キャプテン

 

‥‥そこでだ。オレはそいつらに言ってやった。
 『耳の穴かっぽじってよーく聞くがいい!オレさまの名はキャプテ〜〜〜ン・ウソップ!』てな。」
「ひょぇ〜!ウソップ、カッコいー!」
...おーお、またアイツは吹いてるよ...背後から聞こえてきた会話に、サンジは心の中でため息をつく。
...チョッパーもよくもまぁ、毎回毎回長ッパナのウソに騙くらかされるもんだ...
この船の船医、トナカイで半分人のチョッパーは、長いこと人と交流していなかったせいもあり、
とにかく『疑う』という言葉を知らない。何でも信じてしまうので、うかうかしてると変な知識ばかり身につけてしまう。
それは純粋で無垢な証拠でもあるのだが、なにせここはグランドラインでこの船はまがりなりにも海賊船だ。
お綺麗ごとだけで渡っていける世界じゃない。
話に盛り上がるふたりを見て、サンジがそっとため息を漏らしたのは彼の行く末を案じてのことだ。
「あれ?でも、この船のキャプテンはルフィだろ?どうしてウソップもキャプテンなんだ??」
「お前にはきちんと言ったことはなかったかぁ‥‥実はこの船のキャプテンはオ・レ・だ。
 能ある鷹は爪を隠すって言うだろ?アイツに譲ってやってンだ、はっはっは〜!」
...?
ふとサンジの手が止まる。
「そういやウソップ、この船の船長はどうしてルフィなんだ?」
考えてみればアイツは船長に向いてない。強いことは認めるが、あの性格と計画性の無さと食い意地だ。
食い意地はまぁ置いておくとしても、他のクルーがいなければとっくに漂流か餓死ってとこだろう。
「だからよ、オレがルフィにキャプテンの座を譲ってだ‥‥」
「てめェ‥‥真面目に答えねェと鍋でコトコト煮込んでやるぞ!」
「ぎゃーっ! い、い、いや、オ、オレが仲間になった時は、もうヤツが船長だったから知らねェよぉ!」
瞬時に真っ青になったウソップは、今度は真面目に答えたらしい。
フン...なんでアイツなんだろ?

「サンジーーッ!腹減った〜〜っ!!」
キッチンのドアを蹴破るような勢いで飛び込んできたのは当の船長。
「てめェはどうしてもっと静かに入って来れねェんだ!?それにもうすぐメシだ。それまで辛抱しろ!!」
「えぇぇ〜〜?!死んじまうぅぅ!!」
手足をばたつかせて暴れるルフィに、その場の全員が『ホントになんでこいつが船長なんだよ?』 と改めて思った。
「あーあー、わかった、わかった。繋ぎにリンゴやるから、オレの質問に正直に答えろ。」
「リンゴ!?なんでも答えるから早くくれよ〜〜!」
素直に暴れるのを止めたルフィは、ウソップに並んでテーブルに陣取る。
「何でこの船の船長はお前なんだ?」
「??? オレが仲間を集めたから?」
「バカやろう!聞いてンのはこっちだ、聞き返すんじゃねェ!」
「うーーん‥‥???」
...やっぱりこいつに聞くのは無駄だったか...とサンジは諦めかけた。
「お!そうだ、あの時だ!!」
ポンと手を打ってルフィがパッと顔を上げた。一同の視線がルフィに集まる。
「ゾロがオレを船長って呼んだンだ。」
「??」
「ゾロがオレの仲間になった時、船長って呼んだんだ。だからその時からオレが船長だったんだな。」
「はぁぁ???」
2人と1匹はユニゾンした。
「それだけか?ゾロに『オレが船長をやる』って言ったんじゃねェのか?」
「いや、言わねェよ、そんなこと。海賊船の船長になりたかったのは確かだけどなー。
 ゾロと仲間になるまでオレ1人だったから、誰が船長なんて言えたもんじゃなかったし。
 ほら、ちゃんと答えただろ? サンジッ、リンゴ、リンゴ〜っ!」
理由になってンのか?と思いながら樽からリンゴを取り出し、ルフィに放る。
嬉しげにリンゴを頬張るルフィと、あっけにとられたままそれを見つめるウソップとチョッパー。
「成り行きってことか?」
そっと聞いたウソップに、サンジは肩を竦めることで答えた。
所詮そんなもンだよな、この船は。そしてこの男は。
ゾロのことだから、深く考えての発言ではないだろうし、ハナから自分が船長になりたいとか思うはずもない。
「なぁなぁ、サンジはルフィが船長じゃ嫌なのか?」
「いや、やっぱりこの船の船長はアイツしかいねェよ。」
サンジの答えに、チョッパーは嬉しそうにニッコリした。


「De ja Vu」管理人のピアスさまの作品「ルフィのお誕生日SS」です。
「「ゾロがオレを船長って呼んだンだ」」このセリフが大好き!
そう、スタートはこの2人からですからね。
ルフィがいるからあんなに個性豊かな、気持ちが良い
クルーが揃ったんだと思います。

ピアス様、有難うございました。

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