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生まれた!

「お父さん、生まれましたよ!」
未明、待合室の長イスで横になって寝ていると、助産師さんが起こしてくれた。
出産というと夫が廊下を行ったり来たり・・・こんなシーンをイメージしていた。
なんともだらしない。

陣痛の始まり
「陣痛の間隔が5分になったらまた電話して、病院に来てください」
陣痛が始まったのが朝方。初めて病院に電話したとき、陣痛は10分間隔。あまり早く病院に来ると疲れるので、できるだけ自宅にいた方が楽だそうだ。そうは言われても目の前の妻は苦痛に顔をゆがめている。一刻も早く病院に担ぎ込みたい心境。
この時点で双方の実家に連絡を入れた。

病院へ
数時間後、陣痛が5分間隔に。病院に連絡を入れ、車で向かった。知識のない私は病院に着いたらすぐに『ER』みたいにオペ室に担ぎ込まれ、生まれるものと思っていた。が・・・ここからが長かった。

医師が診察し、助産師が陣痛の音を計測している。なんだか2人とも余裕だし、のんびりしている。おや?
今後は陣痛が本格化したら「陣痛室」へ、そして生まれる直前に「分娩室」に移るらしい。この段階では、先は長いから陣痛とうまく付き合ってとアドバイスされていた。端から見ていると、妻はたまたま家で掴み取った小さな犬のぬいぐるみとお守りを握りしめて顔をしかめ、汗をかいている。うわあ、大丈夫かいな・・・

入院の手続きをすると、係りのおばちゃんがお茶と夕食を出してくれた。
「そうだねえ、生まれるのは夜中か、明日の朝だね」と教えてくれた。


犠牲となった犬のぬいぐるみ


陣痛室へ
こんな状況から辺りが暗くなった頃、よーやく「陣痛室」へ移った。私は立会い出産の講習を受けていないので、ここでお別れとなった(申し訳ないが、私はこれまで背中をさすっているだけで、ぐったりだった。とてもこの先は体が持たない)。

生まれた!
そして男の想像を絶する苦しみの後(妻談)、無事、女の子が生まれた。
お母さんが抱っこしたあと(カンガルースキンというらしい)、助産師さんが私のところに赤ちゃんを連れてきてくれた。
文頭の通り、私は長イスで熟睡していたため、産声は聞こえなかった。というより陣痛室より奥の構造がわからず、どうなっているのかもわからなかった。

本当に小さくて、軽くて、ふやけていた。名前は決めてあったので呼んであげた。
「この子がぼくの子どもなんだあ」
まだ実感はなかった。でも、健康で何よりとホッとした。



「お疲れさま」
1時間ほどすると妻が病室に運び込まれた。
待合室での陣痛は序章にすぎず、「ひどい目にあった」というのが正直な感想だそうだ。次回は無痛分娩にすると言っていた。それほど大変だったのだろう。

早朝、ひとまず自宅に帰ることにした。車を運転しながら父親になったんだあと思った。でもどんな顔してたっけ?また明日、会いに行こう。


生まれた日の空

続く・・・

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