その一言が言いたくて
太陽が完全に沈んでから3時間以上が過ぎているというのに気温は落ちず湿気を含んだ嫌な空気が充満している。
独特な不快感が体を襲うがそんなことはおかまいなしに駅から目的地目指してひた走る。
スピードは落とさずに腕時計を見ると時計はデジタルで11:45:05と表示していた。
(あと15分か・・・)
歩道橋に差し掛かったが階段を登っている余裕はない。
右手に持ったケーキの箱を傾けないように気を使いながら千秋はガードレールを飛び越えた。
歩道橋近くの小さな公園を抜けるとやっとのことで高耶の住んでいるマンションが見えてくる。5階の角部屋が高耶の部屋だ。
灯りが付いているということは高耶は部屋に居るということである。
オートロックのマンションだが、何度も出入りをしている千秋は手馴れた手つきで0723と高耶の誕生日を入力すると
数秒間があって扉が開いた。そのまま小走りでエレベータホールへ向かう。
運の悪いことにエレベータは目的地である5階にいたようで5階からゆっくりと降りてくる。
思わずイラついて足を鳴らしてしまう千秋であった。
数十秒してエレベータが到着すると千秋はすぐに乗り込み5階のボタンを押す。
上にあがる数十秒のエレベータが何分にも感じられ、千秋は時計とエレベータ内の階数を表す掲示板を何度も見比べる。
(あと2分。ギリギリだな。)やっとのことで5階につき、エレベータから一番遠い奥の角部屋のインターホンを一度鳴らした。
『千秋?』
モニターで顔を見たのであろう、千秋が名乗る前に高耶が不思議そうな声を出した。
「おうよ。開けろ!早く!!」
『へいへい。』
あと数十秒で23日、高耶の誕生日が終ってしまう。高耶が玄関のドアを開けたのは11時59分45秒。
鍵を回す音がして少し扉が開くと千秋が勢いよくドアを引っ張ったので扉に半分体重をかけていた高耶が前のめりになって
千秋に倒れ掛かってきた。すかさずそのまま支え抱きしめる。
「わりっ・・・」
倒れたことに対して誤ろうとした高耶の言葉を千秋の言葉がさえぎった。
「誕生日おめでとう。」
「あ?」
千秋はその一言だけ言うと高耶をゆっくりと離そてそのまま廊下と玄関の間に座り込む。
それを見て千秋の息が上がっていることに高耶は気が付いた。
「もしかしておまえ走ってきた?」
「おうよ。なんとか間に合ったぜ。」
千秋が高耶を見上げて右手の親指を立てて見せた。
「電話でもいいだろうに・・・」
「会って言いたかったんだよ。ボケ。」
千秋は「よいしょ」と立ち上がるとケーキを高耶に差し出した。
「ケーキ?」
「誕生日っていったらケーキだろ。の前に水くれ水。超のど渇いた。」
「とりあえず入ったら?」
「だな。」
千秋が先に入り高耶が扉を閉める。リビングへと向かう千秋の背中に高耶はそっと「ありがとう。」とつぶやいた。
END
なんとか高耶さんの誕生日に何かUPしたい!
そう思って数時間で書き上げました。今11時20分過ぎなので千秋並にギリギリです。(苦笑)
高耶の為に一生懸命走る千秋を書いてみました。短いですが楽しんでいただけたら幸いです。
HAPPY BIRTHDAY 高耶!
20050723 貴月ゆあ