3月2日


   朝、宿の前を走る車の騒音で起こされた。外を見てみると車の渋滞とクラクションの嵐。みんな目を覚まし支度をしてから、これから行く目的地までの列車のチケットをみんなで買いに行くことにした。

   ゲストハウスを出ると兄弟と言い張る怪しい二人組の男が、一緒に町を歩かないか?と誘ってきた。僕は明らかに怪しいこいつらに付いて行くのには初めから反対であったが、女の子がなぜか乗り気でちょっとだけ付いて行ってみようよ!と言い出した。絶対に嫌だったのだが、女の子がどうしても行くというのと、部屋の鍵の問題で付いていかざるを得なくなった。

   男達が言うには、今日は一年に一回のフラワーフェスティバルがハウラー川で開かれるからタクシーで行こうと行ってきた。タクシー代をボッてくるのか?と思ったが意外や意外、こっちがお金を出すと「いらない、いらない」といって決してお金を受け取ろうとしないのだ。換わりにチャーイを一杯だけおごってくれ、とおかしな事を言ってきた。とりあえずハウラー川に来てみたのだが、祭りらしきものは何にも行われていなかった。「どこがフラワーなのよ!」と問い詰めてみると、そこらへんに落ちている汚い花を指して「これをヒンドゥーが川に投げるんだ。」と、うそ臭い答えを返してきた。約束どうり一杯2ルピーのチャーイをおごってあげると嬉しそうな顔をしてありがとうと飲み干した。僕らも朝の一杯を戴いた。

   この後も一緒に町を案内してあげるよお金は君達が払うに相当すると思えば払ってくれればいい、とおかしな事を言ってきて「ぜーってー、怪しい!」と疑っている顔が相手にも分かったらしく、「お前はなぜそんなに俺を疑うんだ?この女の子はこんなにも楽しんでいるのに、帰りたければ帰れよ。」と切れてきたが、鍵の問題もあり、そんな言われ方したのがシャクで、「付いていくよ」とバカなことをいってしまった。今考えれば、そのとき素直に帰っていればひどい目に会わなくてよかったのだが…。

   とりあえず「明日バラナシに行くためのチケットを買いに行くんだ」と言うと、 「バラナシは人も多いしあまり良くない、どうせ行くんだったら自然がたくさん残っている場所の方がいいんじゃないか?」と言ってきた。実のところ、絶対に行きたい場所は決まってなかったので、それもそうだと思い、プリーというところに列車で行くことにした。しかしながら兄弟が言うに列車よりバスの方が断然お得だと勧めてくれたのでバスで行くことにした。

   他二人は列車で一緒にブッダガヤーに行くことにし、もう一人の奴はバスでダージリンに行くと言ったので、先に列車のチケットオフィスに行った。オフィスは混雑していること極まりなく、時間がかかりそうだったので、二人を置いて僕達二人と兄弟でバス乗り場にいくことにした。兄弟は先に荷物を宿に取りに帰ってから行こうと言ってき、不審に思いながらも言われるがままにした。

   宿に戻り、荷物をまとめ出てみると兄弟の一人がいないのだ。「あれ?もう一人は?」と聞くと、急に腹が痛くなってトイレに行っているとのこと。「腹は減ってないか?」と聞かれ、そういえば朝から何も食べてなかったので「カレーを食べたい」と言った。それじゃあ食べに行こうとレストランに行くことにした。チャパティーとチキンカリーとコーラをたのんだ。出て来たカレーはとてもおいしかった。

   三人で食べているともう一人ごっつい体をしたインド人が加わってきた。彼は兄弟と同じホテルに泊まっているらしく輸入業に携わっているという。兄弟の一人が弟の様子を見に行ってくるから、後は彼に任せるといいどこかに行ってしまった。カレー代はまたもやタダ。うーん、なぜ金を受け取ろうとしないのだろう?と不審に思いながらも、ずっと話をしているうちに最初に思っていたほど悪い人ではなさそうで、ちょっと信用しかかってきた。

   カレーも食べ終えて、僕達は三人でビクトリアメモリアルに行くことにした。そこはうるさいカルカッタの街で、静寂につつまれた心地よい場所だった。一通り見てまわった後、ごっついからだの彼が「この近くに妹が住んでいるので一緒に行ってみないか?」と行ってき、これはインド人の生活を垣間見る絶好のチャンスと痛い勘違いをして、タクシーで行くことにした。

   タクシーで走ること30分ついに男の妹の家(今考えると本当かどうかは定かでない)についた。家に入りチャーイをごちそうになった。しばらくお邪魔してバスターミナルに行くことにした。この時点で僕達は彼らを100パーセント信用しきっていた。(←大馬鹿) バスターミナルに戻りプリー行きのチケットを買い、再び兄弟と待ち合わせて、買い物に行く事にした。(お待たせいたしました。いよいよボッたくり最終段階です。)

   人数はこっち2、相手3という不利な状態になり今日が3割引だというバザールに行くことにした。入り組んだすごーく怪しいとこに連れて行かれ、奥のほうにある一軒のやばいアクセサリー屋に入った。店の一番奥に連れて行かれ、まあ座ってくれと言われるがままに店の奥に入っていった。この時点でもうやばい感じがしていたが、時すでに遅し。逃げ口が完全に塞がれているのと、迷路みたいなマーケットを抜け出すことは不可能。 まずは兄弟がマザーテレサの置物を値切り買い、どうだ俺が話せばこんなに安くなるんだ(決して安くない)とパフォーマンスをして見せた。そして、いよいよ僕達がぼられる番がきた。

   初めの方は何と言おうとも絶対に買わないぞ!と強気で押し通していたのだが、そんな僕についにごっつい男が顔色を変えて、ものすごい大声ですごんできた。これはやばい!殺されるかもしれないと直感的に感じたので、相手の機嫌を損ねないように、そして自分の被害金額を最小限に抑えるように最大の努力をした。ここからは本当の意味での交渉だ。 一応シルクである布を出して100ドルとふざけた値段を言ってくる、いくらなんでもそんな金は出せないと交渉に交渉を重ねに重ねること15分10ドルまで値段を落とした。泣きそうになりながらなけなしの10ドルを払い、もう一人の奴と店をやっと出ることが出来た。

   僕らは放心状態でバス乗り場に向かい、自分達の行動を無言で悔やんでいた。 結局4時発プリー行きのバスに乗り込み、一緒に被害にあった彼と力ない別れの握手をかわし、悪のはびこるカルカッタを後にした。これから16時間のおんぼろバスの旅が始まる。まわりは全員インド人で今ひどい目に会ったばかりだから、彼らがみんな悪者に見えてしまう。誰か助けて欲しいと絶望のどん底に突き落とされたその時、地獄でくもの糸を見た。日本人が乗り合わせていたのだ。隣りの席に座らせてもらうことにした。話を聞くと彼も僕と全く同じ手口でやられていたのだ。

   二人で慰めあいながらおんぼろバスはけたたましい音をあげながら夕闇を駆けていった。

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Last modified: Fri Apr 28 13:56:43 JST 2000