■青春パラダイス 2■
「この時季ってみんな浮かれてるよね。」
昼休みの教室。窓際に腰掛け真上に昇った太陽の暖かい日差しを背中で浴びながら譲は隣でカツサンドをほおばっている高耶に話しかけた。
「はにが?」
口の中がパンでいっぱいなために「何が?」と本人は言っているつもりなのだが他人には「はにが?」に聞こえる。
「食べてから話しなよ。」
勢いよくコーヒー牛乳を飲み込む高耶を見て少し笑いながら譲は自分も持っていたオレンジジュースを口元に持っていく。
暖房の効いた教室は乾燥気味だ。
「あー苦しかった。」
コーヒー牛乳でパンを流した高耶がやっと普通に話し始める。
「いやさ、明日バレンタインじゃん?でも土曜日だから学校は休みなわけで・・・となるとみんな今日が勝負って思ってるんじゃない?
みんなそわそわしててさ、なんか青春って感じだよね。」
にこにこと笑いながらそんなロマンティックな考えの譲だったが高耶にはあまり関心がない。
別にもらうあてもないしもらっても困るが・・・・・
「高耶はもらったの?」
そういえば、というような顔で飲み終わったオレンジジュースの紙パックを潰しながら高耶に聞く。
「興味ねーよ。おまえは?」
「ん、まあ数個もらったよ。」
なんとなく聞いた高耶だったが譲もさほど興味がなさそうだと思っていたのに予想外の返事が返ってきたので驚いた。
誰に?と聞こうとしたところで教室の入り口から「あーいたいた仰木君!」という大きい声に高耶の声は遮られる。
「仰木君、仰木君!」
名前を連呼しながら森野沙織が窓際の高耶の席へと走ってきた。
「んだよ。」
「はい、チョコレート。」
沙織は持っていた紙袋の中からチョコレートを数個取り出すと机の上にころんとのせた。
「っておまえ・・・・これチロルじゃん。」
「でもでも、もらえないよりはいいでしょ?時々お世話になるし。あ、義理だからお返しはいらないわよ。じゃ、次行かなきゃだから。またね。」
去っていこうとした沙織の背中に譲が声をかけた。
「あ、森野さんさっきはどうもありがとう。」
「げ、譲には普通のチョコレートかよ。」
高耶が譲と沙織を見比べる。
「だって仰木君は義理だもーん。成田君は違うから。じゃ!」
振り返りながら言うと沙織は廊下で待っていた友達と一緒にあわただしく走っていった。
「森野さんって元気いいよね。」
「よすぎだ。」
高耶は沙織が置いていったチロルチョコを一つ手に取ると包み紙を開けて口へとほおばった。
なんだか懐かしい味が口いっぱいに広がる。確かに譲の言うとおり学校全体が「バレンタイン」に踊らされている。
ふと外に目をやると渡り廊下のあまり気の少ない場所に人影が見える。それと同時に高耶のように全くバレンタインとは無縁の人間も居る。
視線を教室へ戻し、昼食を買いに行ったまま千秋が戻ってきてない事に今更ながらに気が付いた。
居ない理由は言わなくてもわかるがやっぱり千秋が居ないことが気になって譲の話はあまり耳に入っていなかった。
バイトを終え時計を見るとまだ家に帰るには微妙に早い時間だった。
バイト先近くのコンビニで軽く買物をし、沈みかけの夕焼けの光を背に高耶の足は千秋のアパートへと向かっていた。
のぼりなれたアパートの階段をのぼる。外から見て電気は付いていたので部屋には居るはずだ。呼び鈴を2度ほど鳴らす。
「はーい?おやおや、こんな中途半端な時間にどうした?」
「ちょっと遊びにね。寒いから入れてくれない?」
部屋に入ると机の上にはいかにもバレンタインなチョコレートが散乱していた。手作りから某高級チョコレートまで様々だ。
「おまえ、こんなにもらったのか?」
「気が付いたら入ってた。直接もらったのもあるけど・・・俺様ってばモテモテ。でもまだ欲しい人からもらってないんだよねぇ。くれないの?」
「あるかバカ!」
「なーんだ残念。俺は用意したぜ。」
というと千秋は台所へ行き何やら箱をかかえて戻ってきた。よく見るとそれはジャンボポッキーだ。しかも2箱もある。
「なんでそんなにデカイサイズなんだよ。」
ものすごく嫌な予感な高耶である。
「そ・れ・は!ポッキーゲームをする為だ!」
やっぱり。と高耶が頭を抱え込む。
「いやさ〜この間コンビニ行ったら置いてあって〜おまえが遊びに来たら絶対やろうと思ってたんだよね。イチゴと普通のポッキーどっちがいい?」
楽しそうに聞く千秋に思わず「イチゴがいい」と答えてしまった高耶である。
「んじゃさっそく〜。いちご、いちご〜。」
千秋が楽しそうにジャンボポッキーを開ける。通常よりかなり大きい。
その為に味は普通サイズより大味なのだが楽しそうな千秋を見て味の話はあえてしなかった。
千秋は箱から1本取り出すと高耶に猫を呼ぶように来い来いと人差し指を上に向け呼んだ。高耶は観念して千秋に近寄る。
「折るのは勿論なし、いいね?」
念を押してから千秋はチョコレートの付いた方を高耶に差し出した。
高耶が観念してポッキーを口に入れる。それを確認してから千秋もポッキーを食べ始めた。
時間にすれば1分もない数十秒の出来事だが段々とお互いの顔が近くなる。目を開けるともう少しで唇が触れる位置だ。
高耶はポッキーを折ろうと試みたがそれを始めから分かっていた千秋が高耶の行動よりさきにポッキーを食べ高耶にキスをした。
「俺様の勝ちだな。」
そういって千秋は一度離れた高耶に普通にキスをする。千秋を離そうとするが一枚上手な千秋は高耶の肩をしっかりと押さえそれを許さない。
ジタバタしていた高耶だがやがて観念したのか大人しくしているとたっぷりとキスをされて開放された。
「長げーよ!」
顔を真っ赤にした高耶が千秋に思いっきり叫んだ。
「まー照れ屋さん。でも折るのはなしって言ったのに折ったからその罰だ!」
そう言って千秋は箱からもう1本ポッキーを取り出した。
「まさか・・・」
危険を感じて後ずさろうとした高耶だったが千秋にがっちりと腕をつかまれた。千秋はウインクしてみせると楽しそうに言う。
「そ、もう一度!」
高耶は千秋から逃れられる事なくその後1箱分ポッキーゲームに付き合わされたのだった。
END
今更ながらのバレンタインネタでございます。(汗)
ポッキーゲームさせてみたい!というところから出来上がったお話です。文中にも書きましたが貴月的に実際大きいサイズのポッキーはどうも苦手です。
絶対普通サイズの方が美味しいと思うのですが・・・・好きな方がいたらごめんなさい。
こういう原作を全く無視した話は上手い下手を抜きにして書いててとっても楽しいです。
原作がシリアス方向?なだけにこういう話に逃げたくなるのかなとも思いますが・・・・・とりあえずこの学園物はまだまだ続きそうです。
(いや、貴月の中でブームなもので/苦笑)
次は何をネタにしよっかな♪
2004年3月14日 貴月ゆあ