あの時、あの場所でもう一度・・・・・・・ no.1  

 

      カーラジオから野球の実況が流れてくる。この実況を聞くと夏が来たとそう思う。
       直江は運転をしながら隣に座っている千秋に声をかけた。

       「ラジオを聞いて楽しいか?」

       「ん?まぁ、何もないよりいいんじゃねえの。俺重い雰囲気嫌いだし〜。」

       お気楽という文字そのものである。
       まあ、千秋が重い雰囲気というのも分からないわけではない。

       『景虎が見つからない……。』

       それが直江の不安材料だ。
       あの戦いからもう25年。自分達が生きてきた長さと比較したら小さな時間かもしれないが、
       景虎のいない25年は今まで生きてきた時間の何倍も長く感じた。    

       「まあ、焦る気持ちも分からなくないがな。根気よく探すしかないだろ。」

       千秋はぶっきらぼうに言っているが、実はとても心配している。
       もうこのまま見つからないのかと何度も思った。
       実はその事で直江と千秋は何度も言い合いをしてきたのだった。

       「長秀、ちょっとよって行きたい場所があるんだがいいか?」

       別に仕事も片付いたし、急いで帰る必要もなかったので「ああ。」と返事をした。
       車で走って1時間。直江たちの乗った車は、大きな公園の駐車場へと止められた。

       「こんなことろに来て何かあるのか?」

       「ここは昔景虎様と来た場所なんだ。」

       当然昔は公園などではなかった。広い草原のなかにポツリと木が立っていた場所だった。
       車を降りて公園内に入る。
       家族連れ、カップル、散歩を楽しんでいる老夫婦。様々な人々がそれぞれの時間を楽しんでいた。

       「こっちだ。」

       そう言って直江が歩き出す。千秋はそれを無言で追う。千秋にはここがどんな地だかわからないが、
       きっと景虎との何か思いでが詰まっているのだなというのだけは感じ取ることが出来た。

       公園の入り口から20分くらい歩いた所に大きな木が立っている。樹齢何百年だろうか。
       見上げてもてっぺんが見えないくらいに大きい。
       千秋は関心した。こんな大きな木を見るのははじめてかもしれない。直江が木の下で止まった。
       どこまであるのかと上を見たがてっぺんは見えない。

       「でっかい木だな。」                              

       「ああ。」

       そっけない直江の態度。こういう時は何かを考えているのだ。

       「何考えてるんだよ。景虎の事か?」

       直江の顔をのぞきこむ。

       「昔ここで約束をしたんだ。」

       遠い過去を思い出しているのか、遠くを見つめている。

       「約束?」

       「そう。毎年同じ時、同じ時間にたとえどこにいようともここで会いましょう。と景虎様と約束したんだ。」

       直江は木にもたれる。

       「ふーん。それで毎年おまえはここに来てるわけ?」

       千秋も木に体を預ける。木の鼓動が聞こえるような気がした。

       「大体・・・な。本当に怨霊退治でこっちにいない時にはここに来れなかった。
       そういう時は前もって景虎様に連絡してたんだけどな。」

       「んで?なんでその話しを?」

       「もし、景虎様がその約束を覚えていたならここに来てるんじゃないかと。」

       「なるほどな。でも、来て・・・ない・・・か。」

       「ああ、景虎様の行方がわからなくなってからの25年間は毎年欠かさずここに来ている。しかし・・・・」

       「来る気配がない・・って?」

       「そうだ。ここにくるたびに思い知らされる。もうあの人は私の目の前に現れてくれないのでは
       ないかと。そう思うとやりきれなくて、毎年ここに来るのは小さな希望でもあり、恐怖でもあるんだ。」

       いつになく景虎との事をべらべらと話す。
       普段景虎のとの個人的な関係はほとんど話さない為に少し驚いた。

       (そうとうまいってるんかね。このおっちゃんは。まったく世話が焼けるぜ。)

       千秋は木から離れて直江と向かい合う。

       「でもさ、まだ25年だぜ。おまえ何百年生きてると思ってるんだ?400年だぜ?!
       まだまだ頑張れるだろ?」

       「ああ、まだ大丈夫だ。負ける気はない。」

       「その気持ちがあれば十分なんじゃないの?」

       「そうだな。」

       千秋とこんな話しをするのは久しぶりかもしてない。
       遥か向こう側には真っ赤にそまった夕陽が出ている。その夕陽を見ていると

       「すみません。」

       知らない声がした。二人が振り返ってみると学生服を着た少年がいる。

       「どうかしましたか?」

       「あの、足元にボール・・・・・・。」

       足元を見ると確かに野球のボールが転がっている。話しに夢中になって気が付かなかったのだろうか?
       直江がそのボールを拾ってやり少年に渡そうとした時

       「お〜い。譲!!ボールまだか?」

       遠くの方から誰かが大声で叫んでる。

       「ちょっと待ってて!」

       譲と呼ばれた少年はそう叫ぶと直江の手からボールを取り、ありがとうございました。
       と礼を言うと、走り去って行った。向こう側の少年もこっちに向かって軽く頭を下げた。
       特に理由はなかったが千秋は手を振ってやった。

       「さって、んじゃ俺達も帰りますか。」

       「ああ、そうだな。」

       直江は名残惜しそうに木を見つめる。

       また来年くるから。今度こそ貴方に会えると信じて・・・・・・

 

                             end                      

 


       これ、最後に出てくる名前のない少年はズバリ高耶ですっ。(笑)

       原作と設定(年齢とか)違う〜と思ってもその辺は目をつぶってやって下さい。

       実は、これには続編があります。はじめに続編の方を書いたんですけど、なんだかしっくりこないので

       このお話を先に書きました。この話・・・・教室から見える大きな木を見て思いついたんですよ。(笑)

       

              19990527   沙良