力の差、愛の差

 

  とあるマンションの部屋でソファーにうつ伏せにねころびながら高耶はテレビを見ていた。
  ドラマにニュース。10時代には様々なテレビ番組がやっているが高耶が見ていてもあまり面白いものはなかった。
    しかたなくリモコンを持って色々とチャンネルを変えていると、

  「景虎!」

  と呼ばれた。それは風呂に入っていた千秋の声だった。
  今回の事件は長引きそうなので駅の近くにマンションを借りた。今はそこを本拠地としている。

  「なんだよ。」

  風呂場まで行くのが面倒でソファーの上から大声で答えた。

  「わりぃんだけど、石鹸持ってこい。」

  悪いと言っているわりには命令口調である。

  「んだよ、そんなん入る時にしっかり持っていけよな。」

  文句を言いつつも高耶はソファーから起きあがり洗面所の下の引き出しから1つ石鹸を取った。 
  そしてその足で隣りの風呂場に向かう。

  「ここに置いとくぞ。」

  と言って高耶は風呂の入り口に石鹸を置いた。リビングに戻ろうとした時に風呂場の扉が勢いよく開く。

  「おお、わりぃなっ。」

  そこには腰にタオルをまいて濡れた髪を頭の上の方で結んでいる千秋が立っていた。
  千秋のそんな姿を見た事ない高耶は目のやり場に困る。しかし、冷静を装って千秋に「自分でやれ。」
  と言ってその場を去ろうとした時にいきなり後ろから千秋に肩を捕まれた。何事だ?と降り返ると、

  「一緒に入るか?」

  などと言う。

  「そ、そんな事するわけないだろ!」

  と大声を出すと、

  「冗談に決まってるだろ。俺は男と入る趣味なんてねえよ。あ、それとも本気にした?」

  千秋はやった!とばかりに意地悪く笑う。

  「いい加減にしろ!」

  千秋の手を振り払うと高耶はドカドカとリビングに戻っていった。
  千秋はそんな高耶などお構い無しに石鹸を持って風呂に戻っていった。

 

  高耶はリビングに戻ると再びソファーにねころんだ。心臓がドキドキと言っている。
  まったく冗談もいいところだ!!

  高耶はドキドキいっている心臓を押さえながらまたTVに向き直ったがどうも集中できない。
  どうやらさっきの冗談が相当聞いたらしい。(それも風呂上りの格好で……)
  千秋の事だけが頭の中をかすめる。必死に忘れようと頭を思いっきり左右にふった。すると、

  「何してんの?おまえ?」

  と千秋の声。どうやら風呂から上がったらしい。今度は黒いジャージに白いTシャツを着ていた。
  片手にはビールを持っている。

  「おまえも飲むか?」

  自分の持っているビールを高耶に差し出す。高耶はプルプルと首を横に振った。

  「いらなねーの?」

  千秋は美味しそうにゴクゴクとビールを飲む。
  高耶は知らず知らずのうちに千秋をじっと見ていた。その視線に気が付いた千秋は

  「何だよ、さっきから。あ、さてはおまえ俺があんまりカッコイイから見とれてんのか?」

  図星に高耶は真っ赤になる。

  (おやおや、どうしちゃったのかね。)

  千秋はジリジリと高耶に近づいていく。

  「な、なんだよ。」

  近づこうとすると高耶は後ずさって逃げる。
  そんな高耶の反応が面白く、千秋は高耶を追いかける形になってしまった。

  「逃げるなよ。別に取って食おうってんじゃないんだから。」

  壁際に高耶を追い詰めた。

  「そ、それ以上近づくな!!」

  自分の方が圧倒的に不利なのに、態度だけは一丁前である。(笑)

  「いやなこった。」

  千秋が高耶に迫る。ついに二人の間には距離が無くなった。ちょっと動いたら唇が触れるほど近くに千秋がいる。
  ゆっくりと千秋の顔が近づいて来た所で・・・・

  「何やってんだ。長秀。」

  背後から直江の声が聞こえた。
  千秋が驚いて降りかえる。その隙に高耶はその場から逃げ出し直江の背後にまわる。

  「高耶さん。急ですがこれからある場所まで来てもらいます。支度をして下さい。長秀はこれを調べておくように。」

  机の上に大量の資料を置いた。

  (やべっ・・・・)

  とは思ってみたが見られてしまったものはしょうがない。
  しばらく無言でお互いを見ていたが、高耶の「支度できたぞ!」と玄関から呼ぶ声にお互い視線を外す。
  直江が玄関に向かったので自分もその後を付いて行った。
  玄関には上着を着て靴を履いた高耶が待っていた。

  「先に外に出てるぞ。」

  と言うと扉を開けて外に出て行ってしまう。よっぽど千秋と顔を合わせずらいのだろうか。
  高耶が外に出て聞こえないのを確認すると、

  「そんなに高耶さんとキスがしたかったのか?」

  と直江が口を開いた。

  「そんなわけ無いだろ。」

  ビールを飲みながらぶっきらぼうに答える。

  「そうか・・・。でも・・・・」

  と、言うといきなり千秋の唇に直江の唇がほんの一瞬触れた。
  千秋は驚き、目を大きく見開いている。何が起こったのか一瞬理解できなかった。

  「これで高耶さんとは間接キスだな。」

  そう言って直江は部屋を出て行った。残された千秋は呆然と立ち尽くしている。
  ビールの缶が足元に落ちたのをきっかけに千秋は我に返った。

  (・・・・ったくあいつはよ〜。やっぱりあいつにはかなわないのかねぇ。)

  と唇をぬぐい舌打ちしたのは言うまでもない。

 

END


  このお話・・・本当はちーたかだったのに直江の乱入で違うもんになってもうたぁ〜。o(>_<)o
  最後のキスは・・・・・いいのか?って感じですが・・・・・。皆様怒らずに暖かい目で見てやって下さい。<m(__)m>
  しかし・・・千秋の入浴後ってのは想像する価値あり!!って感じですね。(笑)濡れた髪を束ねてたりなんてしたら
  もう・・・・。付いて行っちゃいます。(笑)今度はキチンとちーたか書けるといいなぁ。

  

                                        19990515 沙良