「つくる会」教科書合格に対する国内外の声

●2001年4月

 
 来春から小中学校で使用される教科書に対し文部科学省が行った教科書検定
の結果が4月3日、公表され、扶桑社発行教科書も合格となりました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/04/010402.htm
 検定審議会総会が開催された3月29日には正式に合格が決まったもようで、
同日には文部省が中国駐日大使に結果を連絡、30日には外務省が中国、韓国
領大使館に検定の資料を手渡したとのこと。しかし、市民には合格発表の日程す
ら知らされず、マスコミの「談合」をうかがわせ、3日17時ころに突如一斉報道と
いう大変不愉快な「公表」でした。
 即座にアジアからは扶桑社発行の教科書の検定合格の取り消しを求める声明
が相次いでいます。日本政府の姿勢は終始欺瞞に満ちたものですが、アジア市
民が強くこの教科書に「脅威」を感じるのは、教科書からの加害の隠ぺいが、そ
の背後にある日本の改憲、改教育基本法に代表されるアメリカと一体となっての
アジア侵略に向けた「戦争をする国」づくりの動きと同根だからです。

 発表前には韓国市民を中心にサイバーデモも行われました。3月26日には、
韓国の「太平洋戦争犠牲者遺族会」の金鍾大会長ら旧軍人・軍属十六人と元
「慰安婦」八人、遺族十六人による訴訟を東京地裁が「やむを得ない損害で、日
本と韓国との協定に基づく措置法により請求権は消滅した」などと棄却し、続く
29日には、女性十人(うち一人死亡)が国に総額三億九千六百万円の損害賠
償などを求めた「関釜裁判」の控訴審判決で広島高裁は、「戦争損害に対する
補償の在り方は、立法府の裁量的判断にゆだねられている」として国に総額
九十万円の支払いを命じた一審・山口地裁下関支部判決を取り消し、「戦後補
償問題であるとの理由で、直ちに立法不作為を違法とすることはできない」とし
て請求を棄却した数日後の出来事です。

 一部の報道がこれを「ネット攻撃」(「つくる会」HPでは、「サイバーテロ」)と表
記したため、国内ではあたかも「犯罪行為」がなされたかのような印象を持った
人もいたようですが、この表現はネットデモを悪意に解釈した、れっきとした人権
侵害です。「サイバーテロ」と決めつけ、その言葉が一人歩きしていわれなき自己
規制を強いられることは、基本的人権である表現の自由が奪われることです。

 外務省は二日、韓国外交通商部に対し、被害状況を説明し『こういうことが起
きたことは残念で、善処してほしい』と要請(産経4月3日)したとのこと。
 韓国警察当局は、規制の法的な根拠が不明のため、静観。
 この国では、市民の示威行動は右翼団体の騒々しい街宣車行進すらデモ行進
に、従来のデモ行進はカラフルなパレードにと、おとなし系になってきているため、
政府にはこのアクションは「過激」に映ったようです。韓国市民は、日本政府はな
んと扱いやすい国民を持った幸せ者かと思ったことでしょう。あるいはさすが天皇
のいる国だとも。
 
 最近「ハッカー」もサイバーテロと混同されて迷惑しているようです。総務省郵政
事業庁(旧郵政省)では、「情報通信ネットワークや情報システムを利用した電子
的な攻撃」を「サイバー攻撃」と総称し、「脅威」の技術開発課題の分類の中に、
不正侵入(なりすまし)、データーの盗聴・破壊・改ざん、サービス不能攻撃など含
めていますが、一応「サイバーテロは、個人や一企業を狙ったハッカー等とは異な
り、国民生活に重大な影響を及ぼすレベルのものであり、危機管理計画策定にあ
たっては、発生段階で一定以上の規模で国民生活に影響を及ぼすものを対象と
する。」とあいまいながら区別しています。
 改ざんといいましても、「ウォー・マニュアル」を「新ガイドライン」、「スパイ活動」を
「情報交換」などと「改ざん」して、関連法を成立させ、アメリカの武力支配に日本が
自動的に荷担する仕組みを作り上げていることのほうが、アジア市民にとって「脅
威」は現実的です。

 サイバーテロというのは、自らの機密管理の甘さを棚に上げてペンタゴンはシス
テムがインターネット経由の侵入を受けたと大騒ぎをし、それをネタに米国議会で
は、「電子の真珠湾奇襲攻撃(エレクトロニック・パールハーバー)がいつ起こるか
分からない」と膨大な予算獲得に成功したあたりから頻繁に使われるようになった
いわば「空想敵」のようなもので存在すら疑わしいものです。
 インターネットが市民権を得てから20年余が過ぎ、「エレクトロニック・パールハー
バー」という言葉が生み出されてから10年たちますが、ハッカーも車を改造するよ
うには通信衛星を改造するわけにはいかないらしく、幸か不幸か今もって原発も順
調に稼働しています。そこで軍事的脅威だけでは説得力が薄れつつあるため、今度
は「サイバーテロリズム」はいまや米国民生活の一番の脅威だとうちあげ、「その脅
威は、ミサイルや大量殺戮兵器の拡散の比ではない。民間のインフラはすべて、サイ
バーテロリズムの脅威にさらされている」という手法で「仮想敵」を維持、軍隊もまた
「情報分野で優位に立つものが、21世紀の世界を制覇する」などと持ち上げていると
いったところ。それに加えてこれまでの市場原理をインターネットの世界にもそのまま
押し込もうとするからややこしいことになっています。
 しかし軍需産業やIT企業やコンピュータセキュリティコンサルタントなどに、市民の
インターネットライフの自由を奪う権利はありません。

 日本もこれをまねて、自民党が「危機管理プロジェクトチーム」を作り、「サイバーテ
ロ対策−その脅威と対応策」なる会議を開き、スパイ映画よろしく「脅威」について学
習」し、アメリカに比べれば微々たるものですが国会での質疑で予算獲得。
 その一端は畑恵さんHP「サイバーテロ対策−その脅威と対応策」議事録(99/2)
−http://www.k-hata.or.jp/cybertero.html−参照。

 1987年、情報システムを客体とする電子計算機使用詐欺、電子計算機損壊等業
務妨害、電磁的記録不正作出、電磁的記録毀棄等を新たに処罰の対象とするた
め、刑法の一部改定中央省庁等のホームページの改ざんが相次いだことから、98
年6月、警視庁がサイバーポリスの体制整備を柱とするハイテク犯罪対策重点プロ
グラムを発表。郵政省も、電気通信システムに対する不正アクセス対策法制を公開。

 1999年4月、インターネットでアダルト画像を販売する業者を規制する「改正風俗
営業適正化法」(新風営法)施行。
 99年8月12日、組織的犯罪対策三法(通信傍受法)、改正住民台帳法が成立。
 盗聴法(通信傍受法)は、表現の自由[憲法第21条1項]、検閲の禁止[憲法
第21条2項]に対する例外規定(違憲)。

 99年9月、内閣に警察庁長官官房長、防衛庁運用局長を含む情報セキュリティ
関係省庁局長等会議(「関係省庁局長等会議」)を設置。情報セキュリティ対策推
進室を中心に「サイバーテロ対策に係る特別行動計画」策定。総務省郵政事業庁
は別立てで、各電気通信事業者が「電気通信事業における危機管理計画」策定。

   2000年12月、官民の連絡連携体制の構築、緊急対処体制の強化等を内容とす
る重要インフラのサイバーテロ対策に係る特別行動計画を策定。2001年1月、IT
戦略本部のもとに、民間の有識者及び重要インフラ代表者から成る情報セキュリ
ティ専門調査会を設置。サイバーテロ演習もやりたいが「問題は、今の法制の中
で、どれで対応ができるか。つまり、それは国家としてしかけるとは限りませんで、
本当に二、三人のそういうマニアのような人たちがしかけてくるかもしれない。そし
てまた、それを武力攻撃とは、とてもじゃないが言うことは難しかろう。そうすると、
防衛出動なのか治安出動なのか何なのかということになりますと、今の法体系の
中でなかなか難しい。それは、我が国に限ったことではございません。各国共通
の問題でございます。」(151回-衆-安全保障委員会-03号 2001/02/27石破副
長官)
 「不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)」(法律第1
28号http://www.npa.go.jp/hightech/fusei_ac2/houann.htm)が、第145回通
常国会で成立、2000年2月13日に施行。コンピュータシステムに不正侵入(ハ
ッキング)する行為を処罰。「(アクセス管理者は)不正アクセス行為から防御す
るため必要な措置を講ずるよう努めるものとする。(第5条)」が、同法の「不正
アクセス」とは「アクセス管理者が定める方法」以外のアクセスのこと。
 データを改ざんしたり、破壊したりする行為(クラッキング)には、「効き目」はほ
とんどない。施行後6か月間に警察庁に報告のあった不正アクセス行為の認知
件数は35件、アクセス管理者からの届出が17件で最多。
  防衛庁では2001年度、サイバー攻撃に対する対処手法の研究等を含む「IT
革命への対応」費として1,398億円獲得。
  かくして、政府自民党内には、「サイバーテロ」脅威論が確立。