スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<ダイ・ガード ルート3>
 

 
 
「・・・・、いうわけでダイ・ガードはおいてけぼり。
堂々と業務で地球の平和を守れると思ったのに、そんなのないっスよお・・」
 
ダイ・ガードのパイロットの一人赤木俊介はそう言って肩を落とし大きなため息をついた。なんともわかりやすい、分かり易すぎるリアクションだ。
「ま、確かにスマートじゃあなかったが、地球の平和を守るのはオレたち以外にもいるってことが確認できて良かったじゃないか、ねえ、いぶきさんも」
「そうよ、赤木君。青山君の言うとおり。物事は適材適所だし、ダイ・ガードが海外へ単身赴任となったらヘテロダインが街を襲った時、誰が守るっていうの?」
同じくダイ・ガードパイロットである青山圭一郎と桃井いぶきがなだめる。
 
 
熱血君と冷静君と中立さんで、バランス的にいいトリオだこと・・・・それを見ながら葛城ミサトはそんなことを考える。恋愛感情のなさそうなところがまた。それぞれ他に相手がいるな・・・むむ・・・・三人とも20代前半・・・・。
ずー、と煎れてもらったお茶をひとすすり。うーむ、なかなか美味しい。
お茶の美味しい職場はいいですなあ、ロジャーさんや。じゃ、なかった。
とにかく、ここにもロンド・ベルに望みながらも参戦が叶わなかった「同志」がいた。
 
 
ここは21世紀警備保障、応接室。
 
アーガマが去った後にいきなりアポなしの巨大ロボット四体が接近してきたことにかなり驚かれたが、社長の大河内氏が危機管理というものをよくわかっているえらく話の分かる人物で、元は軍人であるというから、第三新東京市の退役軍人が話を通してくれたのかもしれない。そうでなければ、ダイ・ガードと一戦やらかすハメになたかもしれない。
ビッグオーもエヴァも、見かけがかなり怖いし。
で、葛城ミサトたちはとりあえず一息つける場所を確保できた。
 
エヴァに子供が乗っているという事実にもう一度驚かれたが、そこはそれ、下積み時代に遊園地のドサ周りをやってきた苦労ロボ、ダイ・ガードである。パイロットも課員も若いのが多いのですぐにうち解けた。碇シンジと離ればなれになった不安はあるものの、というかよく考えたら碇シンジはてめえだけ目的を果たしているわけで、不安になりたいのはこっちだということにもなりゃせんか?的メビュス思考にとらわれているチルドレンは、それ以上頭を悩ませ精神を疲労させぬためにも、糖分と栄養の補給などを広報二課の人たちといっしょに社員食堂で行っている。大人は今後のことを考える仕事があるのでがそうもいかない。ロジャー・スミスとR・ドロシーとともに応接室での情報交換となる。
向こうの出席者は、広報二課の大杉課長、戦術アドバイザーの城田、そしてダイ・ガードパイロットの三名。こちらの事情を話したあとで、ロンド・ベルにスカウトされたはずのダイ・ガードがなんで居残っているのか尋ねる。契約が決裂したのだろうが、その経緯を。あのロンド・ベルも契約交渉はうまく押しとおせなかったのかな・・・・・、という葛城ミサトの見立ては外れた。
 
 
民間企業である限り、このビッグビジネスになるべく契約金をつりあげようと役員たちは計ったらしく、グダグダと交渉を引き延ばそうとしたらしい・・・・
 
それとは別に、鶴の一声で決めてしまう実力を持った社長の大河内氏も、ヘテロダイン対策の切り札であるダイ・ガードを事態の見極めがつかぬうちに外部へ出すことに抵抗があった。ロンド・ベルと言えば海外はもちろん、世界をまたにかけるだけで飽きたらず宇宙へも登り、必要とあれば異次元にも転戦していくというとんでもない行動集団である。
21世紀警備保障は国内各地にヘテロダインを発生させる”界震”観測所をもちデータも蓄積してきた。これらの監視網もいわばダイ・ガードの目であり、機能であるのだが、これらを置き去りにするような短慮は避けたかった。何より、ヘテロダイン退治のキモである弱点、フラクタルノットの位置を見破る装置をコンパクトにアーガマに設置する時間くらいは欲しかった。が、何を急いでいるのか、ロンド・ベルはそんな時間はやらん、と言う。とにかく早く来てくれ、正義と平和のためだの一点張り。
 
役員たちも、金のためばかりでなく、(その比率は企業秘密)社員の命がかかっているためただでさえ遅い判断がさらに遅くなる。手当がどうの、保険がどうのと細かいところまで確実に決めようとするからなおさらだ。平時ならば頼りになる構造であるが、今は戦時。こうしている間にも悪党はトップダウンの即座すぎる意志決定のもと、迅速な行動で悪事を働いているわけである。もちろん、悪党は給料をもらえたりしないわけだし、労災もないが。失業保険を出したら、悪党の数も減るかもしれないが、そんなもんはなかった。
 
 
かくして、民間企業のありがちな態度にイライラするロンド・ベル。
いざとなれば役所も民間もそうは違いはしないのだ。
特に、金を払う立場にある破嵐財閥の破嵐万丈がキれてしまった。 ダンディーな好青年である彼だが、それだけで財閥の総帥などやれるわけもない。怒らせるとそりゃ怖い。
「この日輪の輝きを恐れぬなら・・・・・」などと例のセリフでやらかしはじめ、役員たちを一喝して震え上がらせたところに、悪いタイミング、というか見計らったかのように、安保軍のダイ・ガードの二番煎じロボである「コクボウガー」が現れる。
漢字をあてると、「国防我」であろうか。ともあれ、二番煎じであろうが、コクボウガーもノットバスターを装着してヘテロダインを倒すことができる。しかも契約金、その他もろもろのお金などいらない、という。「平和のために」馳せ参じたのだから、税金を使って思う存分戦わせてもらう、ということであればもともとイラついていたロンド・ベルにもはや選択の余地はない。パイロットも多少面白みにはかけるが、指導官クラスの軍人ともなれば申し分ない・・・・というより、ブライト艦長ら首脳陣はヘタに問題ある癇癪と紙一重の熱血パイロットより気苦労が少なくて歓迎した。修正いれたり育てる必要もないし。いぶし銀系はロンド・ベルでは逆に珍しいしレアだし。コクボウガーも、機体色が艶消し黒などという、これまたロンド・ベルには珍しい地味系だし。ヘテロダインさえ倒してもらえばなんでもいいし。
 
 
ビッグビジネスが泡ぶくとなって消えそうになるとまた役員たちが悪あがきをしだす。
決断が遅くなったのだから素直に諦めればいいものを、少しでも儲けようと、対ヘテロダイン用必殺武器「ノットパニッシャー」をレンタルで貸し出してしまう。おまけとして「百目鬼里香博士・・・・17才の天才科学者、兵器開発担当。フラクタルノットを見破るのが得意な眼鏡っ娘」をつけてしまう!本人が「いいわよお・・面白そうじゃん」と了承しとるものの、哀しき商魂。そういうわけで、ダイ・ガードは不合格、アーガマに乗れなかった。やる気まんまんであった赤木俊介の落胆は、同僚ふたりのなぐさめ程度ではおさまりそうもないし、なぐさめている青山桃井の二人も納得しきっているわけではなかった・・・・・、と葛城ミサトは見る。赤木君、きみは正しい!
 
 
「で、ロンド・ベルがどこに行ったかは・・・・分かりませんかねえ?」
ダメもとで一応聞くだけ聞いてみる。
「詳しい目的地はこちらも知らされていない。ただ、日本国外だと言っていた。それで契約が手間取ったという点があるのだが・・・・」
戦術アドバイザーである硬質の雰囲気を持つ城田氏が硬質に返答する。ダイ・ガードがコクボウガーに押しのけられて、安保軍からの出向でこちらに来ているプロの軍人は複雑な心情である。額のあたりに深い皺が刻まれている。赤木俊介とはまた別の方向から、ロンド・ベルに同行すべきはダイ・ガードだと考えている。それは・・・・・
 
 
「そうですか・・・。あ、安保軍のコクボウガー・・・・でしたっけ?いくらこ〜悪党ののさばる緊急時とはいえ、そんな腰の軽いというかフットワークの良いことでいいんですかねえ。
敵はヘテロダインだけじゃないんだから、悪党宇宙人とか怪獣とか世界征服をたくらむ悪の組織の巨大ロボットが街を破壊してたら、排除するのは税金で動く安保軍の仕事でしょうに」
 
 
ずばり
 
 
言いにくいことを葛城ミサトが言い切った。軍警察にいたこともあるロジャー・スミスが隣で呆れる。もしかして、堅物ぽいこの戦術アドバイザーが怒りだすかと。だが。
厳しい表情はそのままだが、城田氏の額の深い皺が、一瞬、緩んだ。口元にもわずかだが、苦笑めいたものが浮かぶ。もちろん、これはネルフの素性を知った上でのことである。葛城ミサトもそれを認めて、ニコリと返す。
 
 
「そう!!まさにそうなんスよ!!ヘテロダインはダイ・ガードに任せて、コクボウガーはその名の通り、国防に専念してもらう!それが社会の基本ってやつじゃないスか!!」
再燃する赤木俊介。いいこといってくださいました、姉御!てな感じで目をキラキラさせている。まさに路地裏の宇宙少年の瞳だ。
 
「それを横から狙ったみたいに。いぶきさんも適材適所だって言ってたし!」
 
「あのねえ、赤木君、そういう意味じゃあ・・・・・」
 
「なんか足下をおろそかにしてるっつーか、職責を果たしてないっつーか!、単なる目立ちたがりっつーか!、安保軍の宣伝のためなんじゃないスか!?」
 
「赤木くん、赤木くん」
大杉課長がのんびりとたしなめる。言葉の綾でも古巣を悪くいわれて城田が面白かろうはずがない。若い社員の熱心度を買いながらも、ここらへんは年の功である。
 
「あ・・・・・す、すいません。城田さん。ちょっと言い過ぎたっス・・・・」
熱血君には珍しいほど気持ちの良い反省の速度である。暴走成分は少ない、と葛城ミサトは評価のマルをつける。ロンド・ベルに立ちふさがる熱血もあり、若者らしい潔さもある。
 
まあ、最終的に選択したのはロンド・ベルで、即座にダイ・ガードを派遣する決断ができなかったのは君の会社なのだけれど・・・・ロジャー・スミスも苦笑する。羨ましい彼の若さではあるね、と好意的につけ加える。
「ロジャーも昔は、ああ だったの?」R・ドロシーの全自動つっこみがちくりと。
 
 
「まあな。そう言われても仕方のないことをやっているな・・・・・」
今まで葛城ミサトたちのような部外の、しかも戦闘力を保有する人間を前にして、態度を硬化させていた城田氏が腹を決めたように解除した。葛城ミサトとロジャー・スミスが彼らを見ていたように、彼らも、というか城田氏と大杉課長のふたりだ、同じように観察していた。とりあえず信用に値する相手がどうか。ロンド・ベルと提携しそこねた現状で戦術アドバイザーとして考えねばならないことがある。もう少し腹を割って話を続ける価値はある相手だと、判断した。その時。
 
 
緊急警報が鳴り響く
 
 
「ヘテロダインか!?こんな時に!」さすがこの面子は即座に体が動く。
 
2名をのぞいて。
 
「へえ、応接間にもこんな警報が響くんですか。さすがは警備会社」
「いえいえ」
妙なところに感心する葛城ミサトであり、謙遜する大杉課長。二人ともソファのまま。
そのキモの座り方に感心される。が、それだけではない。ネルフの作戦部長は。
碇ゲンドウのポーズをアレンジしたように、目を細めると一同に深、と冷静に告げる。
 
「ロンド・ベルが出ていった後ですからね、思いこみは禁物ですよ」
 
「・・・・む」
 
 
葛城ミサトの指摘したとおり、警報は界震によるものではなく、悪の敵襲によるものだった。ロンド・ベルがここに停泊した情報をつかみ、おっとり刀でやってきたミケーネ帝国ブロッケン伯爵率いる鉄十字軍団。だが、時既に遅し。アーガマは出発した後。無駄足になった腹いせに目につくそこらの建物を破壊しようとしたところ、葛城ミサトの号令のもと出撃した零号機、弐号機、四号機のエヴァチーム、つき合いでやむなし、ビッグオーがショウタイムアクションし、本社がやられちゃかなわんと役員に命令されたダイ・ガードが合体。
で、戦闘の結果
 
 
大勝ち
 
 
であった。特に、相手が碇シンジを襲撃したミケーネ帝国であり、
「アンタたちがシンジを・・・・」惣流アスカ、
「あなた達が碇君を・・・・・・」綾波レイ、
「シンジ君に何をしてくれたんだい・・・」渚カヲル、
三人のチルドレンの活躍の凄まじさと言ったら。まさに獅子奮迅、ここであったが百年目の気迫、ドラゴンもこれを避けてとおるほどであった。
「シンジとは何者なのだ?ワシは知らぬぞ!知らぬのだ!!」悪は悪でも初対面で恨まれる覚えがないブロッケン伯爵も戸惑うほかはない。特筆すべくは綾波レイの戦闘の様子であったのだが、いかんせん頁がない。実に残念である。
 
 
現場を知る指揮官、城田氏がエヴァに一目おくようになったのは言うまでもない・・・。