Sweet Rain

 

            「げ、雨降ってきた。」

            マンションから車で1時間。1ヶ月前にオープンした郊外型の大型ショッピングモール。
            そのショッピングモールの中にある大型スーパーマーケットでたんまり買い物をして出口に出ると
            空から大粒の雨が落ちていた。天気予報では夕方まで降らないと言っていたので傘は持ってきてない。
            スーパーの出口では彼らと同じく傘を持たない客が屋根の下で雨宿りをしていた。
            店員は入り口にビニール傘の仮設販売コーナーを設置している。何人か客が並び始めた。
            ビニール傘の値段は300円。

            「どうする?」

            両手にたんまり荷物を持った青年二人。高耶と千秋である。空を見上げるが止む気配は無い。
            急に千秋が高耶に右手の軽い方の荷物を預けた。

            「車とって来る。」

            「あ、ちょっとおい!」

            高耶の呼びかけもむなしく千秋は大粒の雨の中を車へ向かって走っていってしまった。

 

            ほどなくして出口に千秋の車が止る。高耶は後部座席に荷物をのせると自分は助手席へと乗り込んだ。
            それを見て千秋がアクセルを踏んで車が走り出す。

            「おまえびしょぬれ。タオルあったっけっかな…」

            高耶が後ろを向いて後部座席からタオルを取り出して千秋に渡した。
            千秋は片手運転で顔やら髪を拭いている。着ていたシャツも濡れていたが今はか乾かす事も
            できないので仕方なく千秋は肩からタオルをかけた。

            「明日晴れるかな?」

            大粒の雨がフロントガラスに当たってはワイパーで弾かれる様子を見ながら高耶が少し不安そうに呟く。

            「ん〜どうだろうねぇ。梅雨だからなぁ。」

            カーラジオに手を伸ばしながら千秋が答えた。ラジオからはタイミングを計ったかのように天気予報が
            伝えられる。それによると明日の降水確率は50%。

            「微妙だな。あんまり心配なさんなさいな。」

            横から千秋の手が伸びてきて高耶の頭をくしゃっと撫でた。

            高耶がなぜこんなに天気を気にしているのかというと、明日から松本の美也がこちらに遊びに来るからだ。
            先週美也から電話がり学校の創立記念日が金曜日に重なり3連休となるので東京に遊びに行くと連絡が
            あったのだ。まだ行った事の無いディズニーランドに行きたいという美也。高耶もそのつもりでいたが
            天候が思わしくないのだ。

 

            渋滞に巻き込まれ、予定していた時間より遅れてマンションに着く。
            雨は相変わらずでいっこうに止む気配が無い。荷物を置くのも忘れて高耶は部屋に入るなり
            リビングのテレビを付けた。人の気配に気がついた居候の猫。アメリカンショートのリンが高耶の足に
            じゃれ付くが高耶はそれどころではない。テレビではちょうど夕方のニュースの時間帯で天気予報が
            放送されている。やはり降水確率は50%。

 

            スーパーで買ってきた出来合いのものと軽く作ったおかずで夕飯を食べる。
            テレビを見つつ食べているのだが高耶の心ここにあらずという感じで表情が曇っている。

            「どした?元気ないぞ?」

            高耶の作った煮物の里芋に箸をさしながら千秋が高耶に話し掛けた。

            「いやさ、せっかく美也が遊びに来るから晴れてくれないかなって。
            楽しい思い出にしてやりたいじゃん。って言っても天気ばかりは俺にもどうにもできないからな。」

            曖昧な笑み。そんな高耶を見て千秋が何か思いついた。

            「な、んじゃ〜明日晴れるように祈願でもするか?飯食ったら早速作業だ。早く食え!」

 

            「景虎〜ちょっと!」

            夕飯を食べ終え食器を片付けると千秋が玄関の方から高耶を呼んだ。
            高耶が玄関へ行くと千秋が椅子に乗って下駄箱の上にある物置で何か探しているようだ。

            「なに探してるんだ?」

            「前に温泉行った時に卓球セット買っただろ?あれ。」

            千秋がこっちを向く。髪がほこりまみれになっていた。

            「あー確か左奥に入れた気がするんだけど。おまえ…すごいほこりまみれだぞ?」

            「後で風呂入るからいいて。でもすっげーホコリ。」

            千秋は卓球セットを見つけるとそれを持ってベランダに向かうとほこりを払った。
            ほこりが白い煙みたいに宙を舞う。

            「何するんだ?」

            リビングに戻ってきた千秋に高耶が声をかける。

            「景虎。いらなくなったシーツもってこい。あ、白いのな。それと油性マジック。凧糸ってあったっけ?」

            高耶は雑巾にでもして使うかとしまって置いた白いシーツと黒い油性マジックを千秋に言われるままに
            用意した。リビングのテーブルにはにシーツとピンポンだまに油性マジック。凧糸は無かった為に
            新聞を縛る為のスズランテープで代用することにした。

            「これだけ材料揃ったらお前にだって何作るかくらいわかるだろ?」

            千秋がはさみで器用にシーツを正方形に切っていく。

            「まさか…」

            「そう、そのまさかのてるてるボウズだ!」

            千秋は裁ちばさみをチョキチョキと宙で得意そうに動かす。

            それから二人でてるてる坊主をせっせと作った。ピンポン球が3つあったので3個のてるてる坊主が
            テーブルの上に並べられる。ベランダにつるせるようにスズランテープを付けているとリンがテーブルに
            上がってきてスズランテープにじゃれ付く。

            「こら、邪魔するんじゃなーい。」

            千秋がリンをテーブルから下ろす。
            高耶が先日リンの遊ぶ用にと買ってきた毛糸玉を投げてやるとそれで遊び始めた。

            「千秋、できたぜ。」

            高耶は最後のてるてる坊主にスズランテープを付けたのを千秋に見せた。
            高耶の両手には3つのてるてる坊主が並んでいた。

            「あ!」

            いきなり千秋が大きな声を出す。

            「な、なんだよ。」

            声に驚いて高耶は思わずてるてる坊主を握り締めた。

            「イイ事思いついた。坊主なんだから直江の名前顔書こうぜ。直江ボーズ。」

            千秋は一人で爆笑している。高耶も直江がベランダに下げられてるのを連想して笑ってしまった。

            てるてる坊主の一つに千秋が直江に似せて顔を書く。残りの二つには適当に顔を書いた。

            「直江、しっかり頼むぜ!」

            そういいながら千秋がベランダにてるてる坊主をさげる。
            3つのてるてる坊主がマンションのベランダに並んだ。

            「てるてる坊主なんて作るのまだお袋がいた時以来かも。」

            並んで揺れているてるてる坊主を見て高耶がぼそっと呟いた。

            「大丈夫!きっと晴れるって。俺様と直江ボーズを信じろ。」

            小さい子供をあやす様に千秋は高耶の頬を軽くたたいた。
            隣ではリンがてるてる坊主を狙ってジャンプしようとしている。明日の天気はもちろん快晴だ。

 

—END—

 


          このお話は30000カウントをGETしてくださったまろんさんのリクエストです。

            ちーたかで梅雨でてるてる坊主なんかを・・・とのことでこんなお話にしてみました。が、しかし!

            リクエスト頂いたのは6月。なのにUPは9月。3ヶ月弱も間が空いてしまって申し訳ないです。<(_ _)>

            ちょっとギャク調っぽくなってしまったかなぁと思うのですが楽しんでいただければ嬉しいです。

            これからもよろしくお願いします。

 

2002.9.16 貴月ゆあ