スーパーロボット七つ目大戦β
 
 
<それは安寧、それは切望ルート>
 
 

 
 
黒が白くなりました。
 
 
それとも、白を黒くしたというのか、とにかく。
 
 
伝説の機体・鉄人28号とその操縦者金田正太郎翁が仲間入り・・・・・・。
 
 
そのことを告げられたのは、鉄人の醸し出す古代オーラによって博覧会状態の格納庫であった。そろそろ夕食の時間になるし、あのお年寄りも残念だけど”家に帰る”のだろうから、ロボットのパイロットとして一応、見送りくらいはしようかな、と打ち合わせたパイロット達がそろって待っていたところ・・・・・葛城ミサトと金田正太翁が和気藹々と話しながらやってきた。カンの鋭い者はここですでになんかおかしいな、と気づいた。
 
 
「あ、ちょうどみんなそろってるんだ。そりゃ都合がいいわ。伝説で有名な方ですけど、あらためて紹介します!今日から私たちと一緒に戦ってくださることになった金田正太郎氏と鉄人28号よ。あー、先に言っておくけど、いくらご本人が許しても呼び捨てだのタメ口だのじーさん呼ばわりだのはわたしが許しませんから。かといって正太郎おじいちゃん、というのもご本人も普段は良くても戦闘中なんかではファイトが失せるでしょうし、呼ぶ方も長くて瞬時の呼びかけの折りに困るでしょうから”正太翁”と呼ぶことにします。いいわね?」
 
 
はあ?
 
 
即答する者は誰もいない。純真な心を持つつばさがかろうじてそれに応じかけたが、今まで聞いていた話もあるし、周りの連中の異様反応を感じ取り、引いてしまった。
それは今も目の前にある鉄人は大きくて強そうではあるけれど、いかんせん昔のすぎて、現在の激しいたたかいには耐えられそうもない、という話だったのだ。
 
 
それがなんでいきなり、180度回転、仲間入りを果たすことになったのか。ただ単に頭数を増やしてもそれが足を引っ張ることになれば・・・・・それとも作戦指揮役、オブザーバーとしてのことなのか・・・・確かに業界に顔は利きそうではあるが、そういった精神面の支えならばロンド・ベルの方へ行った方が世のため人のためロボのためであろう。
まあしかし、ロンド・ベルの血の気が多いパイロット連中が、伝説とは言え、ぽっと出の老人の言うことなんか聞くとも思えない。所有するロボットも骨董品であるし。現場の人間がそんなもんに敬意を払えといわれても、はいそうですか、などというわけもない。
それは表でも動こうとしたロボ・クラナドとしても同じ。影の遊撃部隊であるドロン・ベルと構成人員は同じなのだから当たり前だが。遊ばせる手などない実働部隊としては実際に戦わない指導官など迷惑以外のなにものでもない。とはいえ、これは自分たちの親分の決定である。明言した。それでも、素直に受け入れるにはあまりにも伝説であった。
 
これが冒険ファンタジーであるのなら、”伝説”といえばそりゃもう万歳三唱胴上げものであっただろうが。露骨にイヤーな顔をする者はいなかったが、かといって喜ぶわけもない。例外はドクター・ウエストくらいなもので鉄人の登場にオオヨロコビ。
「このビール腹、最高なのであるっ!三原色キラキラの子供の夢なんぞに媚びることのないこのフォルム!なにがそんなに内蔵されているのか是非知りたいのであるっ!そこにはおそらくロボット製造の真実がギュッと詰められているような気がして我輩、ならないのであるっっ!!」なにやら勝手に機体内部にダイブしようとしたため現在、皆で捕らえて地下牢に監禁中であった。いちおう、エルザが見張りについている。このことを聞けばドクター・ウエストはさぞ喜んだことであろう。だが、他の常識のある(彼よりは)者たちは迷う。すんなりと握手してしまってよいものかどうか。足手まといを仲間にして痛い目を見るのは自分たちなのだ。どういうつもりか知らないが、ここは抵抗するべきなのでは・・・・
お互い言うべきか言わざるべきか誰がいうべきかアイコンタクトがゴーゴンのように互いを石にしていく。なんともぎこちなく硬い雰囲気。それをみた葛城ミサトはぬけぬけと
 
「すいませんねえ、どうもこの子達、緊張しちゃってるみたいです。さすが伝説ですわね」
などといったのをまともに受けたのか金田正太翁は
 
「ああ、ああ、皆さん、お気を楽にしてくだされ。ロボット操縦の元祖であったとてそれも遙か大昔のことでございます。現役から退いて幾星霜、腕もかなり衰えました。こちらの鉄人も錆だけはつかせておりませんが、28の号数のまま、さしたる技術の改変もしておりません。最新鋭の機体を用いる皆さんからしてみれば年寄りの冷や水もいいところの参陣ではございましょうが、正義を貫く精神だけは変わりなく、と自負しております」
 
そして、金田正太翁のこの隠しようもない風格、そして自信がさらに皆を惑わせる。
べつに、伝説の二つ名に萎縮しとるわけではないのだが。正太翁にははっきりとここに集まったパイロット連中が「子供」に見えるのだろう。確かに見たまんまの子供が多いが。正太郎翁のこの歳からすれば赤木たちでさえまだ「子供」かもしれぬ。
 
 
「というわけで、明日の作戦にさっそく正太翁にも加わってもらいます。特に内容に変更はありませんが・・・・できるだけ、トドメは鉄人にまわすように。大物は特に。テーマは”スピード・アンド・すみずみ”。そういうことで、よろしく!」
 
 
はあっ?
 
 
さらに謎。トドメを鉄人に、というのは経験値をまわそうというのか、今更こんなじいさんを育てなくとも、こちらには育てたい育ち盛りの育てなければ未来がない若人たちがたくさんいるのだ。デモンベイン、ビッグオー、エヴァなど百戦錬磨の機体が削って戦い慣れていない者たちに大物の大量経験値をまわす、というのがこの業界のセオリーなのだが。いやさ、仁義といってもよい。それを無視しろというのは一体・・・・・・まあ、確かに入り立ての新人ではあっても・・・・・・「伝説の意味がないじゃん」惣流アスカがぶーたれた。だが、葛城ミサトと金田正太翁はもう整備員の詰め所のところへ行ってしまっている。鉄人のチェックの様子を聞きにいったのだろう。
 
 
それゆえ、疑念や不満のぶっつけ先はどうしても・・・・・・
 
 
「君たちの疑問も分かるのだが・・・・・・・・」
「それについては口止めされているの。ただ・・・・」
 
 
城田氏と紫東遙ということになる。ようやく金田正太郎の背後を洗い出し終えてその巨大な財力の理由も納得したところにパイロット達に詰め寄られて葛城ミサトの意趣返しのような気もしない二人である。「ただ、なんなんですか?遙さん」よく事情も分からぬうちにこうやって戦いの渦に巻き込まれている自分と違い、確固たる意思、強い志をもって老いた体と古びた機体で駆けつけてきた金田正太翁の姿に衝撃を受けた神名綾人が鋭く問う。自分より年下の子供もいれば自分より体の利かない老人も入ってくるとしたらもはや弱音など吐けない。
 
 
「明日、あの方と一緒に戦うことで、あなたたちは機体の強さではない、戦いを続ける力のこわさを学ぶコトになると思う。葛城さんの奇妙な指示もそのためよ」
そんな少年の決心を感じたのか、紫東遙も表情を引き締めて答えた。
その割にはなんかなぞなぞみたいではっきりしない答えであるが、妙齢の女性が凜とした顔で答えるとたいていの男は納得する。神名綾人、大十次九朗、赤木、青山などヤローはだいたい納得したが、女性はそんなんでは誤魔化されない。
 
 
「それは戦闘経験という話ではない。戦術は進化するものであるし、訓練なしに伝達されるものでもない。敵を倒す、という技術の深奥をその目で焼き付けることが明日の君たちの任務の一つだ。あの方は・・・・・・ただ敵を倒す、ということは、しない。それがヒントだ。後は各自で考えることだ・・・・・答えはすぐに分かるわけだが」
ので、城田氏がそちら方面はフォローをいれる。無体な仕事をさんざんおしつけられて、この二人コンビネーションができてきている。謹厳な城田氏にそう言われてはアル・アジフ、惣流アスカといったうるさ型もだまるしかない。
 
 
まあ、そこまで言われたら、腹も減ってきたしあとは食事でもしながら皆で謎解きでもしようかなとパイロット連が引き上げるところ、二人からもう一声かかった。
 
 
「元祖が正しかったからこそ、今のこの道が続いているのだ」と。
 
 
あいだみつおの色紙のような話ではない。身震いするような何かがその一言にはあった。
正確にその意が聞き取れたのは百戦錬磨のデモベコンビに葛城ミサトと付き合いの長いエヴァチームだけだったが。