スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<ドロン・ベルの産声ルート>
 
 

 
 
小樽到着後。
 
ロジャー・スミスの事前の下準備のおかげで、葛城ミサトたちはすんなりと艦内に入れた。
不幸が重なり不評がたってガラ空きとなっためぞん・ヒリュウ改に新しく入ってきた店子たち・・・・ひとくせもふたくせもあることに美人の管理人さん、いやさレフィーナ艦長が気づくのはもうしばらくかかる。ロジャー・スミスの折り目正しさ律儀さ有能勇敢さはサドンインパクトで艦長のハートを撃ち抜いていたからだ。葛城ミサトの人選の正しさというやつだ。ティターンズの強奪から艦を守護しぬいた、というのはやはり大きな信頼だった。
 
後から聞いてみれば、やはり連中もこの艦を重要視していたのだろう、強奪メンバーはジェリド・メサ、ヤザン・ゲーブルだのティターンズでも名のある連中だった。いくらヒリュウ改でもエース級の高速モビルアーマーでは相手がわるい。思い切りブリッジを集中攻撃されてヘタすりゃ戦死、ビッグオー(と謎の飛行女子高生)がいなければ白旗あげて降参するしかなかっただろう。それに、怖いのは腕がたってもパイロットのやることであるから、仕舞いには動力をブチ壊されて使いものにならなくされていたかもしれないこと。ロジャー・スミスの弁舌をもってしても交渉の余地はなかった。
 
 
「いいからよこせ」
 
「お断りします」
 
「じゃあ力づくだ」
 
これである。力づくだ、の、”く”、で、すでにビーム砲を発射しているのだから。
 
間が悪ければ、葛城ミサトたちが到着したときには戦艦の骸と対面したかもしれなかったのだ。戦艦の制圧用に向こうも戦艦アレキサンドリア改でそれなりの人数を後方に控えさせていたようだが、エース級がやられた上に、こちらの戦力が読めないことに(それはそうだろう)恐れをなして早々に逃げ帰ったという。正しい判断だろう。
 
ジェリド・メサやヤザン・ゲーブルには恨まれたが(スキル・逆恨み発動・対象相手にダメージ1・5倍)そんなこと知るかざまあみろ、である。
先に手付けを打ったこっちの勝ちだ、ばーか、である。
葛城ミサトは精神コマンド「威圧」を手に入れた!。
 
 
ともあれ、ビッグオー(と謎の飛行女子高生と)であのティターンズを追っ払ったのである。その実力を信用しないわけにはいかない。次々と艦内に搬入されてくるロボットはデモンベインを筆頭にどれもこれも強そうで、今まで押し寄せる不幸の波に洗われるばかりでいいことなぞなかったヒリュウ改のクルーの喜ぶ顔といったら。
 
そして、そのロボットたちを駆るパイロットの面々を見たときの落差といったら・・・・・まあ、顔がひきつっていた。
(そこにドクターウエストのエレキてるシャウトがまたトドメをさす)。
 
 
「あは・・・あはは・・・・」レフィーナ艦長の笑顔も堅い。
 
一列に並んで敬礼でもしてくれるもんかと思っていたら、現れたパイロットたちはわわっと取り囲むとてめえらのことはさておいて、
「うわー、艦長ってこの人?艦長ってジジイがやる仕事じゃないの?」
「若いとは聞いていましたが、これほどとは・・・しかし、お美しい・・・」
「21世紀警備保障からやって参りました!赤木俊介です、赤木俊介をよろしくおねがいします!艦長さん!
「赤木くん!違う、艦長さんはその隣の方よ!」
・・・ってあなたは副長さん?」
「ヒゲをはやしてなくても艦長になれるロボ?」
「なってはいかんという法律はこの国にはないようであるな。アーカムにも多分なかった気もするであるが法律は専門外である」
「ウエスト、お前が法律語るな。いや、まあ、覚悟と実力さえあればなあ・・・覇道の姫さんみたいな例もあるわけだしな・・・ごついオヤジに怒鳴られるよりはうれしいかな・・」「九郎?ちょっとこい・・」「あ、アル?こんな群衆シーンのセリフまで・・い、いまのはアドリブだ!アドリブ!ノーチェックにしてくれよ、な?」「汝に関しては妾は地獄の耳をもっておってな・・・・”覚悟”はいいか・・・?」
 
「なんなんだよ・・・この人たちは」「綾人ちゃん・・」
 
「でも、向こうもそう思っているわ・・・」
 
艦長の若さについて口々に好き勝手なことをほざくのだ。にぎやかというか元気がよいというか勢いがあるというかちょっとにくたらしいというか・・・・。
その時点で後悔がほんの少しも生まれなかった、といったら嘘になる。
 
 
「はいはーい、みんな。じゃあ今晩はお互いの出会いを祝して、アンド、ヒリュウ改が強奪されずによかったねパーティーを行います。場所はヒリュウ改の大食堂、時間は・・・」
 
葛城ミサトがなぜか勝手に仕切っているし。
 
「それまでは自由時間、機体の整備が終わった人から、街へ買い物に行ってもいいです」
 
って、修学旅行じゃないんですから。しかし、それを連想させる光景ではある。
 
とりあえず、彼らのエネルギーをどこかよそに流してしまわないとまともでまじめな話はできそうもない。「すいません。レフィーナ艦長」ロジャー・スミスが苦笑しながら謝罪。「いえ、皆さん、個性的な方みたいで、・・・・これから知り合えるのが楽しみです」
「体力が必要になりますよ?たぶん」「それは大丈夫です、航海できなかった間、艦内の掃除や機関掃除とかやっていましたから!それはもう、艦内の隅々まで!」
そのことがレフィーナ艦長の知らず知らず艦長度を高めているのだが、それが発揮されるのまだ先のこと。
カツ。そこに気合いのこもった靴音が打ち込まれる。
背筋を凛と伸ばした葛城ミサトが軍礼に畏まった顔をして直立している。
 
「お初にお目にかかります、レフィーナ・エンフィールド艦長。葛城ミサトです」
パイロットたちを去らせた葛城ミサトがキリッと表情を引き締めて、手本になるような見事な敬礼を行った。びしり、と擬音がしてきそうなほど。
 
これがパイロットたち、異能のスーパーロボットをまとめる立場の人間・・・・
ロジャー・スミスの雇い主。ドロン・ベルの企画者にして、女首領・・・・
 
すらり、とした二の腕まである白鷺のような手袋の腕が動く。
凛々しく返礼をかえすレフィーナ艦長。この顔を先に見せなかったことが、彼女の態度なのだろう。建前で交わり利益を利口に上手に分割していくのか、それとも腹を割って二人三脚でやってく気なのか・・・その場合、片方が転べば両方こけるわけだ。
 
 
 
どちらを選ばれてもいいですよ、とその瞳は語っている。
あなたの判断におまかせします、それでやっていきましょう、と。
 
 
ロジャー・スミスが交渉したのは前者であり、艦内に機体を入れる許可を下したのもその契約によるものだ。レフィーナ艦長が信用するのは実際に対話したロジャー・スミスであり、それを雇っているからと言って葛城ミサトを全面的に信用などできるわけもない。
碇シンジを追うために天にも地にもこわいものがない葛城ミサトは、その二者択一にこそ敬意を払う。
 
 
レフィーナ艦長は判断を下す。
 
 
「ようこそ、ヒリュウ改へ。この艦が地上の暗雲を吹き払い、天に飛び立つその日まで、あなたたちに守護役をお願いいたします」
そして、葛城ミサトの信を得るにはまた、こちらが全力全心をもってあたるしかない。
艦長は、この目の前の人物を信じたい、と思った。信じるに値すると。ちまちまと小手先で利益を分け合うようなことで共に戦えるわけがないではないか。ヒリュウ改の行き先はそんなところには、ない。それならそもそも手を組まない方がいい。ヒリュウ改が飛び立てば、彼らをとんでもない場所へ連れていくことになる。龍は、小物には喰らいつかない。
龍が顎をひらくのは、爪をひらかせるのは、大強敵相手のみ。戦の渦中へ。
 
 
中途半端な覚悟なら、今、この場で艦を降りたほうがよいですよ、と言葉の裏で葛城ミサト相手にそう言ってのけたのだ。飛ぶ龍につき合う覚悟はありますか、と。
わたしがヒリュウ改を向かわせるのは、そんな場所なのですよ、と。
 
 
なんだかんだいいつつ、今日の今日まで艦を率いてきただけの貫目だわ・・・・こりゃ
年を経ていようが経験が深かろうが、覚悟がなければ今のレフィーナ艦長には何者も圧倒される。葛城ミサトも、その目の輝きにぐぐっと圧迫感を感じたくらいだ。艦をどこへ導く気でいるのか、確かに理解している目だ。人徳や能力なんぞでは戦艦クルーはついてこれないし、命を預ける気にもなるまい。そうでなくてはならない。隣の百戦錬磨らしい白髪のショーン副長も満足げだ。頷きながら、よしよし・・・・と。この伏龍の時に、全般的に若いクルーたちを彼が教え育てていたのだろう。雌伏とはよくいったものだ。
どんなに優れた報告書があったとしても、直接会ってみないと、やはり人間は分からない。
 
 
そして、雄飛の時は今だ。
 
 
「魔を断つ剣デモンベイン、地球防衛ダイ・ガード、信義を握る鉄拳ビッグオー、時を超える歌翼ラーゼフォン、そして、新世紀エヴァンゲリオン、とりそろえてこの一件、確かにお受け致します」
 
軍人というよりは博徒の挨拶のようだが、ドロン・ベルなどと名乗った時点ですでに。
 
 
「もうにげられませんしにがしませんよ、いーんですか」
「じょーとーですよ。どこまでだってつきあいますよ」
 
レフィーナ艦長と葛城ミサトのへそのあたりに口があれば、このようなことを言っただろう。隣にひかえるナンバー2の男たち、ショーン副長とロジャー・スミスは女たちのみもふたもない本音をもちろん聞いている。だけれど、それでいいのだ。
 
この段階で、トップ同士が「”とりあえず”の護衛役を確保したからこの戦力でちまちまと戦功をたてつつ司令部にヒリュウ改の真価を認めさせて、奪われた戦力を取り戻す」とか「”とりあえず”のアッシーは確保したし、この調子でロンド・ベルに必ず追いついてやるわよ!」なとと考えていたらまとまるものもまとまらない。この先のことなどどうせ分からない。せこい思惑は足下をふらつかせるだけのこと。今は子供の粘土細工のような不細工さと真摯さをもって、ただふたつの塊を「くっつけてあわせてみる」ことに全力をつくす。
それは、とても難しいことで、どれほどの力をもった者でも、全力を尽くす必要がある。
トップはそれに全力を投入し、それ以外のことはナンバー2以下が調整すればいいことだ。
現実的ではない、と誰かが彼女たちを指さして笑うなら、男たちはその指を握りつぶす。
 
 
母艦が墜ちればそれはゲームオーバーを意味し、葛城ミサトたちはわざわざここまで「敗北の条件」を手に入れたことになるわけだが。生まれることがなければ死ぬこともないように。されど、敗北のリスクを背負わねば、目的は果たせない。
いくらなんでも待ってりゃ棚からボタボタっと碇シンジは落ちてくるまい・・・・いや、その可能性もあの子に限ってはなんか捨てきれんけど。とにかく。
 
 
 
ここに、悪が豊作だった今年に生まれた正義のダークホース、悪玉キラー、正体が今ひとつ不明で悪をさんざん悩まし恐れさせることとなる、悪よりも足が速く!悪よりも手が早く!悪よりも節操がな・・いや、発想が柔軟な!!、ロンド・ベルよりも始末におえないと悪党を泣かせることになる混成スーパーロボット軍団「ドロン・ベル」が産声をあげた。
 
 
 
「あ」突如、なにか思い出したようにまぬけな声をあげる葛城ミサト。
 
「?どうされました、葛城三佐」それを真面目に受け取る真面目なレフィーナ艦長。
 
「いや、艦長の断りもいれずに、つい歓迎会なんか企画しちゃいましたけど・・・」
 
「え?本気だったのですか、あれは」
方便とまでにもいかぬ、冗談口かとおもっていたのだけれど。目を丸くする艦長。
 
「本気も本気でした。あの、開催と大食堂の使用許可頂きたいんですけど、いいですか?」
ということは、パイロットたちもそれを本気にしていた、ということになるわけだ。
もしかして、”楽しみ”にさえ、していたかもしれない・・・・
 
「いえ、あの、歓迎会というのは通常、書いて字の如しで迎える方が行うわけで、・・・・えー、も、もちろん許可です!許可します!み、皆で仲良くできるように頑張りましょう!」
その言い方があまりに可愛かったので、葛城ミサトも、ロジャー・スミスも、一瞬、やばいところであった。あやういところで虜にされそうだった。いくらなんでも戦艦の艦長に萌えもあるまいし。そんな様子を、ショーン副長が年長者の貫禄で楽しんでいた。
一応、最低限の儀礼的準備は整えてはいたが、迎える面々が通常軍人とはあまりにかけ離れている・・・・彼らの持ち寄る流儀をメインにした方がよろしいのでしょうね、と。
それと我々の流儀を溶かし合わせて・・・・うまくやっていこうではありませんか、と。
龍が飛ぶための、新しく元気の良い風・・・・・・彼らとともに。
 
 
 

 
 
「えー・・・あー・・・・・
 
アラブの音楽家ハムザ・エルディーンの著書「ナイルの流れのように」によると、
 
「ド」は青、北、月、真夜中、寒さ
「レ」はピンク、西、日没、老人、思い出
「ミ」は日没前、南西、日の出前、南東
「ファ」は黒、死、未知なるもの
「ソ」は南、太陽、昼、死
「ラ」は緑、東、日の出、子供、発見
「シ」は日没後、北西、日の出前、北東
 
 
音階には、固有の性格があるという・・・・
 
のだが」
 
 
もちろん、こんなことを言うのはドロン・ベル(正式旗揚げ秒読み段階)のメンツの中でも魔導幼女、アル・アジフしかいない。しかも、言った相手は神名綾人に美嶋玲香の、まだ警戒がとけないのか皆から少し離れたところにいるこのふたりに。
機体の整備をしとくように、などといわれてもそんなこと出来るわけがないふたり。
中学生というから自分たちより年若の者たちでさえエヴァとかいう人型ロボットのそばでなにかそれらしいことをしているが、自分たちにはそんなことはできない。
だいたい動力もわからない、卵から生まれたらしいロボットをどう整備しろと?
教えて欲しいくらいだが、説明してくれそうな人間はいない。
かろうじて、渚カヲルか紫東遥がそれに該当しそうだけれど、渚カヲルは自分の整備があるのだろうし、紫東遥は見あたらない・・・・体調を崩して休んでいるのだとは聞いている。だがまあ、完全に取り残された・・・・・整備の人間も遠巻きにして見てはいるが、手を貸そうという者はいない。しかたがないから、少し離れて視線が届かない場所にいるしかない。感覚でいえば、あのラーゼフォンもミーゼフォンも、どこにも異常はない。
それでいいのか?と問われれば確固たる返答もしにくいが、そんなのしょうがない。
・・・・葛城ミサトももうちょっと、この美少年美少女カップルのことを気にかけてやれればよかったのだが、いかんせん、そこまで手がかかるとは・・まあ、十七才で高校生で、渚カヲルの眼鏡に適っているわけだし、美少年だし、という先入観もある、ので思ってなかった。整備しておけ、なんてのは実のところハッタリや見栄のようなものだった。長距離移動によるパイロットの体調診断のほうがよっぽど重要。そういうわけで、整備できないならできないで、ほうっておいて自販機探してジュースでも飲んで休んでおけばよいのだが。ドクターウエストなど、天才科学者で今こそ働き時であろうにエルザと一緒にハンティングホラーでさっさと街中へ北海道ラーメン食べに行ってしまった。
神名綾人は、育ちが良くて真面目で、美嶋玲香連れであるから、そんなまねもできない。自分一人なら当たって玉砕しても恥をかいてもかまわないのだが・・・・おまけに、
美嶋玲香が不安げに二の腕あたりをぎゅっと握って離してくれないので、移動が出来ない。
 
 
そして、肝心な、二人についてこの中で一番詳しい渚カヲルである。
彼も面倒をみねばなるまい・・・・と、いうところだが。
「おや・・・」
四号機を調べおえて、そろそろ二人の世話を焼こうかな、というところで、意外な人物が二人の方へ歩いて行ったので、その様子を見守ることにしたのだ。
意外な人物とは、アル・アジフのことで、何を言い出すのかにも興味はあった。
 
 
で、まあ、かくのごとしである。・・・・これはフォローかな、と思ったけれど、見回すと大十字九郎もその様子を見守っていたようで、視線を感じたのか目があった。
・・・・あいつにまかせてやってくれないか?その目が語る。否やはない。
 
 
神妙というか懸命というか、アル本人も実際のところは何を話しているのかあまりよく分かっていない焦った感じで、じろりと神名綾人を見上げる。なんでもいいからなにか返答せよ!、と顔にかいてある。音楽について語り合おうではないか、という余裕は彼女の何頁めを探してもなかった。
 
 
「は、はあ・・・・あの・・・だから・・・」
「綾人ちゃん・・・」
いきなりこんなことを言われても困る美少年美少女。前ふりも何もなく、互いにろくな自己紹介もしていない。なんせ合流したのが出発ギリギリ前で、飛行移動中も、デモンベインは緊急先行して行ってしまったから余計にだ。
 
 
「あの・・・・君は・・・」
「む?・・・・・魔導書に名を問うとは・・・これだけの機体に乗りながら・・・・
汝は魔術師では、ないのか」
「魔術師?って・・・・・魔法使いのこと?あなたは、魔法使いなの?」
 
 
あまりうまくいきそうもない会話の端緒である。はじめて三つ編みをやろうとするような。
それでも、大十字九郎と渚カヲルはしばらく黙って彼らの様子を見守る。
 
 
「魔術師は、正確には、あそこにおる、長い髪の男、あやつだ。妾は、魔術師であるあやつと契りを結んだ、魔導書。ネクノロミコン、またはアル・アジフという・・・」
「さいたまの外では、魔法使いが本当にいるんだ・・・」
「わたし、オズの魔法使い大好きなんです!っていうことは、魔法が使えるんですか!」
 
 
「ふふ、まあな。そんじょそこらのと一緒にされてもかなわんが、確かに魔法を使う。
自画自賛になるが、おそらく、妾の主、大十字九郎は最強の部類に入る魔術師であろうよ」
「へえ・・・・・あのロボットは魔法で動いてるのか・・・・」
「あ、その瞳、すごい綺麗ですね・・・・エメラルド・・・・ほんとに、綺麗・・・・」
 
 
「あ、あまり見られると照れる・・・・・しかし、そ、そんなに綺麗か・・・・・?九郎の奴は体のことについてはいうてくれるが、瞳の色のことはさほど・・・・」
「「体?」」」
なかよく首をひねる神名綾人と美嶋玲香。ふたりは兄妹のように育っている・・・。
その目はあくまで清く純真。世界はさいたまだけだと、ついこの間まで思っていた。
 
ばささっ
 
「い、いやー、整備すすんでいるかなあ・・・というわけで様子を見に来たわけでちっとも怪しくないおにいさんであるところの大十字九郎だよ〜・・・魔術回路なら俺たち、ちょいと専門家さんだから、君たちがよければ見てみるけど、どうだい?」
そこにマギウス・ウイングで文字通りぶっ飛んできた大十字九郎が、レスキューフォロー。
そこでレスキューされとんのは自分自身なわけだが。さすがに彼らのような少年少女に”そんな目”で見られるのは辛すぎるし耐えられない。
いきなりの魔術師出現でまた目を丸くする神名綾人と美嶋玲香。
 
結局、アル・アジフがふたりに話しかけたのは魔導書として、ラーゼフォン、ミーゼフォンへの魔術的興味からではなく、神名綾人と美嶋玲香が、まさにふたりだけで異次元に放り込まれたような顔をしていたからだろう。その孤絶感はアルのよく知るところ。
 
だけれどまあ、そのアクセス方法というかコミュニケーション技能というか、それは著しく偏っている・・・・ヌケヌケと堂々と「自分は魔導書だ」と名乗るあたりも。
さいたまジュピター出身というのが幸いして、これはあっさり受け容れられることになったわけだが。彼女も、自らを偽ってまで、他と交わろうともせぬだろうが・・・
 
ふふっ。渚カヲルは微笑して、彼らのもとに歩いていった。その背を惣流アスカと綾波レイが見ていて、「おーい、ふたりとも腹減ったんじゃないか?」ダイ・ガードの整備を青山といぶきに任せてきたらしい赤木俊介がどこからか買ってきたサンドイッチの大箱とジュースのペットボトルを持って走ってきていて。「赤木くん、コップを忘れてる!」そのあとを大山さんが追いかけて。
 
あたらしい、音が鳴り始めている。元気良く、それでいて相手と調和しようとする、
人にしか出せぬ、魔法でもないのに不思議な音・・・・・奏
 
 
 
「うまれている・・・・・らら」
遠く、沖縄はニライカナイ島・如月邸にて。
バイオリンの演奏を中断して、如月久遠がかろやかに、うたうようにつぶやいた。