Removal-of-the-ban day

 

薄暗い部屋の中でノートパソコンの薄いキーボードを静かに叩く音が響く。
最後の一行を入力するとファイルを保存してそっと目を閉じた。入力に夢中になり瞬きをあまりしていなかったせいか目が痛い。
そういえばいつだったか「暗い部屋でパソコンやってると目悪くするぞ。」と高耶に電気を付けるように言われたたことを思い出した。
しばらくして目をあけると壁にかかったカレンダーが目に入る。

「そういえば・・・・」

直江はパソコンの電源を切り上着を着ると車の鍵と携帯を持ってマンションを出た。

 

 

「やりやがったな!」

「うるせーお前に隙があったからだ!」

「次いくぞ次!」

千秋の作ったきつねうどんの夕飯を食べてから数時間、すっかり格闘ゲームにはまってしまっている千秋と高耶である。
勝負は千秋が圧勝していて高耶が中々勝てずにいた。

「お、もうこんな時間じゃん。」

テレビの下に置いてあるDVDが表示する時計に目をやるともうすぐ日付変更線を越える時間だ。

「どーせ泊まってくんだろ?負け続きは嫌だ。勝負しろ勝負!」

「へいへい。負けたら俺様のいうこときけよ?」

「望むところだ!」

高耶は千秋に負けてばかりで意地になっておりどうしても千秋に勝つまでやめないらしい。
高耶がスタートボタンを押すとゲームがスタートしたがスタートしてすぐに千秋の勘が何かをキャッチした。

(この気配は・・・・)

「直江が来たぜ?」

高耶が聞き返す間もなく部屋のインターホンが鳴った。
仕方なく一度ゲームを止めて高耶がモニターを覗き込み受話器を取るとそこには千秋の予言通り直江が立っていた。

「直江?」

「こんな遅くに申し訳ありません。まだ起きていらっしゃいましたか?」

「どうした?」

「ええ、もしお邪魔でなければあげて頂きたいのですが・・・・」

「鍵開いてるぜ。」

とだけ言うと高耶は受話器を戻した。

「高耶さん、いくらマンションの階が上だからといってももう遅い時間ですから鍵くらい掛けた方がいいですよ?」

深夜だからなのか直江にしては珍しく随分ラフな格好なうえに左手には大きな紙袋を持って入ってきた。

「うっす。」

千秋がコントローラを片手に挨拶する。すっかりここの住人のようだ。

「長秀も来ていたのか。」

「邪魔だったら帰るぜ。おまえの車かせ。」

「いや、ちょどいい。」

「は?」

てっきり邪魔者扱いされると思った千秋は直江の意外な返答にポカンとした顔になる。
直江はそんな千秋をほっといて高耶に話しかけた。

「高耶さん、今日が何の日か知っていますか?」

「今日?」

高耶は首を横にしてしばらく考えたが何も出てこない。

「なんだ?」

「今日はこれの解禁日なんですよ。」

直江が持ってきた紙袋からなにやらボトルを2本取り出しダイニングテーブルにのせた。

「ボジョレーか!」

ポカンとしていた千秋が「なるほど」という顔で近づいてくる。

「そうです。今日がちょうど解禁日でしてね。ニュースで見たのを思い出して深夜営業しているお店で買ってきたんです。」

「ワインか?」

高耶は置かれたボトルをクルクルと回しながら持ち上げてみせた。

「そうです。ボジョレーヌーボーといってフランスのワイン作りが盛んなボジョレー地方で作られたワインで
毎年11月の第3木曜日に解禁となるんですよ。今年は日本が一番早い解禁国なんだそうです。
ワイン自体はそれほど高価なものではありませんが口当たりの良い軽めのワインなので高耶さんに
気に入ってもらえるかと思いまして。毎年この季節になるとボジョレーという言葉を耳にしませんか?」

直江は学校の先生ながらの説明をしてみせた。

「聞いたことはあるけど飲んだ事はないな。」

「そうでしたか。では今晩はぜひ味わってみませんか?」

直江が高耶に向かって微笑む。

「じゃーつまみでも作って飲むか。」

「あ、少しは買ってきましたよ。」

直江がさきほどの紙袋からワインに合いそうなチーズやクラッカーなど数点を並べる。

「サンキュ。千秋が作ったうどんを7時に食ってからずっと格闘ゲームしてたから腹減った。」

逆算するともう5時間もゲームをしていることになる。直江は半ば飽きれながら

「ずっと、ですか?」

とつい口にしてしまったがつまみ作りのため換気扇を回してしまったので背を向けている高耶には聞こえてないらしい。
高耶に聞こえないことを確認すると千秋は直江に小声で話し掛けた。

「自分が勝つまで続けるんだってもーかれこれ5時間よ。」

千秋もさすがに空腹になってきたのかテーブルの上のクラッカーに手を伸ばし包装を開けると1枚口に入れた。
ろくに水分も取っていなかったので口の中の水分を奪われる。失敗したと思った千秋だったがそうだ!と直江を指差した。

「なんだ?」

「おまえもやってみ?」

クラッカーを飲み込んだ千秋が楽しそうにそう言った。

「私は遠慮しておきますよ。」

話が聞こえたのか高耶がフライ返しを握り締めて振り返った。

「いや、やってみろ!おし、飲んで腹ごしらえしたら勝負だ!」

高耶は楽しそうにフライ返しで直江を指名するようなしぐさをする。

「腹ごしらえって高耶さん・・・ワインはゆっくり楽しむものですよ?」

直江が怪訝な顔をするが高耶はお構いなしに鼻歌を歌いながらくるりと逆を向きフライパンの中のはんぺんを裏返した。

「まーそういうなって。俺に負けてばっかりなんだ。お前やって負けてやれ。」

千秋が高耶に聞こえないように直江にこっそりと言うと直江が嫌な顔をする。

「私だって負けたくはありません。きちんと勝負して負けるのなら本望ですがそうでないなら高耶さんも納得しないでしょう。
おまえが負けてやればいいじゃないか。」

「俺様だって負けたくないやい。」

「困りましたね・・・・」

見事に『大人気ない』である。

「よし、俺様が教えてやる。」

千秋は直江を無理やりテレビの前へ連れていくとコントローラの説明を始めた。

「いいか、これがパンチでこれがキック。必殺技は十字キーと連動してやるんだ。」

千秋が一通り説明する。さすがの直江だけあって一度の説明で基本を覚え千秋と実践練習をしていると
「つまみできたぞー」と高耶からお呼びがかかったのでダイニングへと戻るとテーブルの上には高耶が作った
おいしそうなつまみと直江が買ってきたチーズとクラッカーが綺麗に並べられていた。

「しかしまぁ、おまえ変な才能あるよな。」

千秋が憎まれ口を叩きなら食器棚から食器を取り出す。

「そういやグラスあるのか?」

「あるある。」

以前やはり直江が持ってきてそれ以来使ってないワイングラスを高耶が箱から取り出し軽く拭くと
直江がグラスに丁寧にワインを注ぎ全ての準備が終る。

「では高耶さん。」

「おう。」

「俺様も居るんですけど」

「わかっている。それでは乾杯。」

優しいグラスを重ねる音が小さく響き宴の幕開けとなった。

END

 


ワインを飲むようになて○年ですがボジョレーは今年初めてしかも解禁日に飲みました。
これを飲みつつ「ワインか〜ワインったら千秋より直江だよなぁ〜でもな〜。」と思って出来たお話がコレです。

たまにはちーたかプラス直江もいっかなと思って書いてみましたが時期的に1ヶ月遅っ・・・・・・(・_・;)
個人的に最後の千秋の「俺様も—」ってところがプッシュです。(笑)

タイトルは思い浮かばなかったのでそのままで。しかし直江が格闘ゲーム・・・・似合わーん。(苦笑)

 

2004年12月23日 貴月ゆあ