安心を売る金融サービスとは

プライベートバンク

超長期の視点

 日本では、銀行の破綻を心配する方が増えています。日本の資産家の方向けのサービスは、銀行がつぶれないという安心という点をセールストークにする外資系金融機関も少なくないようです。しかし、つぶれないとしても、提供できるサービスにがどこもあまり変わり映えがしないというのも事実です。資産家の方にとって、投資期間は何十年にもわたるので、その金融機関で扱っている投資信託の3年程度の相対パフォーマンスが良くても、あまり意味がないのではないでしょうか。パフォーマンスが悪いよりは良いに越したことはありませんが、それ以上に信頼できる手法で長期間運用できるのか、という顧客の心配に自身をもって対応できる金融機関はどれくらいあるのでしょうか。この点では、日本もアメリカの金融機関も失格です。担当者が何十年も同じ人、あるいは同じスタンスで対応してくれるわけではないからです。  

 世界中の金融機関の多くの経営者は非常に短期的なものの考え方をしているように思います。米国式会計基準では、3ヶ月ごとに決算を発表し、投資家も良い印象を持ってもらうのが仕事です。そうした環境にいれば誰でも短期思考になりがちです。さらに、証券会社の場合は、運用会社と違い、そうした傾向が強まります。機関投資家でも個人投資家でも、顧客に短い期間で収益を上げたいという人たちを相手にするため、サービスの内容もそうした短期予想を中心にするようになるからでしょうか。最近では、金融機関のリストラが進み、資金運用、顧客サービスとも長期的に安定して同じ内容を提供できる会社は更に少なくなっているような気がします。これのでは、自分の子供や孫の代まで「安心」して任せることのできるサービスを期待している顧客を満足させることはできないはずです。  

 そうした顧客の長期のニーズに対応してくれるのが、ひとつにはスイス等に拠点を置くプライベートバンクだと思います。以前、私は数年ほどスイスに勤務していたことがありますが、そこでの顧客の多くはプライベートバンクで、そこでは日米とも異なる金融サービスがあることを知りました。古い銀行になると、歴史はナポレオン戦争時までさかのぼりますが、現在世界の大国で当時存在しなかった国もあります。それほど長い期間にわたって顧客の資産を守ってきた実績は日米の「新興」の金融機関には、まねができない部分です。

守秘義務

 スイスという国は、銀行の守秘義務を国の収益の源泉と位置づけているようですが、これを守るためにアメリカ、欧州といった国々とタフな交渉ができるというのもスイスのプライベートバンクの強みでもあります。最近、英領マン島では、英国の顧客に関しては、守秘義務を適応しない(それ以外の顧客には以前と同じように守秘義務が適応される)という変更を行ったと聞きました。またスイスのお隣のリヒテンシュタインでも、マネーロンダリング操作に積極的に協力するようになっているようで、何件かその容疑で摘発されているケースがあると聞きます。スイスで、そうした話しが聞かれないのは、何年も前から自国内でマネーロンダリング防止のシステムを強化していたり、犯罪にかかわるものについては捜査に協力していたからです。さらに、スイスの金融界では、犯罪にかかわった人間は事実上スイスの金融界では仕事ができなくなります。こうした自浄作用が働いていたことも、スイスが外国政府と交渉するときの強みになっているわけです。  

 それから、社会の安定性や国民のものの考え方というのも、守秘義務を支えるのに重要なファクターだと思われます。スイスの人たちは慎重すぎるくらい慎重なものの考え方をします。たとえば、ある大手スイス銀行の役員会議では、毎年、もし核攻撃があったらどういう対応をとるか、といったことが議論されると聞いたことがあります。この銀行では、スイスのホストシステムが核攻撃にも耐えられる場所に管理されているほか、カナダにもミラーサーバーを設置しているそうです。また、スイス中どこでも、地下に核シェルターが設置されています。私が住んでいたアパートの地下の倉庫も日ごろは物置に使用していますが、「有事」のときは、厚さが30センチほどもある扉を閉め、放射能汚染が低下するまで何週間か閉じこもるという使い方をするそうです。この国では、どれほどコストがかかろうとも安全を確保するためあらゆる手を打っているということがご理解いただけるかと思います。これと比較するとカリブのオフショアというのは、少し心もとない気がします。  

 残念ながら、高度なサービスを維持するためには、顧客の数は無制限に増やすことはできません。最低受け入れ金額も最低億単位でないと、良いサービスは期待できないと思われます。「安心」を買うのは、安くありません。



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