「挑戦」

 パリのシャルル・ド・ゴール空港に降り立ったのは午前6時前だった。10月ということもあり、まだ辺りは真っ暗で静けさが漂っている。大学4年の秋、初めて海外の地を踏んだ瞬間だった。

 この旅は卒業論文制作における研究の一環。私は「日本競馬の再生は可能か」という問題に取り組んでおり、日本の競馬と海外の競馬、その運営方法やサービス方法を比較するため、7ヶ国の競馬場を周る調査の旅を自分に課していた。

 しかし一口に競馬場を周るといっても、それはなかなか大変な作業だった。日本のように交通の便がよいわけではないし、道を尋ねようにも英語が下手でうまくコミュニケーションも取れない。それに目的の競馬場の位置も正確に把握しているわけではなかった。お金の余裕もなく、できるだけ安い宿を捜し歩きやりくりしていく。まさにこの競馬場歴訪の旅は私にとっての「挑戦」だった。

 探索の途中、道に迷って深夜田舎の村をさまよい歩いたこともあれば、延々と続く何キロもの道のりを、重い荷物を背負いながら独りトボトボ歩いて競馬場を目指したこともあった。つらかった。でもそんなとき、「必ず調査をやり遂げて、誰にも真似できない卒業論文を仕上げるんだ」そう自分に言い聞かせて闘志を奮い立たせていった。

 約2ヵ月後、私は無事日本に帰ってくることができた。予想以上のすばらしい研究成果を引っさげて。苦労すればするほど、それだけ得られるものも大きいということを実感した。そして今、私は記者になることを目指している。ヨーロッパで培った粘り強い探究心を生かし、成果を得る喜びを求めて。世の中にはさまざまな汚職事件や凶悪な犯罪が存在している。そんな社会悪に対峙する、私の「挑戦」第2幕はまさに始まろうとしているのだ。