空と時のかなたへ
Exploring Space and Time

やっと,あいつと空を飛べるときがきた! 35 人を下らない熟練の職人と,300 人以上の奴隷を使って,この美しい飛行艇は甦ったというわけだ。5 本のマストは黒い艇体に堂々とそそり立ち,そこに張られた帆は魔法の風をつかまえる。あいつからは不思議な生命力さえ感じられるよ。こうしてゆっくりともやい綱がとかれて,大空へはばたこうとしているのを見ているとな。

常勝艦プリンセス・アーク号船長,
ハーケンのハルデマー王子の航海日誌より

アルファティア歴 1964 AY(964 AC),女帝エリアドナは,ハーケンのハルデマー王子に,彼の一族が所有する年老いた飛行艇を任せることにしました。新たに修復されたプリンセス・アーク号は,翌年サンズヴァルを出港しました。

船は南西のダヴァニア大陸に向かって旅を続けました。〈密林海岸〉の東沿いを飛ぶ際に,エリアドナ岬とセスティア峠の近くを通ったのですが,そこで遠征隊の一行は,セスティアン・ゴブラー(長さ 20'-30' ほどの触手を持つ大型植物)に出くわしました。

東,そして北へと進路を変え,プリンセス・アーク号はセスティア島からオーシャニア上空へ抜けました。島の内陸を調査中,ハルデマー王子は数体のナイト・ドラゴン(闇のブレスを吐く,アンデッドのドラゴン)と遭遇しました。プリンセス・アーク号と乗組員は逃亡を図りましたが,残念なことにボルトマン・ラミッサーが怒り狂ったナイト・ドラゴンの手に落ちてしまいました。

プリンセス・アーク号はセスティア島に戻り,セスティア生まれの者を何人か搭乗させました。失った乗組員を補充するためです。その中にはアバヴァム女卿(セスティアの王の三女で,ナイト・ドラゴン・ハンター)もいました。船がマー湾に近づいたとき,ハルデマーはクリーチャーをもう 1 匹搭乗させることになりました——小さな,おびえたコウモリが船の舷窓にぶつかってきたのです。これがのちのちハルデマーと乗組員を驚かすことになります。

ハルデマー王子と飛行艇が次にぶつかった問題は,ヘルダン騎士団でした。彼らはヘルダン自由領からやってきた聖騎士団で,一見したところ取るに足らない連中のようでした。ちょっとした策略と交渉——ヘルダン騎士団の〈保護者〉であるイモータルも巻き添えになって死んでしまいました——の結果,ハルデマーは船に乗って命からがら逃げ出すことになりました。むろんヘルダン騎士団の恨みを買ってしまいましたが。

プリンセス・アーク号が次に停泊したのは,〈ハゲワシ半島〉です。ここでハルデマーは,ナグパ(頭がハゲワシのクリーチャー)の興味深い秘密をいくつか知ることができました。グリーン湾から少し奥に入ったところには,ンジャトワという,エルフとオウガのハーフ(!)の奴隷商人からなる共同体がありました。ハルデマーのすぐれた外交手腕により,彼らは友好的な文化交流を行い,さらには人肉を好むンジャトワ人に,アルファティア人は襲わないと約束してもらいました。友情の証として,ンジャトワの族長がハルデマーに贈り物をしました。人間の奴隷——ヘア・ロルフと名乗るヘルダンの騎士です。

プリンセス・アーク号がグリーン湾の南岸に沿って進んでいると,漏斗状の雲に遭遇しました。ヘア・ロルフがこの光景を見て示した反応に,ハルデマーは興味をそそられ,このヘルダン人が何を知っているのか突き止めることにしました。アルファティアの学校ではこの雲についてなにも教わらなかったのです。危険な試み——大きな雲にまっすぐ飛び込む——によって,この〈管状の裂け目〉は反重力通路であり,ミスタラのスカイシールドに真っ直ぐ続いていることがわかりました。

宇宙に飛び出したプリンセス・アーク号は,これまでその存在を知られていなかった 2 つめの月,ミョーシマ(明島? イモータルはパテラと呼んでいる)を見つけました。この月は,大気圏の一番外側に光を曲げてしまうシールドがあり,そのため外側からはほとんど見えないのです。月の住人ラカスタは,ヘア・ロルフの存在に腹を立てました——ヘルダン騎士団は,ラカスタの世界では明らかに歓迎されないのです——そして,彼を引き渡して監禁させろ,かわりにアルファティア帝国と交流しようと言い出しました。それだけでなく,光を曲げてしまうミョーシマの核から,モノリスを掘り出してプレゼントしてくれたのです——このおかげで,プリンセス・アーク号は透明になることができるようになりました。

ヘア・ロルフが空飛ぶサーベルトゥース・タイガーに乗って逃げ出すと,ミョーシマの住民はレディ・アバヴァムを人質に取り,騎士を捕まえるのを手伝うようハルデマーに言いました。ヘア・ロルフを追うプリンセス・アーク号は,南極にあるスカイシールドに入ってしまい,アンチ・マジック・フィールドに捕まって穴に落ち,〈中空世界〉にたどり着きました。ハルデマーはジャイアント・スノー・スロース(巨大ユキナマケモノ)を雇い入れ,壊れた船を暖かい場所まで引っ張るのを手伝ってもらうことにしました。船員たちは飢餓と寒さと戦わなくてはなりませんでした。

プリンセス・アーク号がアンチ・マジック・フィールドの影響を脱してしまうと,船員たちはこの奇妙な新世界の探検を開始しました——とはいえ依然としてヘア・ロルフの追跡をやめたわけではありません。彼を捕らえようとする試みはことごとく失敗していたのです。ニージアの上空を飛行中,ハルデマーは,自分の部屋にクーフィリという名の女司祭がいるのを見つけました。彼女は眼下の土地に関するハルデマーの質問にほとんど答え,その間にも船はヘルダンの騎士を追い続けました。プリンセス・アーク号はとうとうヘア・ロルフに追いつきました。彼はホワイト・ドラゴンの背にまたがり大きな雲の中を飛んでいたのです。しかしハルデマーが騎士を捕まえる前に,船は雲の中に隠れていた浮島に衝突してしまいました。

その島,ウーストドックにはノームが住んでいて,さらにはヘルダン騎士団の象徴である黒いライオンを掲げる要塞がそびえたっていました。レオポルドという名のノームが透明なプリンセス・アーク号にぶつかってきて,飛行船の修理にあたってはぜひともル・ナーヴィアンス族企業合同株式会社の援助を,と熱烈に訴えました。

見るだけでいらいらするノームの小型飛行船に導かれ,プリンセス・アーク号は地下にある秘密の格納庫へとやってきました。そこで,乗組員と数百人のノームは,飛行船の修理に取りかかりました。ところがクーフィリが飛行船の存在をヘルダン騎士団に漏らしてしまったのです。それも修理が終わる前に。プリンセス・アーク号とその乗組員は,あやういところで脱出に成功しました。

ヘルダンの飛行船が 5 隻も追いかけてきたため,プリンセス・アーク号は北極の穴を通ってなんとか逃げ出し,ふたたび宇宙へやってきました。しかしそこで出会ったのは,ヘア・ロルフ率いる巨大な戦闘用ガレー船でした。戦いはとても激しいものでしたが,ノームが施した「ちょっとした改良」のおかげで,プリンセス・アーク号は勝利を収めることができました。戦いの直後,クーフィリがその正体をあらわしました。彼女は,誰あろう,あのシン——プリンセス・アーク号がオーシャニアを探索したときに遭遇したナイト・ドラゴンたちの長——だったのです。

復讐に燃えるシンは,ハルデマーからヘア・ロルフを奪い去り,プリンセス・アーク号を星雲のような嵐の中へと誘い込みました。この嵐は,時を織り成すものをも切り裂くものでした。ハルデマーと乗組員が目覚めたとき,そこは 34 年後——2000 AY,アンフィマー(2 月)の 26 日でした。シンは,敵をさらに苦しめようとして,いまやすっかり年老い,憎しみに満ちたレディ・アバヴァムを船に帰しました。

ハルデマーはプリンセス・アーク号を故郷へと向かわせました。しかしそこで待っていたのは,彼も乗組員ももはやアルファティア帝国では歓迎されないという事実でした。また,この 34 年のうちに,ヘア・ロルフはヘルダン騎士団の〈最高司祭〉となっていました。外交上および機密保持上の理由から,女帝エリアドナはハルデマー王子に選択を迫りました。彼と乗組員が死刑になるか,それとも当初の使命にもとづいて探索を続け,ヘルダン騎士団とのいざこざがどうにかして解決するまで帝国には戻らずにいるか,という選択を。

プリンセス・アーク号がアルファティアを離れてまもなく,ハルデマーはふとしたことから,ペットのコウモリがほかでもないラミッサーであることに気づきました。そう,旅のはじめでナイト・ドラゴンと出くわしたときに置き去りにしてしまった,あのボルトマンです! 彼は,シンのスパイとして,姿を変えられ,精神を支配されていたのです。タラサーの僧侶呪文を使い,ハルデマーはなんとかボルトマンを元の姿に戻すことができました。

プリンセス・アーク号にはなにかがある——ことごとく危険な状況から脱出しているではないか。まるで生きているかのように。そう思ったハルデマーは,いくつかの手がかりをもとにして,〈ゾースの魔法〉の源を見つけ出そうとしました。〈ゾースの魔法〉は,もとはといえば,彼が年老いた飛行船に魔法をかけなおすときに使ったものです。そして,古のゾースのリッチとの恐るべき遭遇を果たし,この魔法の第二の側面を発見することになったのです。

その後ひと月の間,ハルデマーは古のゾースの象形文字を研究していましたが,そのうちに,奇妙な幻覚と現実の間を行ったり来たりするようになりました。そしてついに,ゾースの象形文字の力を引き出すことに成功したのです。そのとき,呪文によって〈大気の次元〉への入り口が開いてしまいました。

プリンセス・アーク号は入り口に飛び込みました。その次元——ミスタラを取り巻く宇宙によく似ているのですが,この世界には呼吸に適した空気が満ちているのです——で,飛行船とその乗組員たちは,スカイ・ワーム(頭と前足がライオンで,大きな翼があり,下半身は蛇というエレメンタル。高い知性と魔力を持つ。犬が嫌い)の群れと遭遇しました。いちばん大きなスカイ・ワーム,メリアスは,プリンセス・アーク号の内に母親の生命の力を感じ取りました。

ハルデマーは悟りました。彼が最初にゾースの魔法を使ったときに,スカイ・ワームのベリリスの生命の力をプリンセス・アーク号に縛り付けてしまったのです。ベリリスはハルデマー王子の目の前に現れて頼みました。魔法を完全なものにして,生命だけでなく魂をも縛り付け,ふたたび一なる存在にしてはくれないか,と。

完全なものとなった魔法のせいで,〈悪夢の次元〉への門が開いてしまいました。スペクトラル・ハウンドが〈大気の次元〉の空へと続々と現れ,プリンセス・アーク号と,メリアス率いるスカイ・ワームの群れを攻撃しはじめました。ハルデマーが魔法を完成させ,門を通って〈悪夢の次元〉から逃げ出すと,門が閉まりはじめ,もっとも強力なスペクトラル・ハウンドを閉じ込めてしまいました。残ったハウンドはあっという間に尻尾を巻いて逃げ出しました。

しかし不可解なことに,ハルデマーがゾースの魔法の完成を祝うまもなく,プリンセス・アーク号は彼の目の前で分解し始め,眼下に広がる残骸の山へと突っ込んでいったのです。


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