あなたに、力を…


「月は出ているか!」
「は?」
「月は出ているかと訊いている!!」
「……まだ昼間なんやし、でてるわけないやろ」
「むぅ。真昼の空、月があなたの目をさらっていくはずだが」
「わけわからん」

 このやり取りの発端は、少しばかり遡る。

「うっわ、でっけー武器」
 番号にして四番。L.A.R.の受け取った武器を見て、ヘタ霊(11番)は呟いた。
 自分の番号は11番。呼ばれるまで多少の時間がある。先を行く者達は何を思ってあの鞄を
受け取っているのだろうか。時間潰しにそんなことを考える。
(どーでもいいや)
 結局、最後はそこに落ち着くのではあるが。
 そう。どうでもよかったのだ。この状況すら、彼にとってはどうでもいい類のものだった。
人生なるようにしかならないをモットーに生きてきて二十数年。ここに来て彼の人生はかな
り特殊な展開を迎えたが、それももうすぐ終わる。多分、自分は死ぬ。仕方がなかった。そ
う、災害に見舞われた、それだけだった。自分がいくら用心していようが、唐突な変化は常
に外部より訪れる。その中で何を成すか、それが重要だ。
(というわけで、俺はこの状況を楽しむことにしよう。うん。お祭りだよ)
 L.A.R.を見て思う。あの十字架はパニッシャーだ。トライガンは一応読んでいた。もし自
分にあの武器が当たっていたらどうしていただろうか。ウルフウッドの真似事をしてみるの
も面白いかもしれない。ネタ的な武器を貰ったL.A.R.をヘタ霊は羨ましく思っていた。
 そう。支給品は重要だ。それによってキャラ付けが決まってしまう。今までのロワイアル
を思い出してみる。一番の好例は……やはり御堂だろうか。
 自分にはどんな武器が当たるのだろうか——と、そこで名前が呼ばれた。
「はいはいっと」
(面白い武器が当たればいいなあ。ハートチップルとか——)
「貴様に渡す武器は少し特殊だ。俺についてこい」
 は?

「大きい……」
 というより、長かった。
 白く、銃……と呼ぶには長すぎる銃身。平たいX字に開く羽根。トリガーの横には標準を
合わせるための電子的なディスプレイ。そして、「何か」を受信する装置と、これらを体に
固定するための用具。
 とりあえずこれが何かは理解できた。記憶にあるそれとは形もスケールも違うが、つまり、
「サテライトキャノン……だっけ?」
 月の送信施設から送られるマイクロウェーブをエネルギーに変える、超々強力なビーム兵
器。ガンダムはXで見るのをやめてしまったが、モビルスーツに装着されている武器として
はトップクラスの威力のはず。前方数キロに渡って草一つ残らない荒地と化すだろう。これ
に勝る武器は石破天驚拳や超究覇王電影弾くらいしかおもいつかない。違うか。
 これはそんな化物兵器のミニチュア版。そこまでの威力は期待できない。第一、そんなの
渡して牙を向かれたら、管理者側が壊滅する。
「というか、そもそも本当に使えるのかね」
 試しに構えてみる。肩に担ぎ、標準を覗き込む。トリガーを滑らし、
「マイクロウェーブ、来るっ!」
 来なかった。今は昼。月は見えない。
 これは困ったことになる。人生をいわばネタ的に楽しむ彼にとって、この武器の見せてく
れるオチは気になるところである。しかし、こんな馬鹿でかいものを持ち歩いて目立たない
わけがない。不親切にも、折りたたみ機能なんてのはついていなかった。夜になれば、月が
出れば、これが本当に「使える」ものなのか確かめられるのに、持っていると夜になるまで
に襲われて殺されるかもしれない。
「どうしよう」

 といった経緯を、通りがかりのないしょに相談したのが数時間前のことだった。
 得体の知れない物体を持ってフレンドリーに話しかけてくるヘタ霊と出会ったときは、警
戒を通り越して思考停止を起こしてしまったないしょである。
「夜になるまで、俺の護衛をしてくれないかな?」
 ロワイアルを疑いたくなるこの提案に、なんしょはあっさりと同意した。今後の方針を今
イチ定め切れずにいたことが一つ。もしも「本物」なら、ここで恩を売って、その威力の恩
恵を受けられるのじゃないかという目論見が一つ。ハズレなら、その時に考えればいいこと
だった。ないしょの武器はショットガン。護衛には充分だろう。多分。
 しかし、
「湖にマイクロウェーブ照射して、水蒸気爆発を起こしてみてもいいかもね。巷に雨の降る
ごとく……ってさ」
「勝手に言ってろ」
 今現在、ないしょは自分の決定を後悔し始めていた。
(大丈夫か? こいつ……)
 今更「やっぱり嫌だ」と断るのも後味が悪い気がする。

 昼は、まだ長い。