社長の高額報酬に注意

企業統治のありかたが分かります

 アメリカの経営者で数億円程度の年収がある人は珍しくありません。業績悪化した企業とか、なんとか取引所のCEO などでもそれくらいの年収をとっている人もいるようですが、大企業の経営者の年収インフレはまだ収まっていないようです。ブルムバーグが伝えるところによると、米大手企業243社(02年の売上6000億円以上、以下1ドル=120円で換算)における00〜02年の3年間のCEOの平均給与は、なんと14億円にもなるそうです。最低は、バークシャー・ハザウェイのCEOで世界2位の富豪バフェット氏で4千万円、下から二番目がマイクロソフトのバルマー氏で8300万円でした。彼らは、すでに世界を代表する富豪であり、配当収入が巨額なものですから、会社からの現金収入にはこだわりがないのでしょう(マイクロソフトの過去のビジネスのやり口を知っている私としては、バルマー氏が金銭的に清いとは思っていませんが)。一方、最高がアップル・コンピュータのジョブス氏で263億円だったそうです。ジョブスの場合は、ストックオプションが大きかったのと、社用ジェットを事実上の私用にしていまっている分の費用総額101億円なども含まれます。ストックオプションについては株価の値下がりで価値がないに等しいので、実際キャッシュで受け取った過去3年間の合計の報酬は私の推定だと130億円程度と思われます。業績の悪化した02年は2.7億円でした。このほかシスコ、SPX、オラクル、コカコーラ、シティーグループ、EMCなどのCEO も槍玉に挙げられています。ジョブスに限らず、年収が数億円くらいある人たちは、つきあう人たちが皆、自家用ジェット機をもっていることが多いため、そのうち自分も欲しくなってくるようです。さらに離れ小島に別荘を買ったりすることが多いようですが、そうした場所には自家用ジェットでしか行けないため、ますますジェット機を手放せなくなる、といった「悪循環」に陥るそうで、いくら金があっても足りなくなるという状況にある人も少なくないと聞きます。

 ところでファンドマネージャー世界では、能力の計測方法が確立されつつありますが、経営者の能力を計測する方法、その人が企業に与えた付加価値というのは、計測が難しいと思います。結局、お手盛りみたいな給与測定が行われているのでしょうか。経営者市場というのは、私の目には、とても採算の合わない価格付けが行われているようにしか見えません。ブルムバーグの記事でも、企業の売上、株価の上昇率とCEOの給与との相関関係は20% 程度しかないとしています。多分、上記の槍玉に挙げられている企業では、CEOのわがままに歯止めが効かない体制になってしまっているのではないでしょうか。

ストック・オプションによる高額報酬は意味があるか

 上記の通り、00年以降も高額報酬に占めるストック・オプションが大きいことがわかりました。インテルは、ストックオプションを会計上の費用に計上することに、反対している企業の代表格です。ストックオプションがないと、優秀な人材が採用できないといっていますが、ところで、この会社の製品は、そんなに優れて革新的なのでしょうか。マイクロソフトとタッグを組んで競争相手を振り落としてきたため、独占的な利益を確保できているという面が大きいのではないでしょうか。半導体回路自体にもバグは多いようですし、半導体の設計自体が、他の規格に比較して優秀だったとは思われないのです。MPU以外の事業では、市場で評価されている製品は少ないですし、ストックオプションが「優秀な人材」を集めたとは思われないのです。年収1億円をもらうエンジニアは、本当に5千万円もらう人より会社や株主にとってそれに見合った分の貢献してきたのでしょうか。

マイクロソフトとライト兄弟

 これとは反対に、報酬より、名誉など別のことに高い価値を見出す人たちもいます。たとえばプログラマーの世界には何人かのスターがいます。エディターを最初に開発したリチャード・ストルーマン、リナックスの開発者、リーナス・トーバルト(この人はフィンランド人)といった人達です。こうした人たちは、必ずしも自分の技術で大もうけしようという発想はあまりなく、むしろ、社会的な貢献をすることに満足を感じているという印象を受けます。ところで、優秀なプログラマーの中には、高額の報酬より、そうしたスターと同じ組織で仕事をすることに満足する人たちも多くいます。アメリカ人が皆、金をインセンティブに生きているという、最近流行していた即物的な考え方は、すべてのアメリカ人の考え方を反映しているわけでもないのです。

 ところで、同じような問題は、昔からありました。人類で始めて飛行機を開発した偉人として知られているのはライト兄弟ですが、実は、ブラジル系フランス人サントス・デュモンという人は、まったく独自に飛行機を開発し、公証人を立てて公式記録を残したのはこちらが先だったという話があります。今でもブラジルでは、ライトのほうの最初の飛行の目撃者がライトの知人の5人でしかも直後に写真の発表もなく(写真発表は4年後の1908年だった)、単に斜面をつかって浮いただけの可能性もあるとして、人類最初の飛行と認めないとの議論もあるそうです。真意はともかく、その後のライト兄弟は、飛行機のライセンスを販売し大きな利益を上げたそうですが、ディモンのほうは、ただでライセンスを公開したそうです。しかも、ライトのほうの規格に基づく飛行機は墜落事故が多かったそうですが、ディモンのほうは、ほとんどなかったと聞いています。なんだか、今のマイクロソフトとオープンソースの関係のようです。この時期から、アメリカの経営者は、知的所有権を押さえることで大もうけができるという発想を持っていたようです。

アメリカ型の所得配分でよいのでしょうか

 ニューヨークに住んでいると、よくホームレスの人たちを目にします。その数は世界の主要都市のなかでもトップクラスでしょう。一方で、年収、数億円以上の人たちも多くこの町には住んでいます。以前、世界銀行のデータで調べたのですが、日本や欧州はアメリカと比較すると、所得のばらつきがずっと小さいことがわかりました。この点、中国社会はアメリカと似ていて、所得のばらつきは大きいのです。この違いは社会の犯罪発生率の高低にも反映すると思いますが、皆が中流意識を持っている社会のよさというのもあると思います。90年の後半の一時期、アメリカ企業のように経営者が高額の報酬を取る形にしないと社会が活性化しないという乱暴な議論がありました。「そこそこ」の企業業績に多大に影響のない程度の報酬をもらうのはかまいません。しかし企業業績と関係なく、10億円を超える報酬というのは企業の成長にとって必要だとは思えませんし、そうした企業が永続的に成長するとも思われません。




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