夏祭り

ポンポーン。ピンポン。ピンポン。ピンポン。インターホンの連打。

「はーいはいはい。どちら様ですか?」

焼いていた秋刀魚の火を弱めエプロン姿の美弥が玄関へ駆け寄る。

「あ、美弥ちゃん?」

その聞き覚えのある声に美弥が玄関を開けるとデニムにアロハシャツ姿の千秋が立っていた。
胸のポケットにはサングラス。相変わらずかっこよくてモデルみたいだなと美弥は思う。

「千秋さん。お兄ちゃんと待ち合わせ?」

「そう。ちょっと時間早かったから迎えに来た。まだ居るよね?」

「うん。居るよ。今美弥お父さんのご飯作ってるの。手が離せないからここで待ってて。お兄ちゃ〜ん!千秋さん迎えに来たよ〜。」

台所へ戻る途中で高耶の部屋に向かって美弥が叫んだ。高耶の部屋からは「今行く!」と叫び声。
千秋はそのまま玄関で待っていると数分して高耶が部屋から出てくる。シャワーでも浴びていたのか髪が生乾きだった。

「外暑い?」

下駄箱からスニーカーを取り出しながら玄関で待たせていた千秋に声をかける。

「暑いってもんじゃないな。」

今年の夏は必要以上に暑く太陽が落ちきったこの時間でも暑かった。

「美弥、行って来るから。何かあったら携帯に連絡入れろよ。あと友達に迷惑かけないように。」

「わかってるって。気をつけてね!」

顔は見ずに声だけで見送られた。台所からは「キャー焦げた。」と美弥の声が聞こえたが何も答えず高耶は玄関を出て防犯の為に鍵を閉めた。

「美弥ちゃんどっか行くの?」

先に階段を降りていた千秋が後から降りてきた高耶に尋ねる。

「夏休み始まったから友達の家へ泊まりに行くんだと。一気に宿題片付けるって言ってたけどどうだかな。」

夏休みの宿題を友達と分担して一気に片付ける作戦らしい。
多くの学生が宿題は早めに終わらせて・・・と思うが実行できるのはごく一部の人間だけだ。
ちなみに高耶も実行できないうちの一人だった。今年も宿題は山のようにある。

「へーっ、じゃあ今日は帰さなくてもいいわけだ。」

「あほ。」

二人は近くの神社で行われている夏祭りに向かっている。ちょうど今日は高耶の誕生日。
好きな物おごってやるという千秋の誘いに高耶が乗ったのだ。川沿いの道を二人で歩く。気温はまだ高いが時々吹く風が心地よい。
ゆっくりと歩く二人を浴衣姿の子供や近所の小学生達がはしゃぎながら追い越して行く。自分も小さい時美弥を連れて夏祭りへ行った事を思い出した。

 

夏祭り会場は夏休みが始まってすぐというのもあり子供を連れた家族連れが目立っていた。
さて何を食べようかと露店を物色し始めようとすると「おーぎくーん。」とどこかで聞いたことのある声。
振り向くと案の定森野沙織が数人の友達と一緒に小走りでかけてきた。一緒に居る友達の名前はわからないが顔は見たことある。多分同じ学校だ。

「休みまでおまえかよ。」

「失礼ね。それよりどうどう、浴衣。あれ、今日成田君は一緒じゃないの?」

譲も一緒だと思ったらしく浴衣姿を見せようと高耶の姿を見つけて走ってきたらしい。

「あいにく今日は譲と一緒じゃない。残念だったな。」

「ちぇー本当に残念。」

沙織の事はなんとも思っていないが何かあれば「仰木君、成田君は?」とうるさい沙織に高耶はうんざりしていたのでいい気分だ。
しかし肩を落として残念がる沙織に高耶は(そこまで沈むなよ。)と思う。

「俺は居るんだけど?」

高耶の横から千秋が顔を覗かせた。

「あら千秋君。」

千秋に反応したのは沙織の友達だった。千秋の私服姿に目がすっかりハートだ。忘れていたが千秋は校内でもてる。
この間もまた誰かに告白されていたのを風の噂で聞いた。
沙織の友達が「誘ってみる?」と小声で話しているのが千秋の耳に入った。千秋にしてみれば冗談じゃない。

「悪いけど俺達はこれで。」

千秋は先手を打って「また学校で。」と高耶を引っ張って歩き出した。

「あーもう、成田君によろしくね!」

去って行く高耶たちの背中に沙織が叫ぶ。高耶は「へいへい。」と片手を上げながら千秋に引っ張られていった。

沙織達と別れて露店外をひとしきり歩く。100件以上も露店が隙間無く並び高耶はキョロキョロと目移りしていた。食べ物やおもちゃ、時には生き物を売る露店もある。

「何食う?」

「焼きそば、フランク、水あめ。この辺りは王道だよな。でも大阪焼きって知ってるか?あれも美味いんだよな〜。
あと甘いけどわたあめ!あれって祭りの時しか食えないだろ〜。でもこれだけ暑いとカキ氷も食べたいよな。あー悩む!」

真剣に悩んでいる高耶がなんだか可愛くて千秋は笑ってしまった。

「いいから好きなだけ食えって。」

 

 

たっぷり夏祭りを堪能した後二人は神社の外れにある小さな休憩所(と言ってもただベンチに屋根が付いているだけだが・・・)に腰を掛ける。
屋根の隙間からは月の光が差し込んでいた。夏祭りの会場から少し離れているので人気は少ない。
街灯も少ないから月がよく見えるのだがどちらかといえば夜は近寄りがたい場所だ。

「ここさ、よくガキん時遊んだんだ。昼間はもっと明るくていい場所なんだけど夜来るとちょっと不気味だな。しかしマジ暑。」

高耶はさきほど買ってきたビンのラムネを首押し当てた。ガラスが冷たくて気持ちがよい。

「ラムネ暖まると不味いぞ?」

千秋は露店の店員に開けてもらってきたので冷たいラムネを喉へ流し込む。

「俺にも一口。」

高耶が手を伸ばす。千秋はラムネを手渡すフリをして高耶を引き寄せるとそっとキスをした。唇が触れるだけのキス。
そういうキスなら数回(不本意にだが)したことがある。しかしそれでは終わらず千秋の舌が高耶の唇を割って口腔内に侵入してきた。
高耶には初めての経験だ。

「んーっ。」

千秋を剥がそうとするがいつの間にかベンチにラムネのビンを置き千秋は逃げられないように高耶の両腕を掴んでいた。
千秋の舌が自分の舌と絡み合う。なんとも表現しがたい感触と感情。嫌がって拒んでいた高耶だが暑さも手伝いなんだか火照った気分になる。
唇を離さないまま目を開けると高耶はもう嫌がっていなかった。

(やべ、このままじゃ自制心吹っ飛ぶな。)

千秋はそっと唇を離すと高耶の頭をなでながら「誕生日おめでと。」とおでこにキスをする。高耶は真っ赤になっておでこを手で押さえた。

「あーらそんなに真っ赤になっちゃって。続きは帰ってからね。さ、暑いし帰るぞ。」

ちゃっかり自分のラムネを持って千秋は高耶を振り返りもせずだけどゆっくりと歩いていく。
高耶は落としたラムネを拾い上げ手早く封を空けると飲み口を手で押さえりラムネのビンをおもいっきり振った。

「千秋!覚悟しろ!」と千秋を呼びとめると千秋に向かいラムネのビンから手を離した。中身が勢いよく千秋に放たれる。

「うわ、バカ。ベトベトになんだろうが!」

「うるせー仕返しだ!」

ラムネを振り回し高耶は千秋を追いかける。大騒ぎしながら二人は千秋のアパートへと帰って行った。

 

END

 


またもや(?)ベンチでイチャイチャネタになってしまいましたが・・・・

数年ぶりに高耶さんbirthday当日まともにUPできてよかった!!(苦笑)

なんか考えても気がきいたお話が書けなかったので二人がまるっきり高校生って事で書いてみました。
もっとエロエロ〜(笑)なお話にしようかと思ったけどできあがってみら随分スッキリと♪
青春パラダイスというくくりに入れようかと考え中デス。(詳しくはNOVEL一覧をご覧下さい。)

数年前にもやったけどこの続きも書きかけてるのですが誕生日には間に合わなかったので完成し次第UPです。

Happy Birthday TAKAYA!

 

2004年7月23日 貴月ゆあ