■Seacret

 

      いきなり携帯電話が鳴る。
      最近の携帯電話は和音での着メロが可能でまるでちょっとしたオルゴールのようだ。

      寝ぼけていて何が鳴っているのか始めはわからなかったが、
      それが携帯電話の呼出音である事に気が付いて頭の上で充電している電話に手を伸ばした。

      「もしもし?」

      思いっきり不機嫌な声。
      それもそのはずだ。時刻は午前4時。
      飲みに出て遊んで帰ってきた千秋にとってはまだ眠ったばかりの時間だった。

      『なぁ、車乗せて。』

      千秋の不機嫌な声とはうらはらに、高耶の声が電話の向こうから聞こえてきた。

      「あ?何寝ぼけた事言ってんだよ。今何時だと思ってるんだ!」

      千秋は枕元の時計を見ながら電話口の高耶に向かって怒鳴る。

      「朝方の4時。とりあえずそっちに行くから起きてろよ。」

      千秋に怒鳴られたにも関わらず高耶は勝手に話を進めていく。
      千秋が『おい!』と言った時にはもう既に電話は切れていた。

      (ったくなんなんだよ〜。)

      電話を切ってほおリ投げる。高耶の住んでるマンションから千秋の家まではそう遠くはない。
      歩いて20分くらいの距離だ。なんでこんな朝早くに景虎の言い成りになってるんだろうか…・
      と思う自分を押さえつつ千秋はしかたなくとりあえず起き上がると外に出る支度をはじめた。
      3月も終わりもう4月とはいえどもこの時間は寒い。
      とりあえず寒くない格好をして車のキーを捜していると部屋のチャイムが鳴った。

      「はいはいはいはいはいは〜い。」

      嫌味そうにそれに応え扉を開ける。

      「よっ!」

      景虎は悪びれた様子もなく普通に挨拶なんかしてきたので顔を見たら怒鳴ってやろうと思ったのだが
      そんな気もどこかへ消えてしまった。

      「とりあえずさぁ、何なの?おまえ。今何時だか分かってる?」

      千秋が高耶のおでこに自分の手を当てる。熱でもあるんじゃないのか?と言いたいらしい。

      「熱なんかねーよ。それより早く行こうぜ。」

      電話で車乗せてと言っていたのは嘘ではないようだ。
      仕方なく千秋は上着を着て外に出た。冬ほどではないがやはりまだ寒い。
      愛車の止まっている駐車場までやってきて車に乗りこむ。

      「で、どこ行きたいわけ?お姫様。」

      「姫って言うなよ。とりあえず海。」

      「とりあえず海って言ったってなぁ、ニッポン全国海なんていっぱいあるんだよ!!」

      思わず頭を抱えたくなる高耶の言動に千秋は本当に頭が痛くなってきた。
      とりあえず希望通りここから一番近い海岸に向かう道を走り出す。
      こうなったらとことん景虎に付き合うしかない。

      千秋はアクセルを思いっきり踏んで静かな朝の道路をスピード違反覚悟でとばした。

 

 

      高耶のご希望通り1時間ほどで海岸に付いた。
      だんだんと辺りは白み始めているがシーズンオフな今この時間に人なんて居ない。
      とりあえず海岸線のガード沿いに車を止めると車から出て浜辺へと歩いた。

      「寒みーっ。」

      千秋が両手で自分を抱きしめるようにして叫んだ。
      しかし正反対に高耶ははしゃいで浜辺への道を走る。

      「早く来いよ!」

      高耶は後ろをのんびりあるく千秋を何度も振り返りながら海へと向かう。

      「何で少年はあんなに元気かね。」

      ポツリと独り言をいって浜辺に座り込むと、千秋は胸元のポケットからタバコを取り出し火を付けた。
      軽く吸って煙を吐く。朝の冷たいけれど心地いい空気に煙は溶けやがて消えていく。
      そんな煙を眠い目で見ていると波と戯れていた高耶が戻ってくるのが見える。
      千秋はちょっといたずらしてやろうと高耶を招き猫のように片手で招いた。

      高耶が「何だよ」と言いながら自分の目の前にしゃがんだ時にそのまま自分の方に引き寄せて抱きついた。
      バランスを崩して浜辺に倒れこむ。

      「ちょ、何すんだよ!」

      高耶が思った通りにうろたえる。
      いつもは高耶の事を見下ろすのに今日が見下ろされている。何だか変な感覚だ。

      「…人間カイロ。
      俺様ねーあんま寝てないのにお前のために1時間も運転してこんなトコロに連れて来てやったのよ?
      カイロになってくれたっていいっしょ。」

      そう言われてしまっては高耶も黙るしかない。
      しばらくそのまま千秋の言いなりになっていたがさすがに朝の潮風は寒い。
      高耶が千秋に話し掛けてきた。

      「あのさ、お前今日何の日か分かってる?」

      突然そんな事を聞かれても思いつかない。

      「さぁ?」

      「さぁ?じぇねーよ!おまえの誕生日だろ?覚えとけよな。ったく。」

      千秋の腕が緩んだ隙に高耶は起き上がると千秋に向かってほらと手を出す。
      千秋がその手を取るとそのまま腕を引っ張って起こした。浜辺に向き合って座り込む。
      千秋は砂だらけだった。高耶が千秋に近づいてそっと砂を払う。
      いつもなら逆の立場なのに…と千秋はあっけに取られていた。
      千秋の長い髪に付いた砂を払い終ったところで高耶はポケットから何か取り出すと、

      「あんまいいもんじゃないけどな。」

      と言って千秋の首に腕を回すと何かを付けた。金属の冷たい感触が首筋を伝う。
      それはプレートの付いたネックレスだった。

      「前に雑誌で見てさ、千秋に似合いそうだな〜と思ってこれにした。」

      高耶がちょっと照れながら言う。
      千秋はプレートをジャラジャラと鳴らしながら「サンキュ」と高耶に微笑みかける。

      「誕生日おめでとう」

      そっと高耶の手が伸びてきて千秋の頬に触れる。外に居るせいか手が冷たい。
      冷たい手で千秋のあごを上に向けるとそのままそっと千秋の唇を塞いだ。千秋は驚いて目を見開く。
      高耶からプレゼントを貰った上にキスまで…思ってもみない展開である。千秋は俺ってシアワセ者。
      と思いながら高耶の首に腕を回してキスに答えた。所々吐息の漏れる長いキス。

      思う存分貪ったところでやっとキスを辞める。
      千秋が上目づかいに高耶を見ると高耶は真っ赤になっていた。

      「柄に合わない事するもんじゃないな。」

      高耶が口元に手を当てて呟く。恥ずかしいのか千秋とは目を合わさない。

      「たまにはいいんじゃねー?俺は嬉しかったけど。」

      「それはよござんした。」

      「さて、体も冷えてきたし帰るか。」

      よいしょ、と言って千秋が立ち上がる。今度は高耶に手を伸ばして高耶を引っ張りあげた。

      「ありがとな。景虎。」

      「ドウイタシマシテ。」

      そっぽを向いている高耶だったが片手はちゃんと千秋の手を握っていた。

      手をつなぎ車までの短い距離を潮風に吹かれながら歩く。
      そんな二人の後姿を朝日がキラキラと照らしていた。

 

 

END

 


      *あとがき*

      なんか・・・思った以上に長くなってしまったのと何故か「ちーたか」じゃなくて
      「たかちー」になってしまった気が。(苦笑)
      ま、でもたまにはこういうのもいいかな〜と思って書き進んじゃいました。
      普段じゃ絶対にありえないですよね〜こんなコト。でも書いててかなり楽しかったです。
      カッコイイ高耶もいいなぁなんて思ってみたり。たまには千秋もイイ想いしないとね。
      でも、書き終わってから気が付いたんだけど何も海まで行かなくてもよかったかも…
      本当は朝日をバックに千秋におめでとうを言う高耶が書きたくて書き始めたはずだったんだけどなぁ。(笑)

2001.4.1  ゆあ