乱戦


 袋の中に僅かながら残されたチップルを、サクサクとつまみながら、いたって真面目な
 会話をしているつもりの二人がいる。シイ原と111だ。
「とりあえず安全パイは、マグナムですかねえ。彼女と私は気心の知れた仲ですし、まず
 間違いなく仲間になってくれると思うんですよ」
「他は何と言ってもセルゲイ氏でしょう。コテ間の軋轢もないので、安心感は大きいですよ」

(どうでもいいんですがね。あなた達はそこのダンディさん、いつまで放って置く気ですかね)
 樹上の男、挽歌が妙に慇懃な会話を繰り広げる地上の二人にツッコミを入れる。
 完全に降りるタイミングを失ってしまったので、心の中でひっそりと。

「次は危険人物を検討しますか」
「林檎氏。にいむら氏。彗夜氏。この三名は、要注意ですね」
「らしいですね」
 途中でハカロワをはなれたはずのシイ原すら、この三人を危険だと思っていた。
「あとは危険性の高い中立人物ですが、私は「。」嬢など危険だと思うんですよね」
「そうですか?」
「いや、あの読書の趣味など見ると、なかなか一筋縄ではいかない。ちょっとヒネたところが黄信号」
「なるほど。僕としてはらっちー氏や瀬戸氏など、実は危険なのではないかと思うのですが」
「……ロワ話を編集する。それは確かに、猟奇趣味以外の何者でもありませんね」
「ええ。他にも命氏や挽歌氏などの、大量執筆者は危険かもしれません」
「それは自身の経験からですか?」
「ははは、そうです。ああした話を大量に書くことは、心が荒んでいくというか、よくない障害を起こしかねないのです」

(大きな、お世話ですよ)
 助けた相手に精神異常者疑惑をかけられては、ちょっとブルーな挽歌である。

(……ん? あれは……命さんですな)
 高所を生かして、挽歌はいち早く接近する人影を見つけた。命は既に、111達を発見しているのだろう、手に持った武器
 を後ろに隠していた。服に血は付いていないようだったが、足元が赤い。血の海を渡ってきたかのようだ。
(……あながち、精神異常ってのも間違いということでも、ないのでしょうかね)

 こうなっては仕方がない。下の二人に警告を、と思った晩歌であったが、命の行動は早かった。
「……そこの二人」
 機先を制するように、111とシイ原に声をかける。そのまま背後からゆっくりと歩みを進めてくる。
 若干キャラ被り気味の二人は、声をあわせて返事をした。
「「誰だっ!?」」
「……振り向くな。ここにカードがある。お前らは上から何枚目を引く?」
(なんですかカードって)
(やばい。こいつはイッてる、逆らわずに答えましょう)
「では、私の参加者番号19で」
 サク、とカードを抜く音がする。
「俺は111だ」
「……もっと短くしろ」
「それなら俺も参加者番号、05で」
 再びサク、とカードを抜く音。
「111。お前は行っていい。3秒待ってやるから、いますぐ走れ」
「えっ?」
「3……2……」
「ええっ!?」

(うわ、最悪ですよ、あれサブマシンガンじゃないですか)
 火器が相手では、ちょっとやそっとでは退けられない。
 こうなれば水の入ったボトルでも投げるか、と思い始めた挽歌の視界に、動くものが一つ増えた。
(あ)

「Get’s!」
「……何!?」
 ダンディ坂野が息を吹き返していた。そしてお決まりのポーズで、命の両目に両手の人差し指を突きこむ。
 命は混乱し、苦し紛れにサブマシンガンを乱射した。

 ぱらららららら

「う、うわぎゃああぁぁあぁ」
「シ、シイ原さんっ!」
 蜂の巣のように体を弾丸で穿たれながら、シイ原は踊るように痙攣する。
 今度こそ完全に動揺した111に、ダンディの魔の手が伸びた。
「Get’s!!」
 今度は不完全な体勢だったが、それでも111の右目に命中し、鉈を落とさせた。
 素早く鉈を手に入れると、銃弾の届かない林の茂みに飛び込み、姿を消す。
 片目でそれを見た111も、ほうほうの態で反対側の茂みに飛び込み、逃げていった。

 結局残ったのは、地上の命と、樹上の挽歌だけである。
(手遅れですな。しかし、やるもんですね、ダンディさん)
 妙なギャグしかやらないわりに、いたって冷静に危険を排除したダンディの手並みに、しきりと感心する。

 その挽歌に、ようやく落ち着きを取り戻しつつある命が声をかけた。
「……名無したちの……挽歌か」
「おや、お気付きでしたか。さすがですな」
「……2枚目で、いいか?」
 もはや説明は不要である。命は引いたカードで殺すかどうかを決めている。
「サブマシンガンは、これだけ離れると、そうそう当たりませんよ。しかも枝葉で容易に逸れてしまいますから、弾の
 無駄ですよ。ついでにあなた、まだよく見えてないじゃないですか。やめませんか、無駄ですよ」
「……いいから、決めろ」
 命は頑なであった。そうでなければ、あれほど執筆できるものでもない。
 他人様のことは言えませんけれども、と思いながら、挽歌は心を決めた。
「一番上を。あなたの番号を、頂きましょう」

 そう言われて、一瞬嫌そうな顔をした命だったが、引いたカードを表返し、挽歌に向けた。
「……千鶴さんですな」
「……行くがいい」
 千鶴のカードを、木の幹に向けて投げる。
「ほう。ご同好ですか」
「……嫌いじゃない。萌えというほどでもないが」

 ようやく木を降りた挽歌は、軽くシイ原の死体を拝むと、千鶴のカードを拾って立ち去った。
(千鶴は千鶴でも、鬼千鶴ですが……まあ、これはこれで良しとしましょうか)
 手には、十得ナイフがあった。ちゃっかりしたものである。

【19:シイ原 死亡】
【01:命 ダンディの目潰しで休憩中】
【02:名無したちの挽歌 鬼千鶴カードと、どさくさに十得ナイフGet。】
【05:111 ダンディに片目を突かれ鉈を奪われるが、逃走成功】
【36:ダンディ坂野 ダンディでGet’sな目潰しにより鉈を奪回。逃走】