夏の日の出来事

 

               「はぁ。」

               イスに座ってさっきからため息ばかりついていた。

               「どうしたの?景虎。ため息ついて。何かあった?」

               いきなりの綾子の登場に高耶は(なんでここにいるんだ(?)と、驚いた顔をした。
               それを察してか、

               「だって、呼び鈴押しても誰も出てこないんだもん。かき氷買ってきたのにー。」

               と答えた。どっちがいい?と、無邪気にテーブルの上にかき氷を並べて見せる。
               せっかく買ってきてくれてた春家には悪いが、今はかき氷なんか食べて
               浮かれているような気分ではない。

               「今はいらない。」

               そっぽを向いて答える。
               別に綾子はなにも悪い事をしてないのだが今は付き合ってられるような心境ではなかった。

               「そう?じゃあたし食べよっと。」

               そんなのおかまいなしに、綾子はいちご味のかき氷だけ残して他は冷凍庫にしまった。
               シャカシャカと音を立てながら綾子はおいしそうにかき氷を食べる。

               「ねぇ、なんでため息ついてるの?」

               さっきから話しもせずにため息ばかりの高耶を見かねて綾子が聞く。

               「何でもない。」

               イスの上で膝を抱えて高耶は目を合わせようとしない。

               「何でもなくないでしょ。何があったの?もしかして長秀?」

               長秀。の言葉に高耶はピクッと反応する。
               やっぱり、とばかりに綾子は

               「何があったのかは知らないけど、早く仲直りしなさいよ。こじれると長くなるわよ。」

               相変わらずかき氷をシャカシャカしながら綾子は高耶に優しく言う。

               「何かケンカしたの?もしよかったら話してみて。」

               しばらく黙っていた高耶だったが、話す気になったのか口を開いた。

               「・・・おえの事。」

               「直江?」

               「直江、最近いないだろ。それで今何してるんだって言ったら
               千秋がそんな事もわからないんだったらあいつなんか捨てちゃえよ。
               って言われて頭にきてケンカになった。
               千秋がどうしてあんなに怒るのか原因がわからないんだ。」

               すっかり落ちこんでしまっている。まあ無理もない。
               直江は今ほとんど連絡をよこしてこない。本来の直江にはあるまじき行為だ。
               いつもならどんなに忙しくても連絡を欠かさないのに、1週間に1回連絡をしてくれば
               優秀な方だ。きちんと捜査をしているのかも分かっていなかった。
               千秋なら分かってくれると思って言ったのに逆な言葉を言われて高耶はショックだったのだ。

               「でも、こんな所で膝抱えてたってしょうがないでしょう?
               長秀もきっと悪かったって思ってるはずよ。
               謝る・・・まではしなくても仲直りしてきなさいな。私ご飯作ってまってるから。ね?」

               綾子の説得に応じたのか高耶はイスから立ち上がって玄関へ向かった。

               「行ってくる」

               「うん。行ってらっしゃい」

               (なんだか母親な気分だわっ)

               綾子はそんな事を思いながら高耶を見送った。

 

               高耶はエレベータを降りて外に出た。ちょうど夕日が地平線に沈みかけているところだ。

               (どこ行っただろう?)

               高耶は千秋が行きそうな所を何箇所か考えて一つ一つ探すことにした。
               近くの公園、駅、デパート、など思い当たるところは全て探したが千秋はどこにもいなかった。
               高耶はしかたなくマンションに帰ってくる。
               するとマンションの入り口で千秋がタバコを吸いながら壁によっかかっていた。

               (な、なんでもどってきてるんだよ)

               高耶は反射的に柱の後ろに隠れる。
               千秋は気が付いているのかいないのかタバコを吸っている。
               しばらくしてタバコを口元から外すと灰を落とした。ふいに、

               「いるんだろ、景虎」

               声をかけられてしまった。千秋は高耶に気が付いていたらしい。
               高耶は仕方なく千秋の前に姿を現した。千秋の顔は見ようとせずに下を向いている。

               「で、何?」

               千秋が冷たく尋ねる。高耶はどう話し出していいのか分からず黙ってしまう。
               千秋が動くのがわかった。高耶の頭の上に千秋の手が乗っかる。

               「バーカ。深刻な顔してんじゃねーよ。あんなことで俺が本気で怒ったと思ったわけ?
               大体おまえとどれだけ一緒にいると思ってんだよ。
               あんなことくらいで本気でおこりゃしねーって。分かったか?バカ虎」

               くしゃくしゃと頭を撫でると千秋はそのままマンションの入り口へと歩き出した。
               高耶はあっけにとられている。
               あれだけ落ち込んだのにこれか?と思ったらだんだん腹立たしくなってきた。

               「まてよ千秋」

               呼びとめる。
               あ?と言って振り向いた千秋の顔がいつも通りだったので高耶はなんだか安心した。
               高耶は千秋に駆け寄り「悪かったな」とつぶやくと千秋を追い越して先にエレベータに
               乗りこんだ。千秋が後ろで微笑んでいる。

               これできっともう大丈夫。よかったね。高耶!!

END

 

 


               藤芝ようこ様 (888GET)
               大変遅くなりました〜っ。<m(__)m>カウントGET小説です。

               えっと、ちーたかなんですけど、今回は甘々にならなかったかな?どうなんだろう・・・・
              
 本当はもっと甘々なものにしようと思ったのですがこんな感じに仕上がりましたっ。
               なんだかんだ言いつつも千秋は高耶に優しいんですよね。そこが好きなんだけどさ♪(笑)               

              これからも『Water Dance』をよろしくお願いします。また遊びに来てくださいねっ。

                            1999.12.13 沙良