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藤井俊の”そういうこともある”1



○ 2001年4月24日 青森某ホテルの怪

仕事で青森市内の某ホテルに泊まった。
与えられた部屋の番号は「914」。
「おお、人(1)が苦(9)と死(4)にはさまれている。こいつはなかなかいい番号」などと思いながら入室した。

 こどもにうつされた鼻カゼをひいていたこともあり、11時にはベッドにもぐりこんだ。

 ふと、つけっぱなしだったテレビに目をやると、なにやら平安朝っぽい設定のドラマをやっている。
「あっ、これはひょっとして、夢枕貘さん原作の『陰陽師』(おんみょうじ)ではないか?」

 ふだん家のテレビはこどもがビデオを見ているかCATVを見ているかなので、NHKでドラマ化されたという話は聞いていたが、じっさいに目にするのははじめてだった。

 ふとんをかけたまま、30分じっくり見てしまう。
 男にフラれた女が、丑の刻参りをしたあげく鬼と化して男を殺しにいく、と、まあオオザッパにいえばそんな筋だった。

 稲垣のゴローちゃんの安倍晴明はいまひとつおどろおどろしさが足らんなー、とか思ったが、「呪(しゅ)がかかっている」というセリフはいやに印象にのこってしまった。

 ドラマが終わったので、さてではと寝るかと思ったら、どうもふとんのなかが温まりすぎて寝苦しい。ベッドの上のほうにあるエアコンはスイッチが切れていて、液晶画面には「24度」と表示されている。ちょっと暑いかなと、22度に設定してスイッチを入れた。

 それでもなぜか寝つかれない。おかしい。カゼのせいか、飛行機の中でも眠くてしかたなかったくらいなのに。
 なんべんも寝返りをうち、やっぱりもう少し涼しいほうが眠りやすいかと、エアコンの設定を20度にしてしっかりとふとんにくるまった。

 少しはうとうとしたらしい。
 寝汗をびっしょりかいて目を覚ましたのは午前3時。まさに丑三つ時だった。なんだかいやに暑く感じる。
「暑い……」これでは『陰陽師』のなかで、女の呪いで苦しんでいた男のようではないか。
 
 ふとんをひきはがすようにどけ、ベッドからおりた。
 カーテンをあけると窓はひいやりと冷気をはなっていた。。
 街並みが夜の闇のなかに沈んでいる。
「窓をあければ涼しくなるだろう」
 だが、窓枠にはってあった説明イラストに描かれている、窓をあけるための棒状の取っ手がついていない。ミゾをほった円柱状の金具がみじかく突き出ているだけだ。このミゾが取っ手をとりつけるところなのだろう。

「ひょっとして……」
 そう、ひょっとして、この部屋、いぜん客が飛び下り自殺かなにかしたので、窓があけられないようにしてしまったのでは……。

「呪がかかっている」
 晴明の声が耳によみがえる。
 そのとき。

 後頭部にさやさやと生暖かい風が吹きつけてきた。

「!」
 おそるおそるふりかえると、視界に入ったのは……エアコンの……吹き出し口……?。
 手をさしのべてみると、ほんわか温かい風が出ている。
 試みにエアコンの風量を「強」にしてみると、うれしそうにごうごうと熱風を吐き出しはじめた。
「なんじゃこりゃあっ!!」
 液晶を見ると、室内温30度。寝汗も出るわけだよこれは。

 あわててエアコンを切った。ドアをあけて廊下の空気を部屋のなかへ手であおいで入れた。入れつづけた。
 ほかに室温を下げる手はないのだ。
 どうにか28度まで下がり、ベッドにもぐりこめたときには、すでに朝の5時になっていた。

 どうもこの時期はまだ冷房をつかう客がいないのか、エアコンは暖房しかできない設定になっているらしい。なんせ、翌日入ったラーメン屋ではストーブが赤々と燃えていたからね。

 それにしても、へんな時間に寝たので、朝食は食べそこなうは、寝不足でカゼは悪化するは……やっぱり呪をかけられたのかもしれない。

(2001.4.26)