深層心理

 

    「う〜ん。」

    高耶が食卓で何やら唸っている。相手は英語の教科書だ。
    出席日数が足りないから補修に来い!!との事で各教科の先生にたっぷり出された宿題を
    している最中だった。内容はそんなに難しいものではないのだがこれから国数社理の宿題も片付けるとなると
    気が重くて集中なんてできやしない。しかも今やっているのは英語。

    「どうして日本人なのに英語をやんなくちゃいけないんだ」などという屁理屈を言っている高耶なので
    学校に出ている日でもろくに授業なんてきいていなかった。
    前に一度「日本人なんだから」という話を直江にしたら『これからは国際化社会ですから英語はやっておいた
    方がいいですよ。』と言われたのを思い出して苦笑いしながら問題に取り組むがやっぱり集中できない。
    それに一番の原因はこいつだ。

    「あっれ〜、景虎。さっきから全然進んでないじゃん。」

    高耶の頭に腕を乗せて千秋が上からノートを覗いてくる。
    肩にはスポーツタオル、片手には缶ビールといういかにも風呂上りな格好である。
    全く人が勉強してるというのにいい身分だ。

    「うるせ〜な。おまえがさっきからそうやってかまってくるから集中できないんだろうが!!」

    高耶は千秋をどかそうとしたが千秋はどこうとしない。

    「そんなんおまえの集中力が足りないだけだろ?」

    人差し指で高耶の頬を突つきながら千秋は上機嫌だった。
    しかしそれに比例して高耶のイライラ度は上がるばかりである。

    「いいかげんにしろ!」

    高耶が怒鳴って立ちあがる。
    やっとの事で千秋が高耶から離れた。

    「はいはい。」

    千秋はヒラヒラと手を振るとテレビの前に置いてあるソファーに座りビールを飲口に運ぶ。
    テレビを付けて一通りチャンネルを回してみるが後ろで高耶がにらんでるのを察知しテレビのスイッチを
    消してリモコンを机に戻した。
    しばらくそのままソファーに座って雑誌をめくっていた千秋だったが、ビールも空になったしと
    部屋に戻ると立ちあがる。

    「わかんなかったら聞けよ。1問500円で教えてやるぜ!」

    とウインクなどしてリビングを出て行く。高耶は思わず消しゴムを投げつけて睨みつける。
    「おーこわっ」と言いながら千秋はリビングから出て行った。

    時計の針がカチコチカチコチと無情にも時を刻む。
    千秋が出て行ってからそれなりにページは進んだが勉強に対する集中力はそんなに長く持たない。
    1箇所つまずくと途端に集中力が欠けていく。それに英語の長文問題なんてものは一番ややこしい。

    コツを掴んでいればそうでもないのかもしれないが学校にろくに行けてない高耶に
    そんなコツは持ち合わせていなかった。
    1時間近く粘ったが分からない問題が増えてく一方だ。
    高耶は不本意ではあったがしかたなく千秋に聞きに行く事にした。

    教科書とノートを持って千秋の部屋に移動する。コンコン。一応ノックする。
    千秋は人の部屋に入ってくる時は「はいるぞ〜」と言って返事を待たずにもう扉を開けているが
    高耶は人の部屋に入るときはノックをする癖がついていた。
    変なところできちんとしているというか単に千秋がだらしないだけなのか…・ノックの返事を待つと

    「待ってたぜ。落ちこぼれ〜」

    眼鏡をかけた千秋が嬉しそうに扉を開けた。
    ちょっとイジメテやるか、というような顔をしてるのでやっぱり戻ろうかとも思ったがそれでは宿題が進まない。
    仕方なく高耶は千秋の部屋に入った。部屋に入ると何だか臭いがする。優しい香りだ。

    「何の臭い?」

    「あ、これか?アロマキャンドル。落ち着くだろ〜?」

    窓辺にちょこんと火の灯った小さいキャンドルが置いてあった。
    ほのかにだが臭いが漂っている。

    「なんか千秋の趣味って感じしない…・」

    キャンドルをじろじろと見つめながら高耶がぼそっとつぶやいた。

    「悪かったな。この間パチンコで当てたんだよ」

    千秋は机の上を片付けて勉強のできるように整える。
    高耶がめったに入らない千秋の部屋を色々と見ていた。とてもシンプルな部屋である。

    「何人の部屋ジロジロ見てんだ?欲しいもんでもあるのか?」

    そう言いながらこっち座れ。と手で合図して高耶を座らせる。

    「んでどこが分からんのだ?」

    高耶は机の上に教科書を広げて分からない所を説明した。
    かれこれ説明20分。適当に教えるのではないかとおもった千秋だったが懇切丁寧に教えてくれた。
    直江に勉強を教わる事はあっても千秋から教わる事なんてなかったので関心して千秋をマジマジと見つめる。
    その視線に気がついた千秋が

    「何?」

    と顔をあげた。眼鏡を直す仕草に何故かドキっとする。

    「何でもない。なんか千秋にこんなに丁寧に教わってて気持ち悪くなった」

    千秋にときめいたのを見透かされないように憎まれ口を叩いてみる。

    「おまえな〜そんな事言ってると教えてやらんぞ?」

    千秋は丸めたノートでポカっと高耶の頭を叩いた。
    高耶は「痛って〜暴力講師!」と訴える。

    「それじゃ気分転換に違う授業でもしてみる?」

    ニヤっと笑って千秋がいきなりキスをしてきた。
    とっさのことだったので高耶はなすがまま。
    しかも千秋があごを掴んできたので突き放す事ができない。ほのかにアルコールの味がする。

    「何しやがる!!」

    高耶が目に涙をためながら怒鳴った。
    千秋は軽い冗談だったのだが高耶は真に受けたらしい。

    「暴力講師の教え方。真に受けるなよ」

    千秋がポンと高耶の頭の上に手を乗せた。
    すると高耶が聞こえるか聞こえないかの声でぼそっとつぶやく。

    「直江みたいな事するなよ」

    直江という言葉に千秋が過剰に反応する。

    「一番聞きたくない名前だな。しかもおまえからはなおさら聞きたくない」

    教科書をパタンと閉じ高耶の両手を片手で押さえつけるとそのままもう一度唇を重ねた。
    今度はさっきの遊びとは違うキス。高耶は腕をほどうこうとしたが千秋は放さない。
    そのままシャツのボタンを器用に外していく。

    「ちょ、ヤメロってば」

    千秋は無言でそのまま片手をベルトへと伸ばした。カチャカチャと金具が音を立てる。

    「…っ、ヤダっ…」

    千秋が高耶を見上げると高耶の目には涙が浮かんでいた。
    千秋はそれを見て我に返ったのか寂しそうな瞳で高耶を見つめる。
    千秋は高耶を拘束していた手を解くと、

    「悪い」

    そう一言だけ言って部屋を出ていってしまった。
    高耶は放心状態でいる。何故だか涙が止まらなかった。

    しばらくして高耶はふと窓ぎわに置いてあるアロマキャンドルに視線を持っていく。
    青白い炎がユラユラと揺れているのをうつろな目で見ていた。

 

 

    それから2時間後ガチャリと玄関のドアが開く音がした。
    高耶がバタバタと玄関に向かって走っていく。お互いに目を合わせるがどうしていいか分からない。
    高耶の心情は「何か言わなくちゃ何か言わなくちゃ」とそればかりが頭の中を駆け巡っている。
    が、しかし先に口を出したのは千秋だった。ちょっと困ったような顔をして

    「ただいま。さっきは悪かったな。ほれ土産。」

    小さな袋を高耶に差し出した。
    高耶が袋を覗き込むとたこ焼きのいい臭いがする。高耶はそれを無言で受け取る。

    「冷めないうちに食おうぜ」

    と千秋が高耶の横をすり抜けていく。と、高耶が後ろから大声で叫んだ。

    「ごめん!」

    言ったきり下を向いてしまう。肩が震えてるのが微かにだが分かった。
    千秋はそのまま廊下を夕ターンすると

    「何、おまえがあやまるコト無いっしょ。悪かったな」

    と言って高耶を抱きしめた。
    高耶は緊張が解けたのか千秋を見上げるとニコっと笑って見せた。千秋もそれにつられて笑いかえす。

    「さて、コレ食ったら続きやるぞ」

    「え?」

    高耶が驚いた声を出す。

    「ばーか、宿題だよ。終わらないと困るだろ?
    ったく上杉の大将が宿題に泣かされてる姿なんかカッコ悪いだろーが」

    早くしろ。といって千秋はさっさとリビングに戻ってしまった。高耶は「待てよ」と言ってそれを追いかけた。

 

   −END−


    21世紀初のお話もやっぱり「ちーたか」になってしまいました。(苦笑)

    この話の土台はかなり前からあって書きかけになってほっとかれていた話であります。
    (私ってそんなのばっかりなんだよね…・
(−_−;)

    これ書こうと思ったきっかけは高耶が直江の事を言うのに対して千秋は嫉妬とかしないのか?
    なんて勝手に思って  こんな話ができました。なのでこの話のテーマ?は「千秋の嫉妬」だったりします。
    たまにはいいよね。…・ダメ?(笑)

    千秋が高耶にちょっかい出してるのって好きなんですよね〜。見てるこっちもホノボノ…・
    もう原作じゃどれくらい千秋(長秀だけど…)出てきてないかなぁ?
    いつも新刊出るととりあえず千秋が出てるか確認するんですけどてんでダメなんで。
    せめてパロディの世界では大活躍して欲しいなぁなんて思います。

 

                                     2001.1.21 沙良