<各地域の状況>
日本の状況

琵琶湖はひどく汚れていた

1960年ごろには、川面にゴミや油が浮き、鼻をつくような臭いが付近一帯にただようというような川が少なくなかったのです。しかし、いまは川や湖の汚れは改善されています。新潟水俣病やイタイイタイ病のような問題もなくなりました。けれども、汚れがなくなったわけではありません。現在では、依然として湖沼の富栄養化が進んでいます。ここ数年は、汚染と回復の一進一退の状況です。

日本最大の湖である琵琶湖は、かつてひどく汚れていました。しかし、そこに貯えられた水は、京都・大阪・神戸地方や滋賀県に住む1400万人あまりの人々の飲料水として、利用されてきました。その琵琶湖の汚れが目立つようになってきたのは、1970年代のことでした。湖岸の開発が進み、住宅・工場などが増えるにつれて、さまざまな排水が流れ込むようになったのです。一時は、湖面 全体に合成洗剤の白い泡が広がり、人々を驚かせました。また、排水が原因になって富栄養化が進み、あちこちで赤潮が発生しました。 原因は、環境のことを考えない人々の行動、排水処理設備の不備などが、その原因になったのだといえます。

その後、琵琶湖の汚れについては、ほぼ解決しました。県は対策として、工場排水の規制や各家庭の浄化槽の設置に関する条例が制定します。県のさまざまな処置に対して、県民の真剣な協力があったことが、成功の大きな原因でした。

 

ヨーロッパの状況

死の湖

ヨーロッパでは、1970年代まで有機汚濁や富栄養化が悪化していました。しかし、下水道の整備を強化したり、汚濁した流入河川の流れの変更によって汚濁物質の削減を目指しました。あるいは、徹底して溜まった化学物質の除去などを行い、水質回復のために実施した対策の効果 がしだいに現れてきたと、考えられます。 しかし、その結果がどうなるのか、はっきりとはしていません。

近年、特にヨーロッパで深刻な問題は酸性雨による湖沼の汚染です。本来の自然な湖沼では、中性を保つ能力を持っています。しかし、大気汚染物〔硫黄酸化物や窒素酸化物〕が引き起こす酸性雨,死の湖となるでしょう。これまで、石灰を投入して中和するという対策が採られてきましたが、これはあくまで酸性雨の影響が出てから行われるものであって、費用もかかります。例えば、スウェーデンでは、1977年以降、3000以上の湖沼へ石灰投入が行われましたが、1987年までの10年間に9000万ドル(およそ100億円)を費やしました。

 

発展途上国の状況
途上国は先進国の二の舞いとなるのか?

開発途上国では湖沼の水質汚染、特に富栄養化と有害化学物質による汚染が現在深刻化していて、これからもますますその汚染の進行は速まることが懸念されています。途上国の最優先課題、それは工業化による経済の発展と自立です。そのため、環境への配慮が無視されがちです。さらに、まだ下水道の整備や徹底した工業排水の処理を行うだけの経済力や技術、さらには人材が著しく不足しているのが、現状です。

湖沼の汚染は、あまり地球規模の環境汚染として取り上げられることはあまりないのです。しかし、先進国で経験した湖沼汚染を途上国で再び起こさぬ ように国際的な研究プロジェクトが実施されています。UNEP〔国連環境計画〕、UNCRD〔国連地域開発センター〕、ILEC〔国際湖沼環境委員会〕などが実施しています。また、途上国の湖沼汚染の共通 点は、複雑な社会問題が大きく関係しているということです。例えば、タイのソンクラ湖は世界的に貴重なバードサンクチュアリがあります。しかし、農地への安定した灌漑用水を得るために防波堤の建設が計画されており、環境保全と産業の安定化との対立が問題となっています。