あの時、あの場所でもう一度・・・・・no.2 

 

  景虎様が見つかった。

  本当に心からよかったと思った。

  でも、一つだけ・・・記憶がない。

  確かに景虎なのに当の本人仰木高耶には景虎であったことの記憶がなかった。

  本当のことを言うと、覚えてなくて安心した。

  でもそれでは何の解決にもならない。いつ思い出すかと脅えてて生活するのは・・・・・・辛い。

  そう、現実を受け止めなければいけない。

  たとえ、記憶を取り戻して何を言われても・・・・・・

                                      

                                         

  「高耶さん、明後日暇ですか?」

  急な直江からの誘い。まだ直江という男と数回程度しか会ったことがないので正直いって悩む。
  この男を信用していいものかどうかと。でも、もし自分が景虎だったならば・・・
  と思うとこの男の話しを聞いてみるのも悪くはない。

  「明後日か・・・・・暇だけど。何?」

  「一緒に行っていただきたい場所があるんです。」

  直江はあえて場所は言わない。もし、思い出していればその事に気が付くからだ。

  「どこに行けばいい?」

  何も言わないところを見るとやはり思い出してはいないようだ。

  「自宅まで迎えに行きますので、午後1時に。」

  「わかった。」

  それではおやすみなさい。というと直江は電話を切った。
  受話器を置いてからため息をつく。もし思い出してくれていたらと思った事、しかしそれとは逆に
  思い出して自分を拒絶されたとしたら・・・・・・。2つの意見の中で直江の心は揺れた。

  しかし、このままでは前に進む事ができない。
  もうあんな思いはしたくない。景虎様と離れて・・・・行方がわからない。考えただけでも震える。
  あんな思いはもう十分だから。

 

 

  約束の日は良い天気だった。
  待ち合わせ時間より10分早く自宅のインターホンが鳴っる。

  「はいはいはい。」

  高耶が勢いよく走ってくる。玄関の扉が開くとそこにはジーンズにTシャツとラフな格好の高耶がいた。

  「お久しぶりです。少し早かったですか?」

  高耶の慌て振りを見て直江が少し困った顔をして尋ねた。

  「いや、平気。車?」

  高耶は話ながら靴を履くとさっさと外に出た。それに続いて直江も外にでる。
  自宅前にはなんだか不似合な車が止まっていた。

  「うげ、これお前の車かよ」

  こんな団地の中に不似合いな車を見て高耶は少し嫌味な顔をしたが、乗ってください。
  と直江が助手席のドアを開けて高耶を乗せるので高耶はおとなしくそれに従った。
  高耶を助手席に座らせてからドアを閉めると自分も運転席に向かい車に乗る。
  ブルンとエンジンのかかる音がする。と、車がゆっくりと動き出した。

  「なあ、今日はどこにいくんだよ。また・・・この間みたいな変な事件じゃないだろうな?」

  助手席の背もたれを少し倒して高耶は隣りで運転をしている直江に話しかけた。

  「いえ、今日は違いますよ。一緒に行きたい場所があるんです。
  あ、高耶さん。危ないですからシートベルトはきちんとして下さいね。」

  どんな時でも高耶に関する注意はおこたわらない。もう、二度と失う事は嫌だから。

  「へいへい。」

  しぶしぶと高耶はシートベルトを絞めた。
  束縛されるようで嫌ではあったが、もしも事故が起こったときには身体を守ものになるので諦めた。
  それに、直江と車に乗っているんだったら相手が突っ込んでこない限り事故なんて起こらないような気がした。

  「で。どこに行くんだ?」

  まだ行き先を知らされていない。行き先がわからないのでは不安になる。
  ひょっとしてこのまま帰ってこれないかもしれないという気持ちが高耶の中にあったからだ。高耶の心を知ってか、

  「大丈夫です。連れ去ったりはしませんから」

  と直江はくすりと笑って答えた。なんだか心を見透かされたような気がした高耶はそっぽを向いてしまった。

  「少し時間がかかりますから眠かったら眠って結構ですよ。着いたら起こしますから」

  「そうか?」

  実は高耶は昨日あまり眠れなかった。直江がどこへ自分を連れて行くのか分からなかったし、
  まだあまり先日の出来事を信用できていなかったからだった。できていない・・・・というよりは信用したくない
  と言った方が正しいのかもしれない。
  しかし、最後の調伏は自分でやってしまったみたいだし、無関係というわけにもいかない。
  だが、時間がたつに連れその記憶もあやうくなってきていた。あれは現実だったのか・・・・・。

  直江の運転が穏やかだったので高耶はなんだかゆりかごに揺られているようでそのまま眠りについてしまった。
  直江は高耶が寒くないように車内の温度を調節してちらっと眠っている高耶を見る。寝顔はまだまだ子供だった。

  (この方が・・・・・・景虎様・・・・・・・・・)

  そのまま高速に乗って、直江は目的地へと車を走らせた。松本から走る事4時間。
  直江達の乗った車は東京都に着いていた。目的地までもう少しである。

 

続く


  2回で終わると思ってたんですが、書いてたら終わらなかった・・・・(^_^;)

  これを書いている途中で1巻から読みはじめてしまったものだからああしたい、こうしたい、というのがでてきて
  一番はじめに考えていた話とちょっと変わってしまったけど、それはそれでいいか、と。(笑)

  続きは今書いていますが、他にも書きたいのがあって中々進まない〜!!
  この話、自分的には2巻より前をちょっと意識して書いています。(苦笑)

                 19990618  沙良