・・・・・先生、先生は確か記憶を移す鏡を持ってましたよね

「都合のいい記憶を写すやつならねー。珍品の類だね、作った魔術師は何のために作っただろうねー」

「意外と需要はありそうですよ。まぁ今回の場合、大筋があってれば問題ありませんし映像のほうがいいでしょう」

「わかった。それじゃあ持ってくるから、待っててねー」

 

 

 

 

「はいスープをどうぞ」

「ありがとう、お姉ちゃん」

 最近は調子がいいらしく、少しずつではあるがスープを自分の手で飲んでくれる。

 この調子でよくなってくれればいいですけど

「ルナ、お薬ちゃんと飲んでますか?前みたいに捨てたりしてませんよね

「うぅぅ、だって苦かったから。今はちゃんと飲んでるよ

「先生が今度捨てたら見捨てるって言ってましたよ

「うん、でもお姉ちゃん。あの先生、わたしなんだか怖いから」

「本当はやさしくていい人ですよ、ルナは嫌いですか?」

「ううん、嫌いじゃないよ」

「そうですかよかった」

 言ってみたもののルナが何か言いたそうな顔をしている。

 セレネは何が言いたいでしょうか?

 こういう顔のときは絶対に教えてはくれませんから、私が考えないと

「セレネ、時間だ」

 頭の上から靴まで真っ黒の女が現れセレネの腕をつかみ、無理やり連れ出そうと引っ張る。

「先生まだ」

「駄目だ。笑いは体にいいことは確かだが、過ぎれば体力がなくなり病気が悪化してしまう」

「ルナはそれを食べたらもう眠れ」

「・・・・・はい」

 ルナはスープを半分ほど食べたところで頭からシーツをかぶって丸くなってしまった。

「ルナ、ちゃんと食べないと」

「もう、おなかいっぱい」

「おいておきますから、食べてください・・・・・・・それじゃあ先生」

「行くぞ」

 先生に引っ張られるようにして部屋から出ると、先生はいつもの難しそうな顔をさらに厳しくしてセレネの口をあけ、小さな塊をセレネの舌の上に乗せ、

「長く留まるなと言っただろ・・・・・・・やる」

「・・・・・・甘い。あの、これは?」

「ルナにやろうと思ったが寝てしまった」

「優しいですね」

「患者には嫌われるよりは好かれたほうがいい。それからセレネ、すまないが私は旧友に会いに出かけることになっていて今から留守にする。夜までには戻るが一人で平気か」

「大丈夫です。ルナのことなら私に任せて楽しんできてください」

 

 

 

 

 なかなか本題に入らない

「これなら口頭で伝えたほうがいいと思う」

 巨大な姿見を前に最前列で座っているセレネに葉子がクレームをつける。

「もう少しです、待っててください」

「それより二人ほどキャラが違うほうが俺は気になる」

「いえ、当時は二人ともあんな感じでしたよ」

「うそだっ、おまえの願望だっ

「・・・・・・・姉さん」

「セレネが言うとおりだけど。二人とも日本語で聞こえることを気にしてよー。すごいんのよこれ、無駄に翻訳十六ヶ国語対応なのよー」

「思ったより少ないな。俺は魔法だし誰が見ても意味が理解できるだろうなって思ってた

「わたしもだ」

「皆さんすっかり興味なくしてませんか?」

「いや、重要なとこだけピックアップしてくれとか思ってるけどな

「わかりました。それじゃあ、先生が町に行ってしまった後からです」

 

 

 

 

ルーナッ

「お姉ちゃん、どうして?」

「先生は出かけちゃいました。今日はいっぱいお話できますよ」

「もう、お姉ちゃん・・・・・あれ?お姉ちゃん甘いにおい」

「あっ、ばれちゃいました?実は先生にキャンディーをいただいたです。本当はルナにあげるつもりだっただそうですよ」

「いいなぁ」

「そういうと思って先生にいただいておきました。本当は晩御飯のときに渡すように言われていたですけど」

「ありがと・・・・・おいしー、これって先生の手作りかな?」

「おなべにいっぱい張り付いてましたから、そうだと思いますよ」

「先生って料理できるだ」

 見た目的にはできそうも無いとルナは言っていると判断し、

「先生は料理上手ですよ。問題はありますが」

「問題って?」

「ひどい味付けの料理をわざと入れるです。大概は先生自身が当たってますけど

「意外とドジなんだ」

「そうなんですよ、この間なんて・・・・・」

 いつもなら先生に止められるところを二人は他愛のない話を続け、気づいたころには夜になっていた。

 

 

「ルナ、夕飯を持ってきました。今日は一緒に食べましょう」

 返事がない

 ただ、あまり元気のあるほうではないルナの声は扉の外まで聞こえることはめったにないので気にすることもなく部屋に入り

「ルナ?」

 なぜか上着を脱いでしまっているルナを見つけた。

「着替えですか?」

「う、うん」

 返事と同時に軽く咳き込む。

「そんな格好でいるから冷えるですよ」

 クローゼットから着替えを取り出し、ルナに着せてあげるついでに、ベッドの上におかれた上着を取ると、

「これは」

 シーツにはべっとりとまだ新しい血がついている。

「だいじょうぶだよっ、平気だから

 言いながらも咳き込み、血を吐いてしまう。

「セレネッ何をしてるっ

 そこへタイミングよく先生が見知らぬ二人組みをつれて戻ってきた。

 先生はセレネを突き飛ばすようにルナの横からどかし、

「・・・・・・これはクソッ」

「僕の出番のようだね」

「頼む」

「その代わり約束は守ってもらうよ」

「あぁ、黒は私が引き受ける。セレネ出るぞ」

「・・・・・・・・はい」

 先生に引っ張られ、庭にまで連れ出される。

「・・・・・・・言わなかったか。ルナの病気は治ることは無く、一生付き合っていく類の病だ」

「聞きました」

「だからこそ、回りが気をつけてやらなければならない」

「・・・・はい」

「ではなぜルナのことを考えてやらなかった」

「・・・・・・・楽しかったから、です」

「そうか、お前も子供だということを忘れていた私の責任か」

「そんな、先生のせいなんかじゃありませんっ、私の責任です

「すまない」

 沈黙が続き、

「セレネ、よく聞いてほしい。ルナはもう助からないだろう」

「そんなっ」

 先生はルナのそばへと走っていこうとするセレネの腕をつかんで引きとめ、

「話を聞け。それで何とかすることができる人を連れてきた。だが君とは一緒にいられなくなる」

「どうして、ですか?」

「ルナの魂を人工的に作られた体に移している。それで病とは無縁となる。だがそれは協会の助けがなければ生きてはいけない体なんだ」

「人工的に作られた・・・体?それに協会って」

「そうだな、それから説明しなくてはいけなかったな。実は私は医者じゃない。魔法使いなんだ。そして、私が連れてきた二人ももちろんそうだ」

 先生が指を鳴らすと小さな火がセレネの目の前、しかも空中に灯る。

「・・・・・すごい」

「魔法使いには互助組織のようなものがあるだ。それを仲間たちは協会と呼んでいるだ、だがそれに属するということは普通の人間とは距離を置くということなんだ、特に魔法使いとなる前の知り合いとは」

「どうしてですか?」

「魔法使いになると、理屈はわかっていないが年のとり方がゆっくりになる。そんな人間は一箇所にとどまっていたらまずいだろ」

「なら、私も一緒に行きます」

「普通の魔法使いなら、それもできた。だがルナの場合は周期的に魔法を補充しなくてはいけない肉体だ。おそらくは本部、魔法使いしか住んでいない村があるだが、そこに住むことになるが、そこは普通の人間は住むことは許されていないだ」

「そんなっ・・・・・・何とか、何とかならないですかっ」

「セレネ、あきらめろ。どこかで生きている、それだけでいいだろ」

「まだ方法があるじゃないか。何故教えてやらないだい?」

「ヨオ、終わったのか?」

 ルナのところに残してきた男のほうが姿を見せた。

「いや、ルゥが今、基本設定をしてるんだけど追い出されてしまっただ」

「そうか、ルゥなら大丈夫か」

「あのっ、それで方法って」

「無理だ、あきらめろ」

「そうかな、確かに年は行き過ぎてるけど

「あぁ、今からはじめたところで半人前が精一杯だ」

「それでもいいじゃないか。彼女は魔法使いになりたいというわけじゃなくて、あの子と一緒にいたいだけなんだから」

「・・・・・・・セレネ。ルナと一緒にいたいか」

「はい」

「つらいぞ」

「ルナと一緒にいられるのでしたら」

 

 

 

 

「・・・と、まぁこういうことがあったわけです。感動しました?」

「今の一言で台無しだ」

「ちょっと泣いちゃったりしていいですよ、葉子さんはどうです?」

「セレネは意外と年なんだな」

「なっ」

「わたしが見たところ八十代か」

「そんなこと言ったら先生のほうが、よっぽどババァです

セーレーネーちゃ、いったいなんて言ったのー」

 満面の笑みを浮かべたカガミの通常よりもかなり怒っているときだということを恭一は知っていた。だから

「セレネ、逃げろ」

「え?」

「逃がさないわよー」

 セレネの肩をがしっと掴み、

「えいっ」

 肩に足を絡めてパタンッと倒れる。

「じ、地味に痛いです

「間接か?」

「最近はまってるんだ

「恭一、そのことは外で話さないほうがいい」

「わかってる」

 結局セレネが半泣きになるまでカガミの関節技フルコースは続けられた。

 

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