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ジョージ・チュートリアル

第十話「ジョージ、ジョージってるよ…」
「そりゃジョージからジョージってるからな…」

夏は続いていく。卒研の待つ、教授の下で。

生徒γ「もう、いいですよね」
教授「ん? なにがだ?」
生徒γ「僕、がんばりましたよね」
教授「なに、言ってるんだ? ここ全然なってないぞ。手、抜いてはいかんぞ」
教授「南川君だったら、できる。もっと頑張れる。卒業できる」
ぱんぱん。
生徒γ「…もう卒業、していいですよね」
生徒γ「後、参考文献」
生徒γ「そこまで書き終わったら、もう卒業していいですよね」
教授「そうか、もう疲れたか」
教授「よし、今夜、どこかへ飲みに行こうか」
生徒γ「いえ…」
生徒γ「僕の卒業」
生徒γ「ずっと目指してきた卒業」
教授「…は?」
教授「わからん。南川君がなんのこと言ってるか、私はわからん」
生徒γ「僕、がんばったから、もういいですよね」
生徒γ「帰っても…いいですよね」
生徒γ「ウゲ…」
生徒γ「ゲ…」
彼の笑みが消えてゆく。
教授「え…」
教授「君…まさか…」
教授「金ないのか?」
教授「本当は…親御さんリストラされたのか…?」
生徒γ「………」
教授「嘘だ…」
教授「嘘だと言ってくれ…」
教授「これからは君は…研究者としてやっていくんだろ?」
教授「不況の波は収まったはずだろ…?」
教授「そうだろ…?」
教授「な、南川君…」
教授「嘘だと言ってよ、バーニィ、いや、南川君…」
生徒γ「すいません、教授…」
生徒γ「でも僕は、ぜんぶやり終えることできましたから…」
生徒γ「だから、卒業しますね…」
教授「ダメだ…」
教授「まだ…頑張るんだ、南川君は」
教授「これから、まだまだ頑張るんだ…」
教授「卒業、まだまだ先だ…」
教授「こんな出来じゃ、とても審査は通らない…」
教授「受からないはずだ…」
生徒γ「卒業…しますね」
教授「ダメだ…」
教授「南川君、やめてはいかん…」
教授「卒業できない…」
教授「始めたたばかりじゃないか…」
教授「昨日、やっと卒研テーマ決まったんじゃないか…
教授「ずっと決まらなかったテーマだっ…」
教授「これから取り戻してゆくんだぞ…」
教授「5月に、決まってたはずの研究テーマ…」
教授「これから、南川君が取り戻してゆくんだ…」
教授「勉強して、調べて、取り戻してゆくんだ…」
教授「それなのに…」
教授「それなのに、なんでもう卒業なんだ…!」
教授「まだまだある…」
教授「まだこれからじゃないか…」
教授「なにもかも、始まったばかりじゃないか…」
教授「君の卒研は始まったばかりじゃないか…」
生徒γ「いいえ…」
生徒γ「ぜんぶ、しました」
生徒γ「なにもかも、やりとげました」
生徒γ「もうじゅうぶんなぐらい…」
生徒γ「この夏に一生ぶんの勉強がつまってました」
生徒γ「すごく辛かったです」
教授「いかん、ちがう…」
教授「まだまだだ…これからだ…」
教授「君、なんにもしてない(ほんとに)」
教授「研究室の一員になって、なにひとつしてない…」
教授「私は、たくさんやらせたいことあるんだ…」
教授「落ちこぼれな南川君に、たくさんさせたいことあるんだ…」
教授「全部これからなんだ…」
生徒γ「教授に、たくさん怒られました」
生徒γ「担当授業で宿題一杯出されたり、不可を付けられたりしました」
教授「そんなの…これからも、いっぱい付けてやる
生徒γ「夏の補修も出ました」
生徒γ「課題もどっさり出されました」
生徒γ「留年もしました」
教授「まだ来年もあるし、再来年もある…」
生徒γ「もう一年だけがんばろうと決めたこの夏やすみ…」
生徒γ「無限の浪人さんと出会ったあの日からはじまった、夏やすみ…」
生徒γ「いろいろなことありましたけど…」
生徒γ「僕…がんばって、よかったです」
教授「何を頑張ったんだ?」
生徒γ「つらかったり、苦しかったりしましたけど…」
教授「何に苦しんだんだ?」
生徒γ「でも…がんばって、よかったです」
教授「だから何を頑張ったんだ?」
生徒γ「卒業は…幸せといっしょでしたから」
教授「幸せって何だ?」
生徒γ「僕の卒業は幸せといっしょでしたから」
教授「だからなんだよ、それ」
生徒γ「ひとりきりじゃなかったですから…」
教授「そうだ。南川君はもうひとりきりじゃない」
教授「来年も、私と一緒だ」
教授「だから…南川君…」
生徒γ「ですから…」
生徒γ「ですからね…」
生徒γ「もう卒業しますね…」
教授「いかんっ…」
教授「これからだっ…」
教授「これからだと言ってるだろっ…」
カタ…
教授「南川君…卒業してはいかんっ!」
教授「君の卒業は無理だって言ってるだろっ!」
…カタ…
……カタ。
生徒γ「やった…」
生徒γ「やっと…書き終わりました」
生徒γ「ずっと探してた文献…」
生徒γ「出版社名と…」
生徒γ「著者名…」
教授「………」
教授「そんなんじゃダメだ…」
教授「南川君…」
教授「私は、そんなものは認めない…」
教授「そんなのはダメだーーっ!
表紙と参考文献だけの卒研なんて!
教授「聞いてるのか、南川君…」
教授「南川君っ…」
生徒γ「ウヘヘヘ…」
教授「南川君…南川君っ…」
教授「南川君…」
生徒γ「ウヘ…」
教授「南川君ーっ…!」