スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<斬魔大聖ルート>
 
 

 
 
「これからどうすんのかな・・・・」
惣流アスカがメランクリックに髪をかきあげて呟いた。ボーリング場の女子トイレの鏡に映る表情は、先ほど、広報二課の大人たちに見せていた快活さとはうって変わって陰になっている。「・・・・・・シンジ」
 
 
今日も「待機」で具体的な行動には移らない・・・わけだが、「気晴らしに街の中でも案内してもらったら?」、という葛城ミサトの勧めによって、広報二課の大人たちにここらへんのお勧めスポットを案内してもらって見て回ることになった。どうせ足もないし、一日中警備会社の中にいても退屈でしょうがない。意趣返しに機械獣が仕返しにくるかもしれないが、それならそれでかまわない。ファーストは、会社の図書室で一日中本を読んでいられるし、渚は一日中、海に向かって鼻歌を歌っていても平気なヤツだけど、確かに気が鬱積してきているのは分かる。・・・・・シンジのことがある・・・・・
確かに、難しいところだ。気持ちの割切り、というか、モチベーションの保持というか
これが、シンジだけ敵にさらわれた、というのなら、こんなとこでチンタラしてられないしどんな手を使おうと奪い返すためにラン・アンド・ガンで疾走しているだろうが、・・・・・
 
これが、シンジだけ、「当初の目的を果たし」て、ロンド・ベルに参加しているのだ。
心配すればいいのか、それとも喜べばいいのか・・・・ともあれ運命を恨むしかない。
なんとも明言し難い感情が胸を渦巻いている。ファーストも渚も、も同じなのだろう。
そして、自分たちがどうすればいいのか。答は明白だ。これも同じ答を出しているはずだ。
 
 
おそらく、合流はもう不可能だろう・・・・・。今は悪の跳梁跋扈する戦時であるし、何より相手は好き勝手に転戦し続けるロンド・ベル。こちらに同程度の飛行戦艦のような移動手段があったとしてもとても追いつけるものではない。
まさに、運命が悪戯でもしないかぎり。
参戦を一度却下されていることを考慮すれば、その可能性はますます。
 
 
ゆえに、ベストの選択は、現状に留まり、悪党どもの目を惹きつけて、おびき寄せて敵船力を削ぎ出血を強要させ、悪の企みの足をひっぱる。攪乱。そういった形の援護だろう。
いわば、ロンド・ベルの影武者だ。
悪の殲滅という目的が同じならばどこで戦おうと同じこと。戦いが終われば、会える。
 
終わるまで、会えない・・・・。
 
エヴァ初号機の力は、信じている。けれど、碇シンジは・・・・・
そして、もう一体のエヴァという怪しげな存在の同行を思うと・・・・・切なくなる。
心臓をゴムの棒でつつかれるような圧迫感がある。苦しい・・・・
 
 
葛城ミサトがその「ベスト選択」など全く考慮にいれずに、碇シンジ追っかけ隊!な作戦を考えていることを知ればその苦痛も和らいだだろう。が、下手に子供ながらに頭がいいとまさか自分たちの指揮官がそんな不合理なことを考えているとは思わないから、人知れず苦しむハメになる。
 
心に棚をつくって演技がうまいようでも、大人にはやはり見抜かれている。
 
 
と、いうわけで葛城ミサトから頼まれた広報二課の面々は、
 
「子供パイロットのご機嫌取りってのはどうもね・・・」
と最初はクールに渋っていた青山圭一郎も、
「確かに。ヘテロダイン以外の敵が現れたらダイ・ガードだけじゃどうしようもないしね」と、ヒロインのわりには子供の時の体験により内面がいささか屈折している桃井いぶきも、
「ネルフって国連直属の特務機関なんでしょ?そこのパイロットとなればもー、ふつーの子供じゃないわよ。まともに相手にしようとするとこっちがバカ見るんじゃないのー?」
情報通ではあるが、いささかそのニュースの質に問題があるガン黒課員、谷川も、
 
 
「仲間、同僚、いや、あのくらいなら友だちっていうんスかね、・・・・それと離ればなれになるのはやはりつらいっスよね・・まあ、あの子たちのは合体ロボじゃないスけど、気持ちは同じなんじゃないスかねえ」
 
・・・・なんだかんだいいつつも基本的には「人という字は人と人とが支え合う合体ロボ!」のパイロットとそれを間近で支える者たちであるから、余計なことを考えないだけに本質を明確につくことができる赤木のこの一言で「そういえばそうだなあ」もはやすっかりその気になり、しまいには大張りきりでそれぞれ秘蔵情報を持ち寄ってチルドレンギザハートをセーブしようと「子供が喜びそうなお勧めスポットMAP」を作り、楽しんでもらおうとしたのだが、「遊園地系ははずれかな?訓練で似たような機械にのるだろうしなあ」「だから!!食い物屋は外せっての!グルメツアーじゃないんだから!」「定番のカラオケは外せません」「接待というとやはり・・・・あ、未成年か」「ちょっと遠出になりますけど、健康的にゴルフとかどうでしょう〜」いかんせん個性的な面々が各自お勧めするスポットはあまりに違いすぎて、一週間あってもとても回りきれるものではなかった。そこは広報であるから情報量が多いのはいいとして、では初日にどこへ行くか?で揉めた。
 
 
「じゃあ、ボーリングをやって、一番の人の意見を採り入れましょう」
こういう時、うまくまとめられるのが女の器量というわけで、28才の最年長女性課員の大山さんが無難なところで、ケリをつけた。ちなみに、この大山さんは赤木が負傷入院した折りに、その病院を守ろうとダイ・ガードに乗ろうとしたほど気丈なところもある。出身は広島。まさに、金の草鞋を履いてでも探したいあねさん女房なひとである。
と、いうわけで「イベント警備」という名目で午前中からいい大人がそろって二課室をカラにして子供らとボーリングに行ったのである。てめえらでイベントしとれば世話ないが。
 
「わたしもいきたかった・・・」しょぼんとした大杉課長を電話番にして。
 
 
チルドレンにあわせて三チームに分かれて競うと、ボーリングもそれなりに盛り上がる。
 
綾波レイは普段通りで淡々と、
渚カヲルもいつも通りに華麗に、
「てぇーい!!いけえっ!よっしゃ!ストライクっ」ただ惣流アスカが異様に熱血してはしゃいでいた。もちろん、今時ボーリングなんぞで心の底から楽しんでいたわけではない。外面的なものだ。綾波レイはあの通りであるし、渚カヲルも楽しんではいるのだが普通の大人が喜ぶようなリアクションではないし(一部の大人女性は喜んでるケド)。
ゆえに、ここは自分が応えねば・・・・・
そういった使命感的快活さである。バカだとここで、自分のウソに騙されて本当になんだか楽しくなってくるのだが、いかんせん、惣流アスカは頭が良かった。我に返ってしまう前に、女子トイレの鏡の前で自己暗示をかけ直さないといけない。碇シンジがいれば、もう少し気楽に、いい加減にやれたのだろうが、いないもんはしょうがない。
気合いを入れ直して・・・・・・いこう。今頃、ミサトもうんうん唸って今後の動きを考えているはずだ。で、戻ってみると、綾波レイのところに異様にギャラリーが集まっている。店の人間もカメラと何やらクリップボードのようなもんをもって来ている。
何事かいな?と思って、ひょいと得点モニターのところを見ると・・・・・・
 
 
「げげっっ!!」
 
 
さきほどの中森明菜ばりのメランコリックさはどこへやら、奇声をあげる惣流アスカ。
綾波レイは、一つとしておとさずにここまでパーフェクトにストライクできていた。
淡々と、大人しく、静かに、ガッツポーズなどとらないので、快活な演技で忙しかった惣流アスカは気づかなかったのだが、ここまでパーフェクト・・・・・なんでやねん。
ちなみに、快活演技で周囲のサービスに忙しかった惣流アスカのスコアは大したことはないというか、最後から数えた方が早い。太り肉三人組よりも悪い。ちなみに渚カヲルにも負けた。チルドレンの中ではビリケツであった。平常心で、マイペースに、余計なことは一切考えずに、ボーリングに向き合っているのだから当然と言えば当然だが、面白くない。
 
にしても、パーフェクトというのは確かにけっこう凄い・・・・・・かもしれない。
ストライクが続こうがどうしようと、フォームは機械のように全く崩れずに、玉は清流の中の光のごとく、すいーと静かな軌跡をえがいてピンを倒す。
 
 
「すごい集中力ね・・・・」桃井いぶきが感心している。確かにこのスコアを見せつけられれば、その無表情もそのように受け取られるだろう。惣流アスカは「しまった・・・・その手があったか・・・」と一瞬、おもったが、ここは無愛想なファーストチルドレンが皆に受け容れられているのを喜ぶべきだろう・・・・・釈然とせん部分がないでもないが。「このままいけば、パーフェクト賞で健康ドリンク一年分だってさ。ほら、店の人間ももう表彰状と記念撮影の準備してる。これはいくね」「もうちょっと女の子らしい賞品ないの?健康ドリンクなんてさー、ムキムキマッチョな野郎が勝つとは限らないっての!ちょっと交渉してやろうかしら・・・」白ぶたと小だぬきのような伊集院と谷川が早くも皮算用。だけど、ファーストならやるだろうなー、と惣流アスカにも確信がある。
 
「ふふ・・・・さらわれてしまったね」
その隣に、ふいっと渚カヲルが。その赤い目が深くやさしい。
 
「べつに。悔しくなんかないわよ」
こいつもその気になればパーフェクトいけるんだろうな・・・得点モニターを見れば一定のリズムがある。楽しんでいるのだろう。そのくせ、”分かっている”のがまた。渚め。
ふっと、惣流アスカの肩の力もぬける。
 
 
「それでは!お集まりのギャラリーの皆様!パーフェクトを目前にひかえた綾波、レイ嬢の健闘を祈って、応援のエールを、この不肖わたしく赤木俊介が送らさせて・・・」
「ばか!赤木!そんなことは達成後にやれ!レイちゃんの気が散るだけだろうが」
 
赤木俊介が即席の応援団よろしく盛り上げようとして、青山圭一郎に止められる。
 
「いいじゃないか、みんなの熱い応援がパワーになって偉大な記録を達成できるんだ!」
「いや、それはお前の場合だけだ。すまない、このバカには無視して集中してくれ」
これでよく同じロボットに乗っているなー、という思考の違いである。が、二人ともどこか嬉しそうだ。
 
 
綾波レイは、ふたりのほうを首だけ振り向いて、ちょこん、とおじぎをした。
 
 
それは赤木に対してなのか、青山に対してなのか、それとも・・・・まあ、野暮であろう。
赤木と青山は同時に応えてサムズ・アップ。
 
 
そして、投球。零号機に似た色合いの蒼いボールが、ピンに向かって走る。
これまでストライクをとってきた同じ軌跡。まったくぶれはない。さすがは冷静の国の王女様である。これで、パーフェクトは確定、と誰しも思ったその時。
 
 
超巨大な盾(シールド)に阻まれた。
 
 
おそらく、蒼いボールは鈍い音をたててレーンを外れたのだろうが、誰もそんなことを想う余裕はなかった。突如、まさに、空間をケリ破ってきたような、唐突すぎる出現を果たしたその超巨大な物体が発生させるズドドドドという轟音と衝撃に、吹き飛ばされぬようにするだけで精一杯。目の前のものがなければ、地震かとおもうところだが、あまりにも明確に振動の原因が分かりきっている。臨時ニュースを聞くまでもない。
 
「機械獣のしかえしっっ!!!?」
柳眉を逆立てて即座に反応する惣流アスカだが、
「いや、ちがう。こんな出現は彼らにはできない・・・接近時の振動も・・・上空からの巨大質量の落下音もなかった」渚カヲルが真剣な顔で言うからには確かなのだろう。予兆もなにもなく、ただいきなり、この巨大な盾は現れた。まるで、時空跳躍ワープでもしてきた宇宙船のように。そんなに綾波レイのパーフェクトの邪魔がしたかったのか・・・・・、そういうわけでもなかろうが、着地点にここを選ぶとは相当な変わり者か、または失敗したか・・・・
 
 
「そして、なにより・・・・・」
赤い瞳が巨大な盾の、ほんとうの姿を見抜く。それは、目の前に突如現れた立ちはだかる巨大な盾は・・・・・さらに巨大な「何者か」の「脚」であることを。
そして、巨大な脚をさらにさかのぼり、ボーリング場の天井など突き破って遥か頭上の空より憎しみの声がする。正しいかどうかはさておいて、怒りの声もする。
 
 
 
「やべえっ!モロに踏んづけちまった!!」
「やっちまったロボ〜」
「この大うつけ!!どこに着地しておるのじゃ!!これは確実に2,30人単位でペシャンコになっておるぞ・・・・どうするのだ、九郎!」
「何をそれほど驚いているのだ、大十字九郎にアル・アジフ?。やっていることはいつもと同じではないか。我が輩の破壊ロボと戦った時など・・・・」
「てめえ!ウエスト!!なにきょとんとしたハト豆顔で冷静な説明セリフかましてやがる!知らない方々が聞いたら、俺たちがそういうキャラクターだと思われるだろうが!もとはてめえらがデモンベインに密航してたからバランスが・・・」
「エルザ。聞くのである。自らの未熟な操縦テクニックをフリースローで投げて、リングにも当たらずに外してしまっているこの哀れな責任転嫁男の叫びを。精神のバランスが保たれていない証拠なのである」
「て、てめえにだけは言われたくねえ・・・・・断じて絶対、永遠に」
「エルザはすこしくらい下手でも気にしないロボ。ダーリン」
 
 
とりあえず、踏ん張った脚の位置がピン側ということで、衝撃波で多少の軽傷者はでたものの、奇跡的に死者はでなかった。いきなり日常風景に、降って湧いたこの「異変」。
 
 
彼らこそ、ロジャー・スミスが言っていた「ロボット探しの名人」、アーカムシティーから破格の条件で引き受けてやってきてくれた、「魔導探偵 大十字九郎」とその永遠のパートナーである「魔導書 アル・アジフ」。この二人が駆るのが「魔を断つ者」という名をもった両脚にシールドを装備し、ここからでは見えにくいが、エメラルド色の光の鬣をもつ魔術回路を内蔵する巨大ロボット「デモンベイン」であった。
そして、無断で勝手についてきたらしい、マッドサイエンティスト、ドクター・ウエストと、彼が造ったロボットのエルザ。
 
 
ともあれ、空気が完全に停止してしまっているので、作品説明などはまた次回。