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     『千秋…・たすけ…て…・』

     景虎から携帯電話に電話があったのは今から30分前のこと。
     「助けて」とだけ言って切れた電話に千秋は愛車をガンガンとばして高耶の家まできた。
     勢いよく階段を登って高耶の部屋まで走る。
     ドアノブをおもいっきり回すが鍵がかかっているらしくてびくともしない。
     千秋はためらいも無く力で鍵を壊すと蹴りを入れてドアを開けた。バタバタと靴を脱いでに室内に入る。

     「景虎!」

     千秋は叫びながら室内探す。玄関に一番近い景虎の部屋を開けてみたがそこに景虎の姿は無い。
     扉をあけっぱなしてキッチンに向かうと、

     「……景虎!!」

     流し台の前でパジャマ姿の高耶が倒れていた。千秋はすぐさま駆け寄り高耶を抱き起こす。
     その時、高耶の手元で光るものを発見した。高耶の携帯電話である。これで電話してきたのだろう、
     またツーツーと電話が切れたままの状態の電子音が聞こえていた。

     千秋は高耶を抱き上げると頬を叩きながら高耶の名前を呼んだが反応はない。
     そして気が付いた。高耶の体がやけに熱い。おでこに手を当てると異常なほど熱い。
     千秋は高耶を抱きかかえると先ほど開けっ放しにしていた高耶の部屋へ運びベッドに寝かせる。
     布団を顎まで掛けてもう一度高耶に声をかけてみた。

     「景虎。分かるか??」

     頬をまたペチペチと叩くが反応が鈍い。しかたなく千秋は風呂場に行くと洗面器に水をいっぱい入れ、
     タオルを濡らすとそれを額に当ててやる。微かに高耶が反応を示した。
     千秋は少し安心して腕時計を覗く。まだ時間は早いので車を使えば薬局まで行く事ができる。
     ここには熱に対応できるだけの品がそろってないのだ。
     高耶を一人で置いて行くのは心配だったがこのまま夜が来て何も無いままでは対処の仕様が無い。

     直江は仕事で北海道まで行っている。「お土産には美味しいかにを買ってきますよ。」などと言っていたが、
     今はそんな事をのんきい思い出している場合ではない。

     千秋はおでこのタオルを絞りなおしてやってから車のキーを握って高耶の家を出ようとした時、
     鍵を壊した事を思い出した。

     (あ、いっけね〜ドアノブ壊したんだっけ…・)

     千秋はため息をつきながら仕方なくチェーンを力で動かしなんとか鍵を掛けて車に向かった。

     高耶の家から車で10分くらいのところに大方チェーン店型のドラッグストアがある。
     千秋は駐車場に愛車を止めて店内に入っていた。

     一先ず氷枕を手にして、あとはレジにてクスリを買うだけだ。
     レジでは20代後半くらいの女性が対応してくれた。

     「すみません。大人が高熱を出してるのですが…」

     千秋は氷枕をレジの隣に置きながら言う。

     「そうですか、それはこれをお持ち下さいね。あと、水分をよく取って安静にして下さい。」

     薬局の女性店員は丁寧にあれこれと教えてくれた。
     千秋はレジを済まして車に向かう。荷物を助手席に置いて自分は運転席に座るとハンドルを握った。

     帰り道の途中で氷が必要な事を思いだしコンビニで軽く買い物を済ませて戻ってきたのは
     高耶の家を出てから30分後。荷物を置いて高耶の部屋に入ると薄っすらとだが高耶が目を開けた。

     「景虎?わかるか??」

     千秋は高耶に駆け寄り声をかける。高耶は声の方をゆっくりと向いた。目がうつろである。

     「ち…ぁき?」

     名前を呼ぶのも一苦労と言う感じだ。

     「何か欲しいものあるか??」

     「み・・ず…飲みたぃ…・・」

     舌足らずな声で水が欲しいと訴える。ちょとまってな、と千秋は台所に戻ってコップに水を入れてきた。

     「ついでにこれも飲んでな」

     さっき買ってきた薬を開ける。中からは白い錠剤が顔を出した。
     置きあがろうとしている高耶を引っ張って起こす。が、安定しないのかふらふらと左右に揺れるので
     仕方なく千秋はベッドに腰を掛けて高耶を支えてコップを差し出した。

     高耶は口元にコップを持っていくが口が麻痺しているのかあまり上手に水が飲めない。
     口の端から水が滴り落ちる。千秋はしかたなくコップを高耶から奪うと水を口に含み高耶に口移しで飲ませた。
     ゴクンと喉のなる音がする。

     高耶が水を飲んだ証拠だった。高耶は抵抗する力もないのかなすがままだ。
     千秋は次に薬と水をもう一度口移しで高耶に飲ませる。
     錠剤が喉に引っかかるのか高耶が怪訝な顔をしたがそのまま飲ませる。
     コップ一杯の水を飲ませて高耶を横にした。そして千秋は台所に行って氷枕を作って戻ってくる。
     タオルを巻いて高耶の頭の下に入れてやった。高耶はやっと声が出るとい感じで「ありがとう」と呟く。

     「何も心配ないから寝てろ」

    布団をポンと叩くと、高耶は吸い込まれるように眠りについた。

     それから千秋は何度と無く高耶のタオルを取り替えたり起きた時の食事を作っているうちに
     時間はあっという間に過ぎ、12時を知らす音が部屋に鳴り響いた。
     高耶の家の時計は今ではあまりみなくなった昔の振り子時計である。
     それが聞こえたのか高耶が目を覚ました。

     「おっ、気が付いたか?」

     千秋はイスから降りて高耶の横に座った。

     「ちあき…・?」

     今度はなんとか話が出きるようだ。高耶は不思議そうな顔をしてこちらをうかがう。

     「おうよ、お前電話で呼んだだろ。んできたらお前倒れてるし」

     「電話…したのか?俺が?」

     「そうだよ。寝ぼけてるのか??」

     どうやら記憶があまり繋がらないらしい。

     「それよか熱計れ。」

     体温計を高耶に差し出す。高耶は黙ってそれを受け取った。熱を測るとまだ38も熱がある。

     「もう少しねてれ。」

     千秋は布団を肩までかけてやり、洗面器を持って部屋を出て行こうとした。
     すると、後ろから高耶が不安げな視線を送ってくる。

     「何?」

     千秋は分かっていて熱のある高耶をからかう。

     「なんでもない。」

     高耶はプイっとそっぽを向いた。病気の時は心なしか寂しいものだ。

     「心配しなくても寝てれば直るよ。俺様のあっつ〜い看病でな。
     あ、ついでに口移しで薬のませたんだぜ。こちそーさん♪」

     千秋は片手で高耶に向かって投げキッスを送る。
     5秒ほど固まっていた高耶だったがおでこに乗せているタオルをつかんで思いっきり千秋に投げつけた。

     「ふざけんなぁ!!!」

     千秋ははははと笑いながら洗面台に向かう。あれだけ反応できるようになったらもう大丈夫だろう。
     千秋は鼻歌交じりで台所に向かうと食事を温めはじめた。

END


     これは紗綾さんのHPへ置いてもらっているものです。

     一度はやってみたかった口移しで飲ませる。自分的にはこれが書きたくて書いていたお話だったと思います。
     
やっぱりちーたか好き・・・・・・・。(苦笑)

     沙良