スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<いんたーみっしょん>
 
 

 
 
ブロッケン伯爵を撃退してから二日が経った。
 
 
「あーあ・・・この先、どうしたもんかねぇ」
 
 
とりあえず、まだお台場の21世紀警備保障に陣取っている葛城ミサトとエヴァチーム。
国際公務員が民間企業に人型兵器をもって陣取っているというのはあまり誉められた話でもなかろうが、現状が現状だけに、「いたければいくらでもいてもらってかまわない」という大河内社長から直々のお言葉を頂いているのでなんの遠慮もない。さすがにエヴァ三体とビッグオーともなると、そんじょそこらの空き地で休ませておくわけにもいかない。第三新東京市に戻るのでなければ、それなりに設備の整った「宿泊先」が必要になる。ただ、先日のように悪の組織が襲いかかってきたらダイ・ガードと一緒に戦うのが、”大人の約束”というか、条件なのだが、まあ、それは望むところであり全然構わないのだが。
ここの会社の宣伝として、ダイ・ガードとエヴァとビッグオーが一堂揃い踏みの写真を撮りたくて仕方がないようなことは言っていたが、それはかんべんしてもらった。
いつまでもここにいて疾風の用心棒をやるわけにもいかないのだ。
 
「こちらをとりあえずの”連絡所”としてお使いください」、とあてがわれた普段使ってない小会議室で葛城ミサトは考える。連絡所というか、出張所というか・・・ま、そんなことはどうでもいい。エヴァに一目置いてくれた城田氏のおかげで周囲は好意的だし。
 
 
やるべきことは・・・・・・わかりきっている。
 
 
碇シンジを自分たちのところに戻すことだ。ロンド・ベルへの合流という形にはこだわらない。とりあえずは、それが全てだ。そこからだ。もし、シンジ君にその気がないのにその力をあてこんで、無理矢理に艦に乗せたのであれば、一戦交えても奪い返す・・・!。
 
 
シンジ君と同行している「もう一体のエヴァ」・・・・「もうひとりのパイロット」・・・
 
 
この謎がある。一体誰なのか?なぜエヴァとネルフの名を騙る?・・・・・
 
なんらかの策略や謀略に巻き込まれている可能性が、非っ常〜〜・・・・に高い!
 
碇シンジのあの顔でエヴァ初号機から出てくれば、それは利用したくもなるだろう。
悪いけど、実力的に心配することはなにもない。伊達に人類の決戦兵器を預かっていない。
 
だが・・・・・その他方面においての信頼度はがた落ち。平均的中学生・・・、いや、平均的小学校高学年女子の部より、わずかに及ばないほどの信頼度しかない。
 
 
「適当な説明を受ければ、ホイホイついていく度」・・・・という度合いがあるとすると、幼稚園がホイホイ度100だとしたら、碇シンジのホイホイ度はおよそ75。
「すぐに騙され、お茶の子サイサイ度」・・・・・でも、サイサイ度はだいたい80はいくだろう。
 
シンジ君が同行したのは・・・・・ほんとに本物の「ロンド・ベル」だったのか?
 
凄まじくイヤな予想だが、なんせ相手は好き勝手に動く独立部隊であり、確認のしようがない。志さえあれば次々に仲間を増やしていく正義の軍団なんてものは、ある意味、ボスの下に命令系統が整った悪の軍団よりもとらえどころがない。実際、悪の軍団から見てみればロンド・ベルなど中枢の見分けのつかない合成珍獣怪物キメラのようなものだった。
(その観点で言うと現状の葛城ミサトたちは快獣ブースカということになる)
 
正義の軍団からみれば、悪の軍団はイナゴの大量発生のようなもので分かり易いのだが。そして、悪の軍団は自分たちの存在をアピールするのが非常に上手い。もちろんアピールして有名になるのが目的ではなく、罪のない人々を具体的に恐怖のどん底に陥れるためであり、そうしておかないとよその悪の軍団と区別がつかないからである。縄張りを知らしめるという意味もある。悪事というのは善行と違って、基本的なバリエーションに乏しい。嘘だと思ったら、最新シリーズの仮面ライダーを見てみれば分かる。つまり、正義の軍団は悪の軍団のことを詳しく知るチャンスが多いのである。そして、おおむね正義の軍団は口べたというか語りよりも実力行使が好きなので、自分たちの正義を語る前にケリがつく。悪事が展開されているのを目の前にしてそんな時間などないという事情もあるが。
ポイントは、正義は向かい合う敵を悪だと認識できるが、悪は向かい合う敵が、正義なのかそれともただの邪魔者なのか、認識のしようがないということだ。
そういうわけで、悪党たちはある場合は智恵を働かせて、ない場合は想像力を膨らませて、敵の正体を勝手に構築し、設定する。正義がそんなカラクリを知れば身震いがするだろうが、これはやもうえない処置なのである。正義も年季がはいってくればそれを逆利用するようにもなるのだが。
 
 
長々とこんなことを語ったのには理由がある。今後、葛城ミサトたちの運命に関わる重大なことだからである。アドベンチャーゲーム風にいうと、フラグが立ったわけだ。
これで逆襲のミサトルートへは逆侵入不可能となる。
 
問題は、ブロッケン伯爵がバードス島の本拠地に帰って、Drヘルに報告をする時にこんなことを言ったことだった。
 
 
「ロンド・ベルの”留守番部隊”にやられたのです」
 
 
と。皮肉なことに、悪の軍団の目から見ると、葛城ミサトたちも”ロンド・ベル入り”を果たしたのである。ブロッケン伯爵の上司である機械獣を蘇らせた大天才、ドクター・ヘルもホイホイ度は低いものの、「ほほう、なるほどな・・・あまり見ない機体ではあるが、いつのまにやらまた数を増やしておるわけだな・・」それを鵜呑みにしてしまった。悪者は意外とネガティブな考えをしないもので、常にポジティブにてめえの思うとおりにいくと考える。しかも、ミケーネ帝国は基本的に、温故知新の、前半部分だけを重視して新しいものは切り捨てる傾向があった。端的にいうと若者が嫌いなガンコジジイ系。
エヴァもビッグオーもダイ・ガードも、新しいのはあまり知らないのである。
下っ端兵士がエヴァのことを知っているのに、首脳部がそれではいかんのだが、それは悪のポリシーというか基本理念であるからやもうえない。
ブロッケン伯爵は首が体と離れていても軍人であり、不明瞭な言い方は好まないし、あの状況から判断するに、いちいち相手に聞いて確認とったわけでもないが、そうであろうと。
ロンド・ベルの他に違うタイプのロボットを保有している集団が思いつかないせいもあった。
 
なるほど、そうだろうな、と思ったが最後、それが悪の真実なのである。
 
そして、その情報は悪事千里を走る、ではないが、悪の軍団ネットワークを通じて全世界に流された。悪のブラックリスト、ホワイトリスト入りである。
その中にはむろん、ビッグオーも入ればもちろん、ダイ・ガードも入る。明らかに設計思想や武器系統が違うロボットが徒党を組んでいれば、それは全て「ロンド・ベル」。倒すべき目障りな敵。さすがの葛城ミサトもまさか悪の軍団からそのように見なされているとは夢にも思わない。悪はしょせん悪であり、悪の気持ちなど考えるだけ時間の無駄だからだ。自分たちがめでたく悪のターゲットにされたことなど、露知らず、今後の行動計画を練る。知らずの功名、それが碇シンジの乗り込んだアーガマの援護射撃になるのだが。
 
 
シンジ君が乗ったアーガマになんとか追いつくには・・・・・・
 
行き先を突き詰めるのはもちろんだが・・・・なんせ相手は神出鬼没。突き止めてこっちが追おうとした時点ですでに次の目的地へ出発しているという可能性が大きい。
なんらかの罠をしかけて、向こうが来るように仕向けるか・・・・・
または、こっちもアーガマ級の空中戦艦を手に入れて、それでしつこく追いかけるか・・・・・光子力研究所などスーパーロボットの基地に網をかまえて、戻ってくるのを待ち続ける・・・・・
 
 
「眠たそうなロジャーさん、どう思いますか・・・・・というか、起きてクダサイ」
当初の交渉目的はどこへいったのやら、ほとんど葛城ミサト付きの便利参謀と化しているロジャー・ザ・ネゴシエイター。どういう契約を結んだのかは不明だが、確実に契約金以上の仕事はさせられている。何やら昨夜は完徹で動いていたようだが、こういった場合、パラダイムシティーでの彼は自分の屋敷で好きなだけ眠る。午前中いっぱい昼まで。24時間は働かないネゴシエイターである。粘り強くタフではあるが、若くはないということかも。瞼がいまにもくっつきそうである。
そんな彼を呼びだして相談しても、いいアイデアはもらえそうにもないのだが。
気分転換に、と広報二課のメンバーと遊びに行かせた子供たちがかえってくるまでに、それなりの骨子をまとめておかないと、ということもある。
次善の策、はすでに拵えおわっている。このまま第三新東京市に戻ることだ。そして、碇シンジのことは総司令に任せてしまうことだ。司令ならばそれだけのチャンネルをもっている・・・・だろうが、時間がかかりすぎる。こんな混戦状態で、相手が独立部隊ならば戦闘が全て終了した後でようやく捉えられた、なんてことにもなりかねない。使徒が出てこないのが分かってるだけに余裕だしなあ、あのオヤジども・・・・・。
 
 
「起きて ロジャー」
R・ドロシーがロジャー・スミスの耳元でそっとささやく・・・・代わりに、いつものようなアンドロイドな声で無表情に言うとロジャーの耳に、ヘッドホンをかぶせる。ヘッドホンのコードはなんと、R・ドロシーの頭部に続いている。スイッチを入れるように目をとじる。かちり。ON
 
「アクション!!」
その途端、ロジャー・スミスの目から火花が散った!! いきなり立ち上がり両腕を高く掲げてポーズをとる。およよ、と驚く葛城ミサト。すごい効き目だが・・・・なんの音楽?
 
 
「ここにはピアノがないから・・・・・でも、これも効果があるわ」
屋敷ではピアノの高速早弾きで文字通り叩き起こすのだが、よその会社ではそうもいかない。そのため用意のいいR・ドロシーは「とあるCD」を持ってきたのだった。
”THE BIG O・ オリジナル サウンドスコア”・・・逆輸入盤である。
ちなみに、R・ドロシーの頭にはメモリー、記憶回路を挿入するためのスリットがあるのだ。そこを開くと漏れる光がライト代わりにもなる。
 
 
「ご安心下さい、葛城三佐。実は昨夜、昔馴染みの情報ルートを使って、アーカム・シティ在住の”ロボット探しの名人”と連絡をとったのです。こちらの事情を話したところ、ひどく感銘された様子でしてね、すぐに合流して、エヴァ初号機、碇シンジ君の居所を一緒に探ってくれるということになったのです。お代も一切不要、交通費さえもいらない、と仰ってくれています」
 
 
「ほ、ほんとですか!?そ、それはすごい、さすがロジャーさん・・・」
一転して勢いづいたロジャー・スミスにちと圧倒されながらも、思わぬ立派な仕事ぶりに感心する葛城ミサト。いやー、惚れてしまいそうですよあたしゃ。ただ・・・・
 
その「お代、交通費さえいらない」、というのがひっかかる。隣町ならまだしも、アーカムってアメリカでしょ?
 
まるで・・・なんだその、あれだ・・・・なんかヤバイことをやらかして逃げ出してきた犯罪者みたいやんけ。
 
そんな腹の色がちろ、と瞳の色に映りだしてしまったらしい。
 
ロジャー・スミスは敏感にそれをみてとった。つい、テーマソングにノって言い出してしまったが、この話はまだ完全にまとまっていないのだ。ああ、テーマソングさえ聴かされなければこんな凡ミスはしなかったものの・・・・R・ドロシー・ウェインライト・・・
恨みがましくアンドロイドの少女を見るが、我関せずノ無表情。ああ・・・・・
 
 
「ああ・・・・・あの・・・・実は、”ロボット探しの名人”は承諾してくださったのですが、その方が使用されるロボットの所有者は納得していない、ということなのです」
 
使用者と所有者が別々、というのはある意味、当然のことで、そう珍しくもないが、だいたいこういう場合、とくにロボット乗り、というのは我を通すのが得意な人種であり、意見が分かれた場合、だいたい泣くことになるのは所有者のほうなのだが。
 
・・・・・・どうも、話のニュアンスからするに、使用者と所有者が行く行かせないでケンカをしているようだ・・・・ロジャー・スミスとしては、所有者の方を説得しなければならないわけだ。たいへんだなあ、ネゴシエイターは。完徹はそのせいか・・・・
しかも、まだ説得は完了していない・・・・・
ふうむ・・・・・さすがにこれ以上ロジャーさんに相手をさせるのは可哀想なので、鬼の葛城ミサトも解放することにした・・・・・・「ごくろうさまです。では、一休みされたらひきつづき、その方向でのアプローチをお願いしま・・・」
 
 
その矢先。
 
 
緊急警報が鳴り響く
 
 
「あれが、ヘテロダイン?!」葛城ミサトの顔色が変わる。とっさに状況を確認しようと窓の外を見ると・・・・・空の一角が変色して、歪んでいるのだ。なにかが、空間を歪めて無理矢理に現れいでようと、妊婦怪獣の腹部のように膨らんでいる。モビルスーツでも機械獣ではない。だが、一戦やらねばならないだろう・・・「ロジャーさん!」
 
 
「は、はい・・・・び、びっぐおー・・・・」
ようやく眠れる、と思った途端にこれである。さすがのロジャー・スミスも萎える。
しおしおのぱあである。さきほどのリズムドーピングもあった。疲労はいや増す・・・
だが、パイロットが遊びにいっているダイ・ガードやエヴァよりビッグオーの方が現場に近い。やらねば・・・・いかねば・・・・・本職はパイロットではなく、ネゴシエイターだが、やらねばならない・・・・・へろへろの気力を振り絞り、腕時計型通信機に”例のセリフ”を入力しようとするロジャー・スミス。
 
 
「待って ロジャー」だが、それをR・ドロシーが呼び止める。
 
 
「・・・・・ドロシー?」
 
「そんな声では、ビッグオーには届かないわ」
 
 
やる気のない声で戦わされるビッグオーの身にもなれ、ということだろうか。確かにその通りである。気持ちがよく分かるのだろう。
だが、しかし人間の身であるロジャー・スミスには精神と肉体の限界がある。夜食だってドロシーの入れるミルクと砂糖のたっぷりはいったコーヒーともいえぬコーヒー牛乳と黒ゴマペースト・アンド・海苔チーズサンドイッチだけだったし。白と黒のドロシースペシャルである。
 
 
「あ、じゃ、わたしが代わりに呼ぶだけ呼びましょうか」
葛城ミサトがとんでもない提案をする。素でやるのはちょっとあれだが、今は”緊急時”だ。それよりも早くチルドレンたちに連絡をしたほうがよいのだが・・・・
実はちょっとやってみたかった。
 
 
「!・・・・・・・・・・」
珍しく、R・ドロシーが目をみはって驚いた表情をみせた。それからうつむく。
実は、彼女もやってみたかったのだが、まさか人間に先を越されるとは・・・・・
そうなると、羞恥心の方が先に立つ。その面では三十路が近い葛城ミサトにかなわない。
 
 
「え?ああ、ドロシーちゃんがやってみるっていうのがいいかも!ね、ロジャーさん」
綾波レイを相手にしているだけあって、わりあいその考えているところをすぐに見抜いた葛城ミサト。
「は?いや、あー・・・・そう、だな。ドロシー、確かに私の喉は現在、不調だ。
代わりにやってもらえないか」
実は、ロジャー・スミスはそれを誰にも譲りたくなかったが、葛城ミサトにそう言われてはイヤだというわけにもいかない。
 
 
頭をぶんぶんと振るR・ドロシー。「そんなつもりじゃ・・・・・なかったの」
 
 
いつもは無表情で人間味とは一線を画しているR・ドロシーにそんなことをされる人間は困ってしまう。子猫に泣かれる犬のお巡りさんもこんな気分だったのだろうか。
しかし、あんまりのんきに可愛さを味わっているひまもない。葛城ミサトが折衷案を考え出した。さすがはネルフの作戦部長、だてに碇シンジと惣流アスカと同居してない。
 
 
「じゃあ、三人で呼びましょう。これならいいでしょう?。で、セリフの方も少しアレンジして・・・・・ごにょごにょ・・・・」
二人に耳打ちして、準備完了。「なるほど・・・」「わかったわ」
「じゃあ、いくわよ!せーの!!」
三人で腕時計通信機に向かって叫ぶ。
 
 
「ビッグオー、ショウ・マスト・ゴー・オン!!」