暗い決意


『どう振る舞うか、それが問題だ』
 馬場の元から立ち去り、薮の中に身を潜めた名無しさんだよもん@誤植指摘(50)はひたすら考えていた。
『私の目的は……』
 考えるまでも無い。この島から生きて帰る。それが至上命題。
 目標を言語化した誤植指摘はこれまでの自分の行動と、今置かれている立場に思いを巡らせる。
『私がしたことは……誤植の指摘。言い換えれば、匿名での他人のミスの公表』
 感情を交えず、主観に流されず、淡々と。何が楽しいわけでも無い。実益も無い。機械のように
他人のミスを探す。それが誤植指摘のしたことだった。
『それを踏まえた上で、私の立場は……』
 知り合いはいない。コミケのハカロワブースで見かけた連中のうち、誰が瀬戸で誰がセルゲイなのか、
それすら知らない。だが、一度は見ている。この島で知った顔があればそれは二人のうちのどちらか、
と言うことになる。
 あの二人ならあるいは味方になれる、かもしれない。一時的に、潜在味方に分類する。
『では、敵は?』
 誤植指摘は創作経験が無い。誤字脱字を指摘された作家の感情など想像もつかない。感謝するのだろうか。
それとも腹を立てるのだろうか。判断できない。判断できないのなら……。
 残り全員を仮想敵に分類する。保身を第一に考えるなら、安全側に傾かざるを得ない。
『では、敵をいかにして少なくするか』
 味方になるか、あるいは排除するか。排除するのなら、武器が必要だ。支給された武器を確認する。
H&K USP。総弾数15+1。9mmP弾。ハカロワの、少年と蝉丸の会話を思い出す。あれを書いたのは
誰だった? 判らない。一般ユーザーはエロゲのスタッフに興味が無い。そして誤植指摘は、ハカロワの
作者に興味が無い。大切なのは完成した作品。何よりも大切なのはその作品を楽しむ自分自身。
『私は生き残る。生き残って、RoutesとCLANNADをプレイする。そのために、殺す』
 誰かを殺した後に瀬戸やセルゲイに遭遇したら…。彼らは誤植指摘を許さないだろう。その時は
あの二人も殺さなければならない。スタッフを殺すのは論外だ。発売が永久に延期されるかもしれない。
誰かと手を組むということはスタッフとの闘争を意味する。つまり、参加者は全員敵だ。
『では、どう殺すか?』
 今まで扱ったことも無い拳銃。どんなに運が良くても二桁は殺せないだろう。それでは足りない。
皆殺しに出来ない。生き残れない。なら……。
 誤植指摘の結論は「待ち」だった。参加者が殺しあい人数が減るのを待つ。疲労した生き残りの
ミスを待つ。そしてミスにつけ込む。
 誤植指摘は鮫のように笑った。それは彼の得意種目だった。

【50:名無しさんだよもん@誤植指摘 皆殺しを決意して潜伏中】