えにし


葉鍵板は21歳未満出入り禁止であり、葉鍵ゲームは18歳未満購入禁止である。そのどち
らも満たしていない高校生二人組の太陽の恵みを充分に貰った森を歩いていた。
「よし、ここらへんで一休みしよう」
マナーは休憩宣言を発令した。にいむらの膝の酷使が気になったし、序盤から飛ばしす
ぎてガス欠の危険は避けたかった。
二人共とも座り込み、マナーは探知機のスイッチをONにした。少しのロード時間の後、
自分達中心の地図が一気に映し出される。
「お、来たな」
1〜40までの自分達を抜かした番号を速攻で片っ端から打ち込んで調べる。一応
周りには参加者が居ないみたいなので安心したが、彗夜らしき番号も探せなかった。
「確かアイウエオ順じゃ無く、執筆量順だからと……」
マナーは上位者に限れば大体の順番は覚えていたが、一つ致命的なミスを犯した。6〜8番
の順番がごっちゃになってしまったのである。つまり、林檎・彗夜・セルゲイのどれがど
れだか解らないのである。
「セルゲイ氏は俺も尊敬していたし、キャラ的に安全牌だと思ったんだけど……」
にいむらがセルゲイと一戦交えたのが悔やまれる。ハズレの確率が1/2から2/3へと上がっ
てしまったのだ。
気を取り直して何度か番号確認を再開する。何回か6〜8のを打ち込み続けたが、反応は
ついになかった。表示された参加者は全て20番以降であり、さすがのマナーもそこまでは
覚えていなかった。この時40番以降の打ち込みはしなかった。新規参入者の事は知らなか
ったからである。
「とりあえず安全ってことで」
スイッチを入れたまま横に置き、軽く体を伸ばし、リラックスの体制に入る。ふと横を見
るとにいむらは本を真剣な表情で読んでいた。
「なんだい、それ。同人誌? ハカロワ一巻? それともエロ本?」
しかし、熱中しているにいむらからの返事は無い。その態度に少しムッとして今度は大き
い声でもう一度呼びかける。
「おい、アホ。返事くらい……」
「わっかんねー!!」
それを掻き消す大きな叫び声がいきなり出てきた。
「あ、ワリィワリィ。数学の宿題やってたけど、全然解けなくてイラついて、つい大声だし
ちゃったよ」
あっけらかんと言うにいむらを見てマナーは脱力し、地面にあった木の枝をデコピンで何
個か弾いた。そうしている内に色々とツッコミたい気持ちが薄れていく。
何故かにいむらはマナーに心を許している。この笑顔もマナー以外に見せる予定は今の所
は彗夜くらいだろう。
「で、何の問題やってたんだ」
「複素数」
「……二年か」
「あ?」
「いや、なんでも無い」
聞き返しを求める彗夜に対して、いいから続けろと手を力なく上下に振る。
「でさ、複素数平面上において、原点Oを中心とした半径1の円があります。その円周上に
2点A(z)、B(ω)があります。z−2ω—√3の時、△OAB……」
「△OAB=√3/4」
「の面積を求めよ……って。え。え。何でお前わかんの!?」
「そんなの超既出問題。何回もやって覚えたよ」
驚き、立ち上がり、顔の前まで突進してきたにいむらを尻目に、涼しい顔でいなした。医
学部を目指すマナーにとってこの問題は何回も解く内に答えまで記憶してしまったのだ。
「やっぱお前すごいな。頭良いよ」
「お前にほめられてもな」
9割の呆れと1割の照れのせいか、マナーは寝転んだまま空を見る。木漏れ日と木の葉の緑
が作り出す調和が少し自分を癒してくれそうな気がした。
「本当に最終回好きなんですよ……」
医者への道を決定付けたのは自分自身が愛したマナたんの活躍。そしてあのハカロワ最終
回。本当にマナたんが医者を目指してくれて嬉しかった。その道を決定させてくれた作者
に感謝した。
でも。
「……俺と林檎は戦わなければいけない。共にヒールとなることの定めをもっている」
コテハンロワイアルにおいて林檎とマナーは戦わなければいけない。これは両者が背負っ
たコテハンとしての運命であり、義務であり、必然なのだ。どちらかが死ぬまで続けられ
る悲しい縁。

ふと上から小枝が降ってきた。
マナーは小枝を空中でキャッチし、二つに割った。

次に割れるのはどっちの枝か。