■青春パラダイス■

 

「あ、あの・・・付き合って下さい!」

夕暮れ時の体育館裏。時は寒さを増す12月中旬。朝下駄箱に入っていたメモ。
名前も知らない女子生徒からのお呼び出しだ。ショートカットに白いダッフルコートが良く似合う小柄な女子生徒。
コートの下から見える名札の色は1年生を示す黄色だ。俺はコートのポケットから手を出して息を吹きかけた。
さすがに手袋が欲しいと思う。

「気持は嬉しいけど、誰とも付き合う気ないんだわ。」

お決まりのセリフ。12月に入ってから何人に告白されたのかなんて覚えていない。
1週間に2、3回はこうして知らない女子生徒から呼び出される。はじめは無視して呼び出しにも応じなかったがクラスメイトの森野の「千秋君、女の子の気持ちゃんと考えてあげて!」と成田の「それはひどいんじゃない?」のダブル攻撃に合い仕方なしに呼び出しには応じる事にした。今週はこれで二人目だ。

「好きな人が居るんですか?」

ダッフルコートの1年生は必死な眼差しで俺を見る。悪いとは思うけどそういう顔されても心なんて動かない。

「そんなんじゃないんだけどね。悪いけど諦めて。」

言う事だけ言うとすすり泣く声を耳に残しつつも俺は振り向きもせず教室へと向かった。

 

「また告白?おまえもすごいね。」

渡り廊下で上から聞きなれた声が降ってきた。
皮肉半分、哀れみ半分で部活帰りの譲が楽譜を持って階段から駆け足で降りてきた。
教室までの寒い廊下を一緒に歩く。

「いや〜俺様ってばモテモテ。」

ニヤっと笑って見せる千秋に「もう少し女の子の気持も考えてあげなよ。」という言葉を飲み込む。
そのかわりに譲の口から出てきた言葉は「あのなぁ。」というあきれた声だった。
教室まで一緒に向かいかばんを持って千秋は自宅、譲は用事があるからと駅の方へと歩いていった。

 

「ただいま。」

「おかえりー。」

誰も居ないはずの自分のアパート。それなのに鍵は開いているし「ただいま」に対して返事がする。
扉を開けると暖房の暖かい風が千秋を向かえそこには制服姿で寝転びながらテレビゲームに熱中している高耶の姿。

「何でおまえが俺様ん家で勝手にゲームしてやがんだよ。」

千秋はかばんをソファーに投げると寝転がってる高耶の上へ遠慮なく乗っかった。

「だって俺ん家こんなハイテクゲームないし、美弥も泊まりで勉強会なんだと。親父は夜勤。」

千秋が乗っかっているというのにテレビから目を離さない。
テレビ画面ではキャラクターが機敏に動きそれと当時にコントローラーを操作する高耶の指もなめらかに動く。
慣れた手つきである。

「だからって勝手に転がり込むな〜。」

千秋がそのままの体制で高耶の脇腹をくすぐりだした。はじめは我慢していた高耶もしまいにはコントローラーを離してジタバタと動き回る。

「わかったわかった。ゲームのお礼に夕飯作るからやめろー!」

高耶が叫ぶとやっとのことで千秋のくすぐりの刑から開放される。
開放されてもなおくすぐりの余韻で高耶は笑い転がっていたがしばらくして収まったのかゲームのスイッチを消すと立ち上がった。

「んじゃ買い物行ってくるわ。」

制服のポケットに財布が入っていることを確認するとブレザーの替わりにソファーにかけてあった千秋の紺色の上着を羽織ると近くの商店街へと出かけて行った。

「それ俺様の一張羅よ?」

聞く耳なんて持たない高耶が出て行ってから千秋は仕方なくテレビゲームを片付けた。

 

「豚肉だろ、ネギだろ、忘れ物は・・・・」

ぶつぶつ独り言を言いながら高耶は千秋のアパートへと向かっていた。スーパーの袋からは今日の夕飯の食材たちが顔をのぞかせる。
ひときわ目立つのはきれいなりんご。途中立ち寄った八百屋でりんごがあまりにきれいだと褒めたら八百屋のおじさんが気前よく1つおまけでくれたのだ。
アパートの前に着いたところで階段前に立って2階を見上げている少女の姿が目に入った。千秋の部屋は2階。彼女の前を通らないと2階にはあがれない。

「誰かに用?」

高耶は何気なく声を掛けた。驚いて少女が振り向く。

「あ、オウギ先輩。」

自分の名前を知っている。よく見るとコートの下から見えるスカートは学校の制服だが女子生徒に見覚えはない。

「千秋に用事?」

「い、いえ。なんでもないんです!」

少女は勢いよく振り返ると小走りに駆けていってしまった。アパート付近で学校の女子生徒に会うことも珍しくなくなった。
そんな女子生徒たちを見て高耶はなんだか申し訳ない気持になる。
そんな気持を押し殺して階段を上がっていくと気配を察知した千秋が扉を開けて待っていた。

 

「今日は何飯?」

買い物袋から食材を取り出す高耶の後ろから千秋が興味ありげに覗き込む。

「豚汁とお好み焼き。」

高耶は顔も上げずに今晩のメニューだけ告げた。

「なんでまたそんな組み合わせなんだよ。」

「だってここ炊飯器ないだろ?ったら粉ものしかないだろーが。お前んとこホットプレートは確かあったよな?」

流し台の下に顔を突っ込んで高耶がホットプレートを探し出す。
あまり物のしまわれてない流し台の下からホットプレートを探すことは容易だった。

 

「あー食った食った。」

なべ奉行ならぬお好み焼き奉行の高耶が5枚もの大型お好み焼きを焼き、それを二人でたいらげてしまった。
さすがに「もうしばらくお好み焼きは食べたくない」状態だ。高耶は食べるなりゲーム、千秋はソファーでくつろいでいた。

「なぁ、おまえ食ってすぐゲームなんてよくできるな。苦しくないか?」

千秋が感心した様子でゲームに熱中してる高耶に話しかけた。

「べつに〜やれるときにやっておかないと。あ、勝負しねー?」

『やろうぜ!』という眼差しで高耶が千秋を振り返った。
子犬が遊んでくれとばかりに自分を見ているようでおかしくなり、千秋はソファーから降りて高耶の隣に移動した。

「おっしゃ、勝負だ!」

高耶が嬉しそうにゲームのコントローラーを千秋に渡す。

「望むところよ。」

千秋がコントローラーを持つなり高耶がリセットボタンを押しゲームを対戦用へと変更した。二人がやっているのは格闘系のゲーム。
数年前に違うハードで流行したソフトだが新しく出たハードで昔の半分の値で販売されているゲームだ。
数年が過ぎてからやってみると懐かしいものがあるらしく高耶は千秋の家へ遊びにきてはこのゲームをいていた。
二人で対戦することも少なくなく、二人とも必要以上に強かった。

「なぁ?」

必殺技を繰り出しながら高耶が千秋に話しかける。

「何?」

「今日お前告られた?」

「なんで?」

二人とも画面からは目を離さずに会話をする。

「さっき買い物から帰ってきたらさ、髪がショートで白いコート着た子。
俺のこと見て名前言ってたしスカート茶色だったから同じ学校だと思うけどお前に用事ありげだったせ?」

それは多分今日告白してきた1年生のこと。

「俺は別に用事なんてないけど。断ったしな。」

千秋も負けじと必殺技を繰り出す。必殺技の出しすぎで指の腹が痛いくらいだ。

「やっぱり告られたんだ。何で誰とも付き合わないんだ?」

「気になる?」

「べ、別に。」

動揺して高耶が必殺技のコマンド入力を間違えた。それを見逃す千秋ではない。
すかさず早業で必殺技のコマンドを入力する。その必殺技が高耶のプレイヤーに当たり高耶のプレイヤーは倒れてしまった。

「お前がいるからだよとかって言って欲しいか?」

千秋がニヤニヤしながら高耶の顔を覗き込んだ。

「何言ってやがんだよ。も、もう一度勝負だ!」

高耶が千秋の目を見ずにリセットボタンに手を伸ばす。その手をすかさず千秋は捕まえた。

「その通りだよ。」

千秋が高耶の手を握ったまま真剣な表情で高耶に訴える。

「俺は男だぜ?」

「知ってるよ。」

そっと千秋が高耶の手の甲にキスをした。

「女役は嫌だけど・・・」

「あほ。」

高耶がおかしなことを言うものだから千秋は笑ってしまう。千秋にとって高耶は姫的存在だがそんなこと口が裂けても言えない。
自分でもなんでかわかららないが高耶が好きなのだ。

「ま、いいじゃん。俺はお前が好きでお前も俺が好きなんだろ?だったらさ、それでいいじゃん。」

ニコっと嬉しそうに笑う千秋。

「その自信たっぷりな言い方が気に食わない。」

高耶がツンとしてそっぽを向く。照れてるのだが千秋はあえて指摘しない。

「そんな事いいなさんな。さってと、俺が勝ったしちゅーでもしてもらおっかな。」

悪戯に千秋が握っていた高耶の手を床に押し付け上から覆いかぶさる。
高耶は逃げることもせずなすがままに千秋の口付けをそっと受けた。
部屋にはゲームのオープニングがそんな甘いムードの二人をものともせず永遠と流れていた。

 

−END−

 


7ヶ月ぶりの更新でーす。(汗)

学校物が書きたくて書き始めたらこんなのができました。闇戦国もなにも関係ないただの高校生活を送ってる高耶と千秋のお話です。

学園物はもっと書いてみたいと思うのでまたこんどミラージュキャラだけど原作とは全く関係のない話とかにチャレンジできれば・・・・と考えることだけは考えてます。
が、闇戦国が関係なとなると千秋に景虎のことを高耶と呼ばせないといけなくなると思うのですが貴月のこだわりでそれはどーしても嫌なのです。それが難しい。
「仰木景虎」じゃねぇ。(笑)

次は千秋が高耶に告白するお話とか書きたいかも。

 

2004年2月6日 貴月ゆあ