GLAY SKY 

 

       見上げる空は灰色の空。

       どこまでもどこまでも、この四国から抜け出さない限り空は灰色。

 

 

       赤鯨衆のアジトから程近い岩場の上に一人の青年が横たわっていた。

       口に<ネコジャラシ>の茎をくわえてどんよりとした灰色の空を見詰めている。

       よく見なければ分からないがその青年はどうやら霊体のようだ。

       何をする訳でなくこうして空を見上げてそろそろ1時間が過ぎるが青年に時の流れなど関係ない。

       どんよりとした空の下で何か想いにふけっている。

 

       突然青年が何か気配に気がついて上半身を起した。

       気配の主は青年の真横の茂みから軽やかに姿を現す。黒い豹だ。

       「おまえ…」

       千秋の口から<ネコジャラシ>が落ちる。

       黒豹は千秋を一別してそのまま沢へと下りていく。千秋はそんな黒豹の後を追った。        

       岩場を下った沢で黒豹は綺麗な清水をのみはじめた。千秋は距離を置き黒豹を見ている。

 

       しばらくして満足したのか黒豹は千秋の側へと寄ってきた。千秋はしゃがみこみ黒豹を見つめる。

       「おまえ今も景虎の側にいるんだろ?直江に……なりたかったんだろ?お前の願いは叶ったのか?」

       問い掛けても黒豹は答えない。千秋は答えない黒豹の髭を軽く引っ張った。

       黒豹は顔を背けたがその場を離れる様子もない。千秋はその場に腰を下ろすと黒豹をなでた。

       心臓の鼓動を直接感じる事は出来ないけれど血の巡る暖かい体温が千秋をやさしく包む。

       「結局俺もお前もあいつに囚われの身だな。」

       千秋がつぶやいた。

 

       なんだかんだ言ってもあいつに惹かれちまう。何度背を向けても最終的には景虎の元へもどってきてしまう。

       そう、今でさえ。

 

       そっとまた灰色の空を見上げる。

       曇った灰色の空は四国の———高耶の悲しみのようだ。

       きっとここに俺たちが居る事あいつは知っている。

       知っていて出てこないのは感じ悪いが俺もちょっと疲れたしね。

       再会の時までもう少し休憩させてもらうとするかね。

       自分を必要な時、きっとあいつから呼びにくる。だろう?景虎。

 

       この地にまた太陽の光が差し込む時、全てが終わっているように。あいつが笑っていられるように。

       俺たちはその日まで。いや、きっと最後までおまえに囚われの身なんだ。

 

end

 


      久し振りに書いた超短編。ちょっと「詩」っぽくしてみたんですけど・・・どうなんだろ?

      内容は33巻の千秋と高耶のやりとりを見ていて「懐かしいよぉ〜」と思い色々めぐっていたらこんな話ができました。
      元々四国に居る千秋を書いてみたいというのはあったのですがまさか小太郎とコンビで出すとは自分でビックリ。
      なんか、小太郎と高耶のシーンにもぐっときちゃって絶対小太郎だぁ!と思ってしまったのです。
      本来なら小太郎が千秋に気を許す事はないと思いますが小太郎も変わりつつある・・・って事で
      その辺り大目に読んでやってください。(笑)

      高耶に関わった人たちはみんな「囚われの身」だと貴月はおもいます。
      きっと私も例外ではないと・・・・・・。

2002.6.5 貴月ゆあ