■月のひかり

 

        梅雨の中休み。晴れてはいるが少し肌寒い風が吹いていた。
        時刻は午後11時。高耶はベランダを開けて風を体いっぱいに浴びながら月を見ている。
        部屋の中は窓から入ってくる風で涼しかった。

        「高耶さん?」

        ベランダの入り口でぼーっとしている高耶に直江はおそるおそる声をかけた。

        「ん〜。何だぁ?」

        座ったままで上半身だけ後ろを向く心ここにあらずな返事である。

        「風が冷たいですから気を付けて下さいね。」

        直江はダイニングで仕事をしていた。テーブルの上には書類が散らばっている。
        本当なら今日中に終わらせなければならない仕事だったが、直江はさっきから高耶が気になって
        しかたなく仕事などほとんど片付いていなかった。

        月を見ている高耶の姿が妙に綺麗で・・・・・・目が離せなかったのである。
        直江の視線に気が付いたのか

        「どした?仕事進んでんの?」

        高耶が直江を見て首をかしげる。その仕草が愛らしくて仕方ない。

        「仕事の方は大丈夫です。ただ・・・・・。」

        「ただ?」

        少し考えるようなふりをしながら直江はこんな冗談を言ってのけた。

        「あなたがあまり月ばかり見ているものだからいつか月に帰ってしまわないかと
        心配になっただけです。」

        ぷっと吹き出して高耶が笑う。

        「何だよそれ。俺はかぐや姫か?」

        それにつられて直江も微笑んだ。
        そしてイスから立ちあがると高耶のもとへと近づく。高耶は笑っている。
        直江の手が高耶の頬に触れた。暖かい心地いい感触。高耶はその手に自分の手を重ねた。

        「俺はどこにもいかないよ。おまえの傍からいなくなったりしない。」

        じっと直江の目を見つめて強く誓う。まるで自分自身にも言い聞かせるように。

        「高耶さん・・・・・・・。」

        ギュっと直江の手を握る。しかし、それとほぼ同時に高耶は直江に抱きしめられていた。
        忘れたくても忘れられないこの温もりと安心感。これをなくしたら自分は生きていけない。
        もう・・・一人では生きていけない。それではダメだと分かっていても体がいうことをきかない。

        直江の顔が寄って来る。気が付いたときにはキスをされていた。
        そしてその夜も二人は肌を重ねる。もう何度もしているキスなのにいつも新鮮に感じる。
        何度も体を重ねているのに新しい喜びを覚える。
        それはどうしてなのだろうか。暖かい感覚。とても安心する。それがあるだけで他には何も入らない。
        何も望まない。だから俺達の仲を裂かないで。他には何もいらないから・・・・・と心から願う。
        キスの途中で一度高耶が直江から離れた。

        「どうしたんですか?まさか月に帰らなくてはならないなんて言わないで下さいよ」

        くすりと笑って直江が高耶に口付ける。

        「どこにもいかない。だから離さないで」

        自分を捕まえていて欲しい・・・・・・。高耶が直江に抱きつく。
        直江は優しく抱き返してやった。あなたを離しはしない。そう願いをこめて。

 

END


        このお話は2000GETの法子さんからのリクエストで書きました。

        直高ご希望とのことでこの話しができましたが・・・ちょっとサミシイ終わり方になっちゃったかな??
        月をぼんやり見ていたらできたお話だったりします。(苦笑)
        高耶がもしかぐや姫だったら直江はどうやって月の使者から高耶を守るのか興味があります。
        絶対月に帰るの阻止するだろうなぁ。
        (書いてみようかしら・・・・あぁ、ギャグになりそう/苦笑) 

         いつもご訪問ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね。<m(__)m>

                     19990811 沙良