あの時、あの場所でもう一度・・・・・no.3 

 

   目的地とは・・・・都内にある大きな公園だった。
   公園といっても敷地がかなり広く色々な施設もある国営公園だ。
   直江は駐車場に車を止めると、高耶を起こした。

   「高耶さん。起きてください。着きましたよ」

   声をかけてみるが高耶は起きようとしない。もう一度声をかけてみたがやはり同じだった。
   しかたなく直江は高耶の体を揺らして起こす。やっとの事で高耶は目が覚めた。

   「ん、ここは?」

   「ここが目的地です。さあ、車から降りてください。少し歩きますよ」

   直江は高耶より先に車から下りて助手席のドアを開けてやった。
   高耶は眠そうな目をこすりながら車内から出た。
   車に鍵をかけて二人はゆっくりと歩き始める。高耶は直江と並んで歩いた。

   「んでさー、ここはどこなわけ?」

   まだ眠いのか目をこすりながら高耶は隣の直江に聞く。

   「ここですか?ここは東京都のとある国営公園です。
   実はここであなたと一緒に見たいものがあるので連れてきてしまいました。
   でも、しっかり松本までお送りしますから安心して下さい」

   「東京ぉ?」

   東京都と聞いて高耶は驚いた。

   (って事は俺相当寝てたって事か・・・・・ってこの公園・・・・・)

   高耶はさほど遠くない記憶の糸を手繰り寄せる。
   確かここは中学生の時に学校行事の一環で来た場所と同じ所ではなかっただろうか?
   確か譲とキャッチボールしたような・・・・・
   寝ぼけているからか、それとも覚えていないのかあいまいではあったが高耶は一度この場所に来た事があった。

   「なあ、なんでここに連れてきたわけ?」

   さっきから不思議でしょうがなかったのだ。
   どうしてこんな所まで連れてきたのか。頭の中は???である。

   「そうですね。もうお話しましょうか。ずっと以前の話なのですが、私は景虎様とある約束をしたんです。」

   「約束?」

   高耶は不思議そうに首をかしげる。

   「そう。毎年同じ日、同じ時間にこの場所で会おうと。
   たとえ行方がわからなくなっても大丈夫なようにここで会う約束をしたんです。
   まあ、実際は怨霊退治で全国各地に居ましたからきちんとこれなかった年の方が多かったんですけどね。」

   直江は懐かしそうに目を細めながら教えてくれた。
   不意に「この木です」と直江は大きな木の下で立ち止まった。高耶は木を眺める。
   下から見たのではてっぺんまで見えないくらい大きい。関心して木を見ていると直江が話し出した。

   「この木の下で私はここ何十年も景虎様を待っていました。でも1回も現れてくれなかった…」

   直江は目を伏せる。今度は高耶が話はじめた。

   「あのさぁ、」

   尋ねる口調だったので、直江は元の優しい表情に戻って

   「どうしましたか?」

   と聞いてやった。

   「あのさ、俺何年か前にココに来たことあんだけど……」

   「え?」

   直江の表情が一瞬だが鋭くなる。高耶が記憶をたどりながら

   「確かさ、中坊の時に卒業旅行で東京ディズニーランドに行ったんだよ。
   そんとき俺確かにココに来た。譲とキャッチボールしててさ。」

   (えっ…!!)

   キャッチボールというのに引っかかった。毎年直江がココを訪れる時は一人で来ていた。
   が、何年か前に一度だけ千秋と一緒にここに来ていた。直江は記憶の糸をたどって行く。

   「高耶さん!」

   直江が急に叫んだので高耶は驚く。直江は我にかえって

   「す、すみません。その時誰かにボール拾ってもらいませんでした??」

   「あ、確か譲が中々ボール持ってこないんでこの木の…・・って……」

   高耶も思い出したらしい。
   確かキャッチボールをしてたのだが譲がボールを取れなくてこの木の下まで転がってしまい、
   それを拾いに行ったのだが中々帰ってこなうので高耶が木の近くまで行くと譲は誰かから手渡しで
   ボールを渡してもらっていた。

   「あれ…・・おまえだったのか?」

   驚いた顔をする。無理もない。

   「ええ。そうです。」

   「嘘だろ〜」

   高耶は頭をかかえてしゃがみこむ。

   「いえ、本当のことです。私も驚いていますよ…・まさか記憶の無いあなたと会っていたなんてね」

   直江はなんだか気が抜けてしまったらしく木にもたれかかった。
   するといきなり高耶が勢い良く立ち上がり、

   「俺さ、あの時この木見て思ったことあんだよね。」

   「何ですか?」

   片手を額に当てたまま直江は視線だけ高耶に向けた。

   「笑っちまうかもしれないけどさ、この木がなんか訴えかけてる感じがしたんだ。
   この木見てたらすっげー懐かしくなって。ひょっとしてこの木俺の事知ってたのかもな」

   高耶が笑いながら言う。

   「そうですね。この木は私たちが生きている時間の半分くらいは生きてますからね。」

   少し間を置いてから直江は高耶をまっすぐ見つめて確かめなければいけないことを聞く。

   「記憶は……取り戻したのですか??」

   不意の質問に高耶は少し驚いた。

   「取り戻してない。
   ただ、たまに夢で色々見るけどそれが自分の記憶だって確信もてないわ。俺本当に景虎なのか?」

   「そうですよ。あなたは何も知らないようできちんと知っている。景虎様です。」

   直江は高耶の肩に自分の手を乗せると

   「そろそろ風も出てきましたし帰りましょう。
   せっかく東京に来たのですから何かおいしいものでも食べてきましょうか。」

   そう言った直江の表情は高耶が今までに見たこともないくらいに優しい。

   「マジ?やった!!」

   そう言って高耶は歩き出した。

   「早く行こうぜ!!」

   と直江を急がせる。
   直江はわかりました。と言って高耶の後ろを歩き始める。

   (来年はこの場所へ一緒にこれるだろうか。)

   直江はもう一度木を振り返る。そこに過去の自分たちの残像を見たような気がした。

   「次は二人で来ます」

   そっとつぶやく。そのつぶやきは誰にも聞かれる事なく風に運ばれていった。

 

  一緒にこようと心に誓って……

 

END


 終わった〜っ。一応これで完結です。

 なんだか2から3までの間があきすぎた〜という感じがしますが完結できてよかったぁ。
 このお話の時点ではまだ高耶は記憶を取り戻していません。(苦笑)
 
とりもどしてからのお話もできたら書きたいなと思っていますがいつできるかは未定でございます。(爆)
 
それではっ。

      19990725 沙良