だめ


 言ってはみたが、先が思いつかない。そもそも高校生二人にとって、このエロ本ブラザ
ーズの経験による壁はどうしようもなく高かった。

 「ど、どしたんだよ、マナー。なにか名案でも思いついたのか?」
 ねえよ。と、反射的に返したくなったがそこはグッと堪える。だいたい、にいむらは昔
やった漢字テストで“凸凹”の読み取りを“テトリス”と真面目に回答したほどの男だ。
ここで自分がキレてしまっては命取りになってしまう。
 「とりあえず、膝を使うにしても、俺が戦うにしても正面からだと戦いにくい。
ここは一旦退いて好機を待とう」
 そうマナーは提案した。実際のところは別に今戦っても勝てる自信はあったのだが、
にいむらが苛立っていることと、何かこちらに不幸が来そうな雰囲気。そして、古参有名コ
テに対してはもっと慎重にいくべきだと思った事が理由だった。
 「えー。俺は今こいつらにシャイニングウィザードを……」
 案の定、にいむらは反論してきた。
 「にいむら、俺の言うことが…」
 それに対して医学部A判定のマナーがやり返そうとした時に、悲鳴が聞こえた。

 「イエローさん!?」
 振り向くと倒れたイエローを挽歌が抱きかかえていた。
 「どうしたのですか、イエローさん!?」
 必死に叫ぶ挽歌にイエローは微笑みながら挽歌の手を握った。
 「泣かないでください、挽歌さん。私はこれから花咲く旅路に行くのですから……」
 「でも、こんなことって!」
 イエローはゆっくりと首を横に振った。
 「元々、酒と煙草と手コキと中国史のやりすぎで私の体は終わっていた。
そんな中、最後にあなたと出会えて良かった…」
 挽歌は下唇を噛んだ。もう泣きそうだ。
 「…では、何か最後のことばを。その願いを僕が必ず叶えます」
 少しの沈黙の後、イエローは答えた。
 「確かに私は電波かもしれない…」
 そして、叫んだ。

 「でも、おっさんじゃねえ!! 大学生だ!!」
 「イエローさあああああん!!」

 その一部始終を見ていた二人は結論を出した。
 「にいむらくん」
 「うい」
 「あんなん、やっちゃえ」
 「うい」

 「撃墜マーク五つ目ゲットっと」
 にいむらは数学のノートに五つ目の汚い星マークを書いている。
 「でも、マナー。あんな重要なコテ脱落させちまって良かったのかな?」
 「コテロワだし大丈夫だろ。問題があるようだったら、俺に考えがある」
 「そうか、なら安心だな」
 少しの沈黙がくる。
 「でも、マナー。片方逃げられちまったな」
 「お前の膝が悲鳴上げたのだから、しょーがねーよ。今度からは俺も戦前に出る」
 「そうか、なら安心だな」
 また、少しの沈黙が来る。
 「でも、マナー。腹減ったな」
 「市街地に行こうと思う。飯くらい手に入るだろう」
 「そうか、凄く安心だな」
 そして二人は歩き出した。終わりがまったく見えないこのゲームに立ち向かうかのように。

 「でも、マナー」
 「ん?」
 「2chのコテってろくな奴いないな」
 するとマナーは意地の悪い笑顔を見せ。
 「ばっか! その先鋒が俺らじゃん!」
 「…それもそうだな」
 そして二人は仲良く笑いあった。学校帰りの高校生みたいに。