CONFRONT

 

     どうして今になって色部のとっあんが動き出したのか。

     謙信直属の命とはどういう事なのか。

     2年経った今、姿を現してきた八海。

     北条に引き込もうとしている小太郎。

     そして…・

 

     「そばにいくって……」

     「——待ってろって……」

 

 

     千秋がたまらず高耶に現実を突きつけた時に高耶の口から出た言葉。

     小太郎は側に居たのに、これではまるで直江が他に居ると言っているようなものだ。

     「だーもわけわかんねーっ!!!」

     ぐしゃぐしゃと頭をかきむしる。

     「何してんの?イイ男が台無しよ?」

     千秋が目線だけ上に向けるとグレーのパンツスーツの綾子が立っていた。
     普段なら綾子の口から長秀に対してイイ男なんて言葉が出てこないだろうが千秋の思いつめように
     気を使ったらしい。

     江ノ島での里見との事件を片付けて数日。まだ横浜に留まっていた。
     泊まっているホテルのラウンジで早い時間から酒を煽っていた千秋だが一人で飲んでいると
     苛立ってくるので近くに居る綾子を呼んだのだった。

     「おまえ、どう思う?」

     千秋がウイスキーの入ったコップを回しながら綾子に話かける。

     「景虎のあの言葉でしょ?<そばにいく、待ってろって。>まるで直江にでも会った様な言い方よね。
     でも直江は居ない……はずよね?」

     景虎のあの言葉を聞いて直江がまだどこかに居るのではないかと疑ってならない。

     「あたしは…直江が死んだなんてやっぱりまだ思えない。思いたくないだけかもしれないけど。
     でも400年よ?あたしたちの歴史は。それなのにあんなに簡単に景虎置いてあいつが死んでいいわけない。
     あの時確かに諦めはしたけど。だけど景虎のあの言葉を聞いたらもしかしたら…って思っちゃうでしょう。」

     この2年間小太郎を直江と思い込んでやまなかった景虎が始めて見せた動揺。それは何故なのか。
     ごまかしきれないレベルまで景虎の精神が病んでしまったからなのか。わからない。

     「あいつ一体誰に会ったんだよ。わからん。さっぱりわからん。」

     千秋はグラスに残っていたウイスキーをぐい、と飲み干した。

 

 

 

     酔いを覚ます為、綾子と別れ譲の家をたずねてるはずの高耶を迎えに来た。

     譲の部屋のインターホンを押しても誰も出てこない。

     (いねーのか。)

     仕方なく千秋はマンションの屋上に上がってみた。
     屋上へ出る扉は防犯上鍵がかかっていたが念動力で簡単に外すと千秋は屋上へと出た。
     昼間快晴だったせいか都内のわりに星がよく見える。白い柵にもたれかかって千秋はコートの内ポケットから
     タバコを取り出すと火を付けた。ゆっくりと吸って煙を吐く。

     28年前は直江が景虎を探していて、今は景虎が直江を探している。

     一体お前ら何やってんだ??

     28年前、直江と綾子が景虎を探していたのを知らなかった訳ではない。でももう関わるつもりは無かった。
     高坂に会うまでは。多分奴の事だ俺が首突っ込む事を計算して俺に会ったんだろうが、また巻き込み
     やがって。さすがの俺も嫌になるわ。

     もう一度タバコを口元に持っていく。

     これから考えなきゃいけないことや探らなきゃいけないことをかんがえると気が重い。
     景虎があんな状態な今、まともに頼れるのは自分自身だけだった。

     「はぁ」

     と大きなため息をついたトコで

     「すごいため息だな。疲れてるか?」

     後ろから不意に声がして驚きながら振り返ると高耶がたっていた。

     「譲と帰ってきたらおまえが屋上に居るのが見えたからさ。昼間出掛けてケーキ買ってきたんだ。
     一緒に食おうぜ。譲がコーヒー入れて待ってる。」

     嬉しそうに話し掛ける景虎に千秋は内心戸惑う。このまま平凡に時は過ぎてくれない。
     既に何かが動き出している。複雑そうな表情の千秋を見て高耶は首をかしげる。

     「おまえ……」

     あの時誰に会ったんだ?という言葉を言いかけて飲み込んだ。
     そして千秋はそっと目を閉じて何か決意したように目を開く。
     高耶は相変わらずキョトンとしているだけだ。

     「んじゃそのケーキをご馳走になろうかねぇ。」

     タバコを落として火を消すと千秋は高耶の肩を抱いて屋上を後にした。

 

 

     もう少しだけこいつに付き合ってやることにする。

     真実を……見極める。

     たとえそれでおまえが狂っても。

 

     その時はまた……・付き合ってやるからさ。

 

END

 


     『CONFRONT』とは「困難なことに立ち向かう」という意味です。(英和辞書参照)

     データの整理をしていたらほぼ完成形のがあったので手直ししてUPしてみました。多分ちょいまえに
     読み返しをした時に書いたのだと思います。まだ小太郎が直江してるときのお話です。

     この頃はこの頃で大変だったけど今は今で大変だからこの頃が懐かしい・・・・・・

 

2002年9月9日 貴月ゆあ