サバイバルな彼女
まったくあの女、たいしたタマだぜ。
結局俺こと真空パック(42番)はあの後、寝息をたてる彼女、もといあの女、zin(41番)の横で一人探知機と睨めっこしつつ緊張した時を過ごした。
俺達自身の2つの光点以外に都合4回、人数にして6人、探知機の画面の範囲内に光点が現れた事があったが幸か不幸かこちらに向かってくる事無く画面の範囲外へと消えていった。
俺がそうやって神経をすり減らしながら見張りを続けていると、キッカリ2時間後、「ぐー」という腹の音と共にあの女は目を覚ました。
するとあの女は素早くバックから食料とペットボトルを取り出し
「腹が減っては戦が出来ませんからね」
と言い放ち食事を始めた。
オイオイ、お前は話し合いをするやないんかい? と心の中で思わず関西弁の突っ込みを入れつつ俺も腹が減っていたのでつられてメシを喰う事にした。
「それじゃぁ行きましょうか」
支給品のあまりうまくない乾パンを喰い終わると俺はあの女と共にまだ見ぬ「誰か」の捜索を開始した。
ちなみに俺も睡眠を勧められたが断った。
念の為この女の前で無防備な所は見せない方がいいと判断したから、というのもあるが正直こんな所ではとても眠れそうになかった。
で、捜索と言ってもあたりをふらふらと散策しつつ光点を見つけたらそっと近づき、どんな人物か確認する、ってだけなのだがあの女の事だから見つけた端から声をかけていきそうだ。
それは色々と不味いので俺が先に誰かを見つけねば、一緒に行動するのに適した人物か見極めなければいけない。
と思うもののあの女山や森へとずんずんと先に進んでいきやがる。
男である俺が追いつけないぐらいの速さだ。
「御免なさい、ちょっと歩くのはやかった?」
しかも俺と比べて全然呼吸が乱れていない。
どうも山や森で生活する事に慣れてる様な、そんな印象を受ける。
いつの間にか木の蔓と枝を使って簡易フック付きロープまで作ってやがる。
俺は木に背を預けて少し休憩する事にした。
「あなた……何者なんです?」
レンジャーですか? 忍者ですか? 原人ですか?
「火もおこせますよ」
あの女はニッコリ笑ってそう答えた。
答えになってねぇ?
その時探知機の画面に新たな光点が出現した。
俺はあの女の手に握られている探知機を覗き込む。
一つの光点がこちらに向かって来る。
さっき見張りの時に現れた光点達よりあきらかに動きが速い。この人物は走っているかそれとも何かに乗っているのか……
俺は腰に差した銃を抜いた。相手はマーダーかも知れない。念には念を。
「私、ちょっとどんな人か確かめてみます」
そう言うとあの女は近くの木にひょひょいと登り始めた。
なんという身軽さ。恐るべし女孫悟空。あっという間にかなりの高さまで登った様だ。
まさかあそこから声をかけたりしねーだろうな。
「誰かが走ってこっちに来ます……あ、あれは!」
何かに気付いたあの女は先程見せて貰った蔓で編んだロープを前方の木に投げつけその場から身を踊らせた。
遙か前方に消えていくあの女を見ながら思った。訂正。あいつは女ターザン。
などと言ってる場合じゃない。俺も疲れた体に鞭を打ちあの女を追いかけた。
何を考えてるんだあの女。
まったくあの女、たいしたタマだぜ。