スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<神の不確かな音ルート>
 
 

 
 
さいたまジュピターから渚カヲルが帰還した。北へいよいよ出発する三十分前のことであった。もちろん、てぶらではない。巨大ロボット2体を手みやげに。ロボットには当然、パイロットもいるわけであるから、二体と二人。渚カヲルと四号機のみの戦力で、当然その赤いお眼鏡にかなって獲ってきた戦力である。そして出陣直前とくれば、これ以上ないタイミングでの加入といえた。頭部に翼のある・・・神の像めいたロボット・・・
 
 
ラーゼフォン
 
 
ミーゼフォン
 
 
颯爽とした凛々しい貴公子の印象のあるラーゼフォンに比べて、ミーゼフォンの方は柔らかな西風豊穣の女神をおもわせる、フォルムで、まあ、端的に言うと胸がある、ということだが・・・・パイロットと同様に、男女の対になっているようだ。
 
 
ラーゼフォンのパイロット(奏者)は神名綾人・・・・・美少年である。さすがにオープニングで裸をさらせるだけのことはある。入浴シーンならばまだしも。なんというか、神話芸術的美少年で、このままコールドスリープさせて美術館に飾っても恥ずかしくない・・・・まあ、猟奇犯罪であるしやってはいけないが。天は二物を与えずで、ルックスがこれなら性格が相当なアレだろうと一見、敬遠されがちだが、渚カヲルが連れてきたくらいであるからそれも問題ないのであろう。神話的才能をもちながら、常識的魂で、なんとかコントロールしようとする、いわば”凧揚げ”をやっているような、「少年」であった。
 
 
ミーゼフォンのパイロット(奏者)は美嶋玲香・・・・・美少女である。またかよ、と言われそうだが、そうなのだから仕方がない。そんなに美少年美少女が好きなのかよ、ロボット!と逆ギレしないように。顔で操縦桿を動かすのかよ!!とつっこまないように。
 
 
で、ここでまたしても石龍の奴は「さいたまジュピター」の時みたいに「大嘘」こいてんじゃあるまいな、という注意深くて用心深い貴方のために「ゼフォンの卵ルート」についてのおさらいを。
 
 
さいたまジュピターに潜入した渚カヲルは懐メロが揃いすぎている(というか全部)レコード屋に入り浸る誘惑と戦ったり、神名綾人の在籍する高校に転入したり、いろいろと紆余曲折を経て、同じように外の世界から侵入してこれまた高校教師などに化けていたスパイ、”紫東遙”と協力し秩父鉄道に乗って「御花畑駅」の次の停車駅「世音神殿」に辿り着く。そこはさいたまを牛耳る、青い血をもつMU人、ムーリアンの最重要機密が隠されていた。そんなところに秩父鉄道でいけてしまうのがさいたまのいいところである。だからムーリアンに他県に先駆けて占領されてしまったのかもしれない。そこに、ラーゼフォンとミーゼフォンの素となる、白紙の譜面のような、ゼフォンの卵があった。
それはオーパーツとも呼ばれる、時と空間の神、高次元からの来訪者、かつてこの惑星に
あった超古代文明の遺物、形容がさまざまある、ということは実際のところはよく分かっていない、ということでもある。ゆえに、ここでいろいろと研究されわけだが。
 
 
世界を調律するために
 
 
その崇高っぽい目的に納得してしまい、多少やる気を失いかけた渚カヲルであったが、それよりも碇シンジへの友情が強かった。とりあえず、悪の軍団がのさばる騒がしい聞き苦しい音を静めるためにも、この力のある機体が必要だった。そして、この機体を動かすことのできる・・・奏者が。
 
その奏者の資格があるのは・・・・・神名綾人。紫東遥はそう語り、「この世界の真実を見せてあげる」と少年の探索本能に火をつけた。”この世界がさいたまだけではない”・・・・それは、あまりにも常識外れかつ、魅惑的な誘い。心の琴線が、掻き鳴らされた。
 
 
それでも いったいこの僕に 何ができるっていうんだ 窮屈な 
箱庭の現実をかえるために なにができるっていうの
 
 
少年の人生の倍ちかく生きている女の爪先で
 
その熱っぽい言葉は任務以上の、切実なものを感じさせたが、渚カヲルは黙っていた。
単身、このさいたまに潜ってくるにはなにか相当な想いがあるのだろう・・・・
 
 
神名綾人の立場は、さいたま総督府の、責任者、神名麻耶の息子・・・碇シンジとクリソツであった。そして、美嶋玲香は兄弟のように一緒に育った・・・血の繋がっていないつくられた妹とでもいうのがふさわしいだろうか・・・・妹以上彼女未満とでもいおうか。
 
両方とも、さいたまジュピターの中から出たことはない。さいたま以外の世界はここでは滅びたことになっていた。渚カヲルが21世紀警備保障の屋上で見たサマードレスの少女は美嶋玲香にそっくりだったのだが。どうも、違ったようだ。神名綾人を「綾人くん」ではなく、「綾人”ちゃん”」と呼ぶし。べたべたに甘えるし。三十秒でも離れていたら不安で不安でしょうがないような顔をする幼いタイプ。屋上で見た、彼女とは内面の深み神秘性があまりにも違いすぎる。
 
 
ともあれ、紫東遥と、渚カヲル、ダブルで説得、さいたまの外の世界を教えられた神名綾人は夜、家を抜け出す・・・・・・だが、そこらへんがお坊ちゃん育ちであり、あっさりと美嶋玲香にカンづかれて、ついて来られるはめになる。自分を連れていかないと行かせない!!と腕をつかまれて泣かれて説得も走って逃げることもできないのだから、美少年は大したことないなあ・・・・・というなかれ、美少女の涙に強いなんてのは自慢にもならないし、綾人には負い目があったのである。
 
 
さて。外の世界を知りたい!という少年っぽい感情のままに動く神名綾人にたとえ巨大ロボットを与えても、果たして戦う気になるかどうか・・・・・渚カヲルは碇シンジの例を知りながらも、その点は諦めていた。紫東遥からの「ゼフォンの卵」から生まれる巨人情報を手に入れて、最終的に渚カヲルが選択したのは、「その卵から生まれるという巨人だけを頂いて帰ろう」というものだった。手ぶらで帰ってもかまいはしないだろうが、さいたまを探った結果、感じるのはキナ臭さ。もうすぐここも戦場になる、という確信。これまで沈黙を守ってきたさいたまジュピターが外の世界へ討ってでる、という紫東遥の言。
その脅威に対抗するために秘密裏に沖縄あたりのニライカナイに本部をおく国連直属組織「テラ」からきたのだ、とこのあたりで正体を明かして自己紹介してくれたが。
空中に浮かぶ「ドーレム」と呼ばれる数々の異形の人型兵器、そして、それをみても騒ぐことのなく平然と暮らす一般市民たち・・・・これが何を意味するのか・・・・
 
世音神殿にてその意味の一端を知ることになる。
 
 
二人の足手まといを連れながらも、世音神殿の中枢に至る渚カヲルと紫東遥。
「あなたがいてくれなかったら、綾人くん一人ならともかく・・・、彼女は無理だったかも・・・」「いやいや・・・・僕も暴力は苦手な方ですので・・・・」
社交辞令をかましつつ、そろそろ双方、分かれ道がくるのを悟っている。
紫東遥の目的はゼフォンの巨人、ラー・ゼフォンと奏者 神名綾人をさいたまジュピターより連れ出すことなのだから。まー、できりゃああなたは美嶋さんを連れて元に戻るなり送り返すなりしてほしいんだけどナー、とそのツラに書いてある。が、色仕掛けにこまされる我らが渚カヲルではない。
 
 
夜であり地下であるのに、その場所には蒼穹があった。その中央には、肋骨のような螺旋の石柱に防御された巨大な卵らしき物体が・・・・「いくつも」あった。
 
 
「ゼフォンの卵っていくつもあるの!?」紫東遥は目を丸くする。位置はここであっているはずだ。夜の地下に蒼穹を現すような常識外れの空間がそういくつも造れるはずがない。
 
「ダミーか・・・・それとも、そのものに対する認識がはじめから間違っているのか」
渚カヲルの赤い瞳が興味深そうに細くなる。四号機をもってくれば詳しく調べられるのだけれど・・・・いずれにせよ、そんな時間はない。青い鼻血を出して倒れた警備兵たちもすぐに起き出してくるだろうし、異変に気づいた増援が駆けつけてくるだろう。
「何がはいっているんだろう・・・・・音、かな」
 
 
「と、とりあえず、近い方からあたってみましょう!。綾と・・・・・」
 
 
ラーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
ミーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
聖なる音が、蒼穹の空間を貫いた。卵から聞こえる。ふたつの卵。
「ラ」の音。「ミ」の音。それと共鳴するかのように、神名綾人と美嶋玲香の体が淡く光り出す・・・・・そして、卵にそれぞれ吸い込まれていった。
 
「これは・・・・成功しているのかな・・・・それとも、食べられてしまった?」
渚カヲルが紫東遥に意見を求めると、様子がおかしい。ガタガタ震えて顔色も悪い。
・・・失敗だったのか。それでも、あの音には悪意も攻撃性もなく、神聖さしか感じない。それが証拠にふたりは自ら受け容れるがごとく、なんの抵抗もしめさなかった。
 
 
ドレドレドレドレドレドレドレドレドレドレーーー
 
 
それに対して、バックアップロムカートリッジで記録に失敗したようなこの音は・・・・・紫東遥を呑み込み喰らおうとしている・・・悪寒もそのせいだろう。奥の方にある、やや賞味期限が切れた感じの卵からだ。渚カヲルが守護する前に彼女も卵に吸い込まれてしまった。
「罠だったのかな・・・・・」けろりとして渚カヲル。そして、次の音が来る。
 
 
シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
「シは四に通じて、同じ音は二つもいらない・・・・・分かるね?」
誰に問いかけているのか、渚カヲルはATフィールドを展開して”シ音”を止め、反転反響させて卵に返してしまう。
 
 
ぱりん
 
 
四つのゼフォンの卵が割れる。ラーの音の卵からラーゼフォンが。ミーの音がした卵からミーゼフォンが。ドレの音がした悪そうな卵からドーレムが。そして、シの音がした卵からは・・・・・
 
 
エヴァ四号機が。
 
 
そこから一悶着あった。というか、渚カヲルが指揮棒を振って場を仕切らなければどうにもならなかっただろう。ラーゼフォンの神名綾人とミーゼフォンの美嶋玲香は混乱しまくりだし、ドーレムに取り込まれた紫東遥はよりにもよってその二体を、特にミーゼフォンを襲おうとするし、異変に気づいたというか激震に思い知らされたさいたま総督府からドーレムが使わされてくるし・・・・・・のまさに大混乱大バトル。天国と地獄、ワルキューレ騎行、ベートーベンの第九がいっぺんに大音響で流されるような大騒ぎの中、世音神殿は崩壊した・・・・。天蓋の外に神を求めよ、星星のかなたに神は必ずおわしますのだ!
 
 
その中で、なんとかドーレムを四号機第三眼の力で解析して、取り込まれた紫東遥を救いだし、量子回廊を無意識のままに開こうとするラーゼフォンをなんとか留めて、ここまでくればもはや言い訳も何もない。潜入以前の計画通りにパイロットごと秘密の機体をもって帰ることにする渚カヲル。なんにせよ、さいたまジュピターの外に出なければ一切話が進まない。望み通りに少年に外の世界を見せて、少年のそばを離れたくない、という少女の願いを叶える。嵐の中を船出させたようなものだが、ラーゼフォンを自分とこの本部に連れていく気であった紫東遥は四号機の手のひらの中でノビてしまっているし、ラーゼフォンに乗ったこと、現れた研究所勤めであった自分の母親が古代文明みたいな格好をして「ムーリアンの末裔」とかなんとかあの冷静な顔と声で滔々と語りだしたこと、異形を相手にする初めての実戦闘、ほんとうにさいたまの外に世界があったこと、時間の流れさえ異なっていた等々に、美少年坊ちゃんの精神には衝撃が強すぎたらしく、クラクラクラゲ状態。「綾人ちゃん、わたしがついてるから、大丈夫だから!」と母性本能を発動させた美嶋玲香のほうがまだましであった。こういう場合、あまり他のことは考えない、難しいことは後回しにできる、適応力のある女は強い。
 
 
幸い、ラーゼフォンもミーゼフォンも操縦知識も技術もあまり必要のない、シンクロ型であったし、飛行もできたからジュピターを抜けてしまえばあとは一目散に渚カヲルの誘導のもと、第二東京へ飛ぶだけだった・・・・・。
 
 
18年前の世界に魅せられて、ずいぶん長居をしてしまったような気もしたが、葛城ミサトたちはまだ出発もしていなかった。故意に狙ったわけではないが、最良のタイミングになった。
 
「お、おかえりなさい。渚君」
「アンタ・・・・もう帰ってきたの・・・?」
葛城ミサトたちも渚カヲルのあまりのデキ具合に呆然とするしかない。なんなんだこの怖いくらいの有能さは。ソリッドスネークもびっくりだ。「さすがよのう・・・男はこれくらいやらねば」「ぽっ・・・惚れてしまうロボ」アル・アジフとエルザもぽーっとして、その帰還を迎える。
「ほほう・・・これはまた興味をそそられるロボットであるな・・・・」大喜びだが他の者とは一線を画した意味でドクター・ウエスト。「ま、無事で何よりだぜ」恒例のエレキギターでシャウトしだす前に、男くさい笑顔を浮かべつつシメておく大十字九郎。
 
「東京の近くにこんなスーパーロボットがいたなんてなあ・・・・灯台もと暗しってやつか」「さいたまの中にも人が住んでたのねえ・・・・木星みたいな色だから中もそうかと」ダイ・ガードの赤木俊介と桃井いぶきも、このあまりに簡単に行われた奇跡に興奮を隠せない。「・・・・あの歳でこんなことを簡単にやってのけちまう・・・末恐ろしいというか、頼れるというか・・・」これから向かう危険すぎる任地への不安が多少は紛れる青山圭一郎・・・わずかに冷静な距離をおきつつ、彼も興奮していたわけだ。
「しかも、美人のおまけつきとはね・・・・」紫東遥のことを言っているのだろう。男性陣は当然気になるところである・・・・。
 
 
神名綾人と美嶋玲香のことを、さして気にかけないのは、渚カヲルのことだから、親切丁寧に外の世界の状況を説明した後に、助力の意思確認を行った上で連れてきたのだろう、という考えが皆に当然のようにあったせいだ。渚カヲルとてそこまで神様の長い手をもっているわけではないのだが。まあ、80%ほどなりゆきで、こうなってしまったなどと。
 
 
そんなわけで、ラーゼフォンとミーゼフォンを降りた美少年と美少女は不安だった。
 
 
「・・・・・・」
よく分からないうちに連れてこられてしまったが・・・・・ここはどこなのだろう?
さいたま外の地図は知識として知ってはいたが、それで不安がおさまるわけではない。
空中から見えた大都市の光景・・・・・目立つフォルムの赤い鉄塔・・・・あれは東京タワー・・・・ここが東京・・・・失われたはずの世界が、堂々と続いていて。時は十八年、自分たちより先にいっていて。海に臨む広場にはなんだかマンガに出てくるような巨大ロボットがたくさんいて。神名綾人はいまさら血の気がひくような、手足の先が冷たくなってくるような不安を感じたが、
 
 
「綾人ちゃん・・・・・・・」自分の隣で手を強く握って不安に肩を震わせる美嶋玲香の、どう考えても巻き込んだ自分が悪い、のんきに恐れ怯えていれるわけがない・・・・・
彼女の存在が、なんとか地に立つ両脚に力を与える。与えてくれる。
 
 
「あなたが、神名綾人くんね」
しかし、美少年のそんな健気な決意も、百戦錬磨のお姉さん、葛城ミサトの前では暴風の前の蝋燭ほどの意味しかない。これ以上、わけのわからないことに巻き込まれて、玲香を巻き込ませてなるものか・・・・!そう強く念じるのだが・・・・さすがに相手が悪い。
「わたし、葛城ミサト。よろしくね」にここっと手を差し出す。
「は、はい・・・・よろしく」
笑顔でよろしくされらば、こちらもよろしくするしかない。ぎこちなくもその手を握る。
 
 
これで契約は締結されたと葛城ミサトは解釈した。責任者じきじきの最終確認だし。
それに、神名綾人にとって不幸なのは、葛城ミサトの頭の中になんせ碇シンジのことがあることだ。あれが全てのケースに適応されるとしたら大間違いなのだが。
 
これで、ドロン・ベルのリスト入り。渚カヲルの肝いりだし、葛城ミサトが大人しく見逃すわきゃあなかった。
 
渚カヲルもそれを黙って見ていた。なりゆきではあるが、ジュピター内があの状況であると、このまま自分たちと行動をともにしたほうが彼らにとって良いと判断したからだ。それよりも扱いを考えないといけないのは紫東遥の方・・・・途中で置き去りにすることも考えたけれど、綾人くんに対する裡に秘めた情熱のようなものを感じてしまったからには、二人を離してしまうこともまた良いか判断がつかなかった。さいたまジュピターの影響のせいか、未来視にもわずかながら断層が生じてズレが予測を狂わせる。
「とりあえず、演奏者には、楽器をうまく扱えるようになってもらわないと・・・・」
そのくらいは面倒見る気でいた。責任感はあるし、境遇としてみれば碇シンジによく似ているところが、やはり渚カヲルのツボだったのかもしれない。
 
 
 
ちなみに。
 
 
今回、綾波レイが出てこないのは
アル・アジフに油をぶっかけられて以来・・・・・なぜか
 
 
ものすごーーーーーーーく不機嫌
 
 
だからである。こわいので、誰も近寄れないのであった。