〜サーパント・スーアの見聞録

フリーポートの地下にあるサーパントの地下水路にちなんだ物語を集めた本だ。寓話、空想、それとも真実? それは誰にもわからない……。


大蛇の威をかりて

この物語に登場する賢いカエルは、サーパントの地下水路の奥深くにいるサーパントの神の名を語って、たんまりとご馳走をせしめる。

Frogは常々、自分ほど頭がよい者はサーパントの地下水路にはいないと自慢していた。あるとき、彼はサーパントの神のもとを訪れてこう言った。「もしオート麦を1粒もらえたら、それをあなたのために素晴らしいご馳走にしてみせましょう!」サーパントの神はそれを面白いと思い穀粒を与えた。Frogはサーパントの地下水路を出て、テンプルストリートに向かった。ここに住むラトンガは、サーパントの神の存在を知っていて、超自然的な力に畏怖の念を抱いているのだ。Frogがサーパントの神に捧げる、祝福されたオート麦を持っていることを話して、一晩泊めてくないかと頼むと、ラトンガのリーダーは喜んで求めに応じた。

供物の麦粒を運んできたというFrogをねぎらって、Ratongaはご馳走を用意した。ところが、夜中に皆が寝静まると、Frogは麦粒を、こっそりニワトリに食わせてしまった。そして翌朝とび起きると、大声を張りあげた。「このRatongaは、供物の麦を盗んだ!」 Frogはラトンガを盗人に仕立ててしまった。おびえたRatongaはニワトリを差し出して、大蛇の神には、消えた供物のことを内緒にしてほしいと懇願した。Frogはニワトリを取りあげるとその足で隣村まで歩いていった。そこで彼は、大蛇の神に捧げる供物のニワトリを運んでいるのだから、彼のために宿を提供するよう村人たちに要求した。

村人たちはFrogと神聖なニワトリのためにご馳走と寝場所を用意した。真夜中になると、Frogはこっそりニワトリを殺してその羽根を村中にまき散らした。そして翌朝になると大声で叫んだ。「この村の誰かが神聖なるニワトリを殺してしまった!」 大蛇の神の怒りを恐れた村人たちは12頭の羊を差し出した。さて、その羊の群れを伴ってFrogが道を歩いていくうちに、毒ヘビを退治したばかりだという男とすれちがった。「毒ヘビの死体をくれたらこの羊を全部やろう」 Frogは男にそう持ちかけた。もちろん取り引きは、成立した。

次に立ち寄った村では、Frogは村人たちに毒ヘビの死体を見せ、こう言った。「このヘビは大蛇の神の御子で、忙しい1日を送って疲れておいでなのだ。くれぐれも御子の眠りを妨げたりしないように」 朝になって村人が起きだすと、待ちかまえていたFrogは叫んだ。「誰かが大蛇の神の御子を殺してしまった!」 おびえた村人たちはFrogに、冬にそなえて蓄えていた食糧をすべて差し出して平身低頭した。Frogはその食糧をすべてサーパントの地下水路に運ばせた。うなるほどの食糧を大蛇の神に捧げ、1粒の麦をこれほどのご馳走に換えられたことをFrogはしきりと彼の神に誇ったのだった。


魔法の大蛇

この物語に登場するずる賢い大蛇は、自分よりさらに賢いヒューマンの手にかかって最期をとげる。

昔々、フリーポートの街ができたばかりのころ、うら若き美女が住んでいた。彼女には大勢の求婚者がいた。美女は1人をもてあそび、別の1人に思わせぶりなそぶりをする、ということをしたあげく、最後にはもっとも金持ちでハンサムな男を結婚相手に選んだ。ところが結婚式を挙げてまもなく、夫は急死してしまった。未亡人となった美女は夫のことを嘆き悲しんだが、涙も乾かぬうちに別の金持ちでハンサムな男と再婚した。ところが2番目の夫も、式から1週間もたたないうちに、突然亡くなってしまった。

その未亡人は2番目の夫の死も嘆き悲しんだが、それほど時間が経たないうちに次の夫を見つけた。このようなことが何度もくり返された。うら若き美女は、求婚者たちの中から必ずいちばん金持ちでハンサムな男を選んで結婚するが、結婚式から1週間もたたないうちに夫が急死するのだ。そうこうするうちに、美しい未亡人は1年のうちに6人の夫と結婚したのだ。さらに彼女は、7回目の結婚式を挙げた。

7番目の夫は、6人の前夫ほど金持ちでもハンサムでもなかったが、非常に賢い男だった。彼はこの美女の周辺には伺い知れない謎の部分があるに違いないと思い、真実を暴こうと決心して、新妻の挙動を逐一見守っていた。そんなある日、彼女はサーパントの地下水路の通路にこっそり入っていった。好奇心をそそられた夫が後をつけて下水道に入ると、彼女はトンネルの最深部まで行って立ちどまり、美しい声で歌い始めた。するとやにわに水の面が激しく揺れ動き、黒い水の中から大蛇が姿を現した。

夫が見守る中で、女は両腕を頭の上に掲げるとヘビの姿になって、先ほどの大蛇の回りでぐるぐるととぐろを巻いた。夫は悟った。彼女が魔力をもつ大蛇で、フリーポートの男たちを誘惑して毒牙にかけようとしていることを。アカデミーの研究者でもあった夫は、数多くの呪文を知っていた。そしてその1つを唱えると、2匹の大蛇は巨大な石柱と化した。女の夫になった7人の男のうち、生き残ってこの話を伝えられたのは、最後の1人だけだったのである。


大蛇の皮

この物語に登場する大蛇は、騙されて皮を取られてしまう。

昔々、ゴミで発明品を作って暮らしている若者がいた。彼はよく街の地下にある下水道まで降りて、市民の出したゴミを拾っていた。あれやこれや見つけたものをいろいろ組み合わせると、思いもよらない面白いものができあがるのだ。ある日、若者はサーパントの地下水路でせっせと仕事に励んでいた。ところが夢中になって働くうちにたいまつが燃えつきて、暗闇の中にとり残されてしまった。どうにかして抜け出せないかと思案していると、彼の耳に美しい歌声が届いた。「私はとこしえにヘビであるゆえに……皮よ、私の体から落ちなさい!」

暗闇に目が慣れるにつれて、発明家は魅力的な若い女がいるのに気がついた。女は優雅な手つきで大きなヘビの皮を壁に掛けている。この世のものとは思えないほどの美女だった。彼はこっそりと近寄ると壁に掛かっているヘビの皮を取ってポケットに押しこんだ。女に声をかけると、彼女は苦しそうにこう口にした。「私はとこしえにヘビであるゆえに……皮よ、私のもとに戻りなさい!」 ところが、皮は彼のポケットの中に入っていたので、女のもとに戻ることはなかった。女は自分が罠にはめられたことを悟った。それでも男に好感がもてたので、結局彼女は男のプロポーズを受けて、結婚することにした。

2人は地上でとても幸せな生活を送り、やがて1人の息子をもうけた。息子は大きくなると、母親にとってサーパントの地下水路が特別の場所であることを知って、彼女が魔法で姿を変えた大蛇ではないかと考えるようになった。そのことを母親に問いただすと、強い調子で否定された。だが、父親に同じことを聞くと、「うん、お前の言うとおりだ。母さんのヘビの皮は寝室の引き出しに隠しておいているんだよ」という答えがかえってきた。家に戻ると、父親は引き出しを開けてその皮を取り出した。

その翌日、息子は母親に言った。「母さんが本当はヘビだって知ってるよ! 証拠の皮を見たもの!」 そして母親を寝室に連れていき、引き出しを開けた。皮を目にしたとたんに、母親は叫んだ。「私はとこしえにヘビであるゆえに……皮よ、私のもとに戻りなさい!」 すると皮が引き出しから飛んできて母親の体を覆った。母親は息子に礼を言うと、ずるずると這って出ていき、二度と夫と息子の前に姿を現すことはなかった。

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こういうどこかで見たことのある童話のような話は大好きです