First Snow

 

(ん〜寒い…)

肩まで布団が掛かっていないのを寝ぼけながらにも気が付いて布団を引き寄せて頭まですっぽりとかぶったが、
よほど冷えるのかあまり温まらず隣に寝ている直江にピタっとくっつく。
直江はもう起きていたが、高耶を抱き寄せて冷えている肩を抱いてやった。

「高耶さん。そろそろ起きませんか?」

だいぶ暖まった後、直江が布団の中でぬくぬくしている高耶に声をかけた。

「いま何時?」

布団の中から高耶が返答する。

「今ですか?10時ですよ。そろそろ起きてお昼を外に食べに行きませんか」

「もう10時か〜」

高耶は布団の中から顔だけ出す。布団に潜っていたので髪が乱れている。
直江はそんな高耶の髪をそっと直してやると高耶は目をつぶってなすがままになる。
気持ちが良くてそのまままた寝てしまいそうだ。そんな高耶を見て直江は微笑みながら

「まだ眠いですか?」

とたずねると高耶がコクリと頷く。

「まあ、昨日は遅くまでしてましたからね」

さらっと言う直江に高耶は真っ赤になる。本当にこの男は…・と頭を抱えたい気持ちになった。

「高耶さん。いい事教えてあげましょうか?」

突然直江がそんな事を言い出した。

「何?」

「知りたい?」

いつもはきちんとセットしている直江の髪だけど、今日は風呂入ってそのままだったから前髪が降りてる。
そんな直江にドキっとしてしまったのを隠すように

「もったいぶってないで教えろよ」

と高耶はぶっきらぼうに答える。

「外を見て御覧なさい。いいものが見れますよ」

「外?布団から出たくない」

「そんな事言わないで。外……雪降ってますよ」

「雪?」

突然高耶がベッドを飛び出して窓に走る。
窓の外は一面の銀世界だった。

「直江雪!雪!雪!!すっげ〜!!」

高耶は窓に貼りついて叫んでいる。よほど嬉しかったのだろう。

「綺麗でしょう?さっき窓の外を見たら降っていたので。東京にしてはこんなにはやいのは珍しいですね」

「うん。まだ早いよな。松本はどうだろう?」

高耶は必死に窓に貼りついてて外を眺めている。

「それにしても……高耶さん、外見てるのいいですけど何か着て下さいね。まだしたりない?」

直江は微笑してそう言った。それで高耶が改めて自分が何も着てなかったことに気付いた。

「直江!!」

と叫んで高耶は猛スピードでベッドに逆戻りだ。
今服持ってきますね。そう言って自分はいつのまにかバスローブを着て直江は一旦寝室を出ていってしまう。
しかたなく高耶はベッドで唸っていた。

 

しばらくして服を持った直江が戻ってきた。自分はちゃっかり着替えてきている。
いつものスーツでこれから会社に行くような格好だ。
直江から自分の服を受けとって「じろじろ見るな」といいながら着替える。

高耶の今日の格好はいつものジーパンにトレーナー。
綾子の買い物に付き合った時に「お礼よ」と、いらないといったのに買ってもらったものだった。
そんなに安くはなかったはずだ。着替えを済ませてキッチンに向かう。

「コーヒーでも飲みますか?」

「うん。」

高耶はキッチンに置いてある椅子に膝を抱える形で座ると2回くしゃみをした。

「寒いですか?」

お湯をかけてコーヒーを入れる準備をしていた直江は高耶を振り返る。

「大丈夫。しっかし11月に雪降るなんて今年は異常気象かな?」

「そうかもしれませんね。東京で11月にって…高耶さん。明日はもう12月ですよ。早いですね」

直江が入れてくれるコーヒーはちょうどいい苦さで高耶は気に入っている。
カップを両手で包みこむようにしてコーヒーを口元に持っていく。雑談をしながらコーヒーを飲み干した。

 

「そろそろ出かけましょうか。お腹空いたでしょう?」

玄関に出てエレベータで下まで降りる。外は雪で白くなっていた。
あまり遠くに行かないので久しぶりに車ではなく徒歩で行くことにした。

今日のランチは近くの洋風の喫茶店だった。もう何度も訪れているため常連である。
その喫茶店に向かう道の途中にちょっとした空き地がある。
随分前から空き地で春には草が生い茂り、蝶や虫などもいる子供にとっては絶好の遊び場だった。
しかし、雪が降ったそこは一面白いキャンパスに変わっていた。

「直江、ちょっとまって」

高耶は空き地に走って入っていく。

「高耶さん、転ばないように気を付けて…」

直江は片手で顔を覆った。
直江が注意し終らないうちに高耶は雪に足を取られて正面から倒れこんでしまったのだ。
雪の冷たい感触がそっと顔に触れる。高耶がごろんと寝返りをうつと、真上から直江が覗き込んでいた。

「大丈夫ですか?」

直江は優しく手を差し伸べる。

「大丈夫」と言って高耶は直江の手を取って直江が手を引こうとした瞬間に逆に直江を引っ張った。
バランスを崩して直江も高耶同様雪の上に倒れこむ。

「ちょっと高耶さん。何するんですか」

上半身を起こしながら少しむすっとした声で言う。

「へへっ。雪って気持ちいいんだぜ〜。東京の初雪なんだから」

高耶は直江の横に座って悪びれもなく笑う。直江はそんな高耶の笑顔を見ていたら注意する気が失せてしまった。
「風邪をひきますよ」と優しく言って立ちあがり雪を払う。今度は高耶から手を差し伸べてきた。
直江はそっと高耶の手を取って思いっきり引っ張ると同時にそのまま抱きしめた。

「直江?!」

いきなりのことに高耶は戸惑うが、見上げた直江の表情が美生じていたのでからかわれているのだと見ぬいた。

「離せよ。誰かに見つかったらどうすんだよ」

高耶がジタバタと暴れる。すると直江は急に高耶を離し、「しかえしです。」と言って唇に軽くキスをした。
そして自分は何も無かったかのように空き地を出て行こうとしている。

「???」

ほんの一瞬のことで分からなかったが我に返った高耶は

「何するんだ〜〜!!!」

と叫んで直江の後を走って追っていく。

「こんどは転ばないで下さいね」

空き地の出入り口に立っている直江がこっちに向かって叫んだ。

「わかってらぁ!」

高耶はそう言ってやっぱり直江にはかなわないなと思っていた。
直江のことをぎゃふんと言わせるのはまだまだ先の話だな。
と少し自嘲気味に笑って喫茶店へ向かう道を直江と並んで歩く。

雪がまたちらりと降りだしていた。

end


カウントGETしてくださった智尋さんにです。(遅くなってごめんなさい。)

ちょっと早い気のは分かってたんですけど、序章?ってことで雪のお話にしてみました。
秋冬は本当色々ネタが浮かぶ…・(笑)

久しぶりに小説書いたので文章変だったらどうしようもし何かありましたらメールなどでお知らせ下さると嬉しいです。
あ、そういえば直高は久しぶりな気がする・・・(苦笑)

                                                 1999103  沙良