BATTLE BREAKS


 YELLOWと別れてから、遥か昔の(略)(21番)はとりあえず市街地の方を目指していた。
 だが、市街地まで道半ばといったあたりで、20人もの人間が自分より先にホールを出ていたことを思い出した。
 20人もいれば、きっと数人、あるいは十数人が、有用な物を探すために市街地に向かっただろう。
 となると、すでにアイテムは無い可能性が高い。むしろ戦闘が始まっていて、それに巻き込まれてしまう危険もある。
 そう考え、針路を変更することにした。向かう先は、海。何故かはわからない。とにかく歩く。

 そして、下川の放送を聞いた。

「……こうやって聞くと、本当にロワに参加してるんだなぁ、って実感してしまいますねぇ……」
 放送を聞きながらも足は止めず、小さな声で呟く。その間も、死者の名前が挙がり続ける。
『恨むんならハカロワなんて企画に乗った自分達を恨むんやな』
 その言葉を最後に放送は途切れた。
(12人ですか……聞いた名前もかなり多いですね。しかし)
 ため息と共に、先ほど一瞬だけ会った相手の顔を思い出す。
(YELLOWさんも瀬戸さんも無事のようですね。ソープに行ければいいんですけど)
 彼の、いや彼らの無事を祈りつつ、遥か昔の(略)は歩き続けた。
 歩いているうちに磯の香りを感じる。間もなく森は途切れようとしていた。
 一歩、また一歩、海へと近付く。そういえば昔から、山より海の方が好きだった。
 やがて森は終わり、視界が開ける。遠くには水平線、波立つ海、白い砂浜、岩場。
 そして視界の端に……想定外に近くに、一人の女性が立っていた。

 洞穴を出た七連装ビッグマグナム(26番)は、とりあえず遠くを眺めてみた。
 見渡す限りの水平線。少なくともこちら側の方向には、近くに島などはないらしい。
 漁船や軍船の類も見えない。イルカが跳ねているわけでもない。ただただ広いだけの海。
 砂浜の方に目をやる。長く続く海岸線の向こうに、灯台が見えた。
 不吉だ。
 確かに銃器を持っているから、灯台は専守防衛には向くかも知れない。
 しかし自分がやりたいのは、このゲームを終わらせることだ。勝つことでも、ましてや殺すことでもない。
 だったら動かなくちゃ。
 今度は内陸の方を振り向く。砂浜が途切れたところから森になっていた。そこまで確認して、

 そして、下川の放送を聞いた。

 シイ原が、死んでいた。
 ホールで別れたとき、もう会えないだろうとは思っていた。会えると思える程、楽観的にはなれなかった。
(でも……一発目の放送に引っかかるかあ……)
 ゲームの参加者で、他に知り合いがいないわけではなかった。だが、一番交流が深かったのはシイ原だった。
 その場で目を閉じ、シイ原の冥福を祈る。
(仇は討ったげる。殺した相手に、じゃなくて、ゲームそのものを相手に、だけど)
 目を開く。そしてシイ原のことを頭の片隅に追いやろうとした。囚われすぎては、冷静な思考が出来なくなる。

 少し時間がかかった。

 改めて森を眺める。茂みの中に一本だけ、獣道の入口のようなものがあった。
 獣道を使った方が、人に出会う可能性は大きいだろう。
 だが、茂みを隠れて動いても、動きづらいし音は鳴るしでメリットは薄い。
 そう判断して、獣道の入口へ近付いていく。
 その道からひょっこり一人の男が出てきた。目が合った。
 目が合ったまま、どちらも動けなくなる。ギャルゲーではよくあるシーンだが、実際に遭遇するとなんか間抜けに感じる。
 間抜けに感じられるなら、それは冷静に自分を見ている証拠だろう。
「えっと……戦う気はないです。わたしは七連装ビッグマグナム。ゲームを終わらせたいと思ってます」
 単刀直入、必要最低限にして十分な情報を口にした。大丈夫、わたしは冷静だ。
「マグナムさん? 『白い決意。』の? ああ、私、あの作品好きでしたよ。白きよみに萌えるきっかけがあれでした」
 男の方も知った名前を聞いて緊張が解けたのか、口を滑らかに動かし始めた。
「ああ、あとスタロワもですね。だーまえとかいたるも萌えましたけど、しぇんむーが私的にはすごく格好良かったと思いました」
 ちょっと滑らか過ぎるかもしれない。
「あ、ありがとうございます……ところで、よかったら名前を教えてほしいんですけど」
「ああ、これは失礼。遥か昔のヘタレ書き手名無しさんだよもんです」
「……遥かさん、ですか? 全話感想を書かれた?」
「ええ、その遥かです。……戦う気が無いなら、少し情報交換でもしませんか?」
「そうですね、それは喜んで」
 とはいえ、始まって間もない段階である。大した情報交換は出来ない。
 YELLOWと遥かが出会っていたこと、YELLOWは瀬戸こうへい(というかソープ)を求めていること。この程度だった。
「ということは、マグナムさんはまだ誰にも出会っていないということですか」
「ええ、そうです。……ところで遥かさん」
「はい?」
「さっきも言いましたけど、わたしはゲームを終わらせたいと思っています。協力していただけないでしょうか?」
 ずばり、単刀直入。大丈夫、声は震えてない。わたしは冷静だ。
「そうですねぇ……わかりました、乗りましょう。ハカロワみたいな作品を作れる人が一人でも減るのはつらいですしね」
「っ! あ、ありがとうございます! よかったぁ、一人でも同志がいてくれるのは心強いですよ、やっぱり」
「多分ゲームを終わらせたいと思っている人は他にもいますよ」
「そうですよね! そんな人をいっぱい集めて、ゲームを終わらせましょう!」

 首輪に盗聴器が付いているのは、ロワ書き手にも読み手にも、安易に予想できることだ。
 だから、これは、七連装ビッグマグナムから主催側への宣戦布告であった。

【21:遥か昔の(略) 26:七連装ビッグマグナム 手を組む】