あの時あの場所でもう一度…… 番外編

 

   それは遠い昔にした約束。

   毎年同じ日、同じ時間にこの場所で会おうと。『来年は一緒に来ましょう』そう言ったのに……・

   あれから2度目の約束の日が来る。

 

   穏やかな風が高耶を歓迎するかのようにやさしく吹いている。
   高耶は松本から電車で目的地まで来た。ここへ来るのは実に2年ぶりである。
   昨年も一昨年も忙しすぎてゆっくりとここへ来る事ができなかったからだ。そう、色々ありすぎて…

   (あいつは来るだろうか……)

   そう考えると不安で胸が押しつぶされそうになる。
   この2年であいつは変わってしまった。高耶がどんなに訴えかけても欲しい答えが返ってこない。
   いつからか歯車がかみ合わなくなってしまっていた。

   高耶も諦めかけていたが今日は小さな望みを託してここに来た。
   長い道のりを歩いてあの木の下まで来る。が、誰もいない。

   (やはり来ないのか……)

   高耶がそっと木を見上げる。
   木は高耶がここへ来たのを歓迎するかのように風に揺れていた。高耶はそのままそこで待つ事にした。
   今直江は仕事についていないはずだから忘れていなければここに来るはずだ。
   高耶はあえて直江と一緒にはここに来なかった。別々に来てここでちゃんと会いたいと思ったからだ。

   「直江は…どうしちゃったんだろうな」

   ポツリと呟いて高耶は木にそっと触れてみる。
   ドクンドクンと鼓動が聞こえてきたような気がした。
   風が吹く。高耶の髪がそっと風に揺れた。遠くの方で幼稚園生の集団が元気よく走って遊んでいるのが見える。

   (さいきん笑ってないな)

   子供の笑い顔を見ていてそんなことを思った。
   どこにいても神経を張りっぱなしで気が休まる時が無い。
   千秋や綾子が自分を気づかってくれているのは分かるのだがあまり素直になれない。
   あの男の事が気になって気になってしかたない。
   あれだけ熱い想いを持っていたはずなのにどうして何も感じないんだ?

   まるで別人を相手にしているみたいだ。
   別人?まさか…・・

   「待っていて…」ふと誰かの声が重なる。
   待ってるって何を??いつどこで?

   「真実は貴方の中に…」
   真実?何がおかしい?どこからそうなった??

   「っ…・」

   記憶を辿ろうとしたところで突然頭が痛くなる。それは危険信号。
   これ以上先には進ませないと自分自身に抑制される。
   いつもよりも深く踏み込んでみようとしたが拒否された。
   額から大量に汗が流れ出す。気持ちが悪い。
   そのまま立っていられなくなって倒れかけたところを誰かにささえられた。
   そっと額にハンカチが当てられる。

   「大丈夫ですか?」

   高耶を支えている人物であろう声。

   (え……)

   「直江?」

   振り返ると…そこにはいつしかカシミヤのコートを着たあの男が立っていた。

   「か・・いざき……」

   なんでこいつがこの公園にいるのだろうか。
   妙なタイミングである。

   「あなたでしたか。妙な所で会いますね。」

   そういって微笑する。
   なんだか懐かしい感じがするのは何故?まだはっきりしない頭で考える。

   「どうして・・ここへ?」

   「ここの公園の開発に絡んだ仕事がありましてね、現地を見に来たらあなたが見えたのでね。
   こんなところで何をしているんですか?一人で来るような場所じゃないでしょう?」

   痛いところをつかれて高耶は開崎から離れた。
   まだ多少気分が悪いが立っていられないほどではない。

   「おまえに関係ないだろ」

   高耶は目を合わせないようにして答えた。
   直感が危険を知らせている。この男に深く関わってはいけない。何かがコワレル……

   「あなたの待ち人は来ない」

   開崎はそういって高耶に軽く口付けをした。目を見開く高耶。
   そのまま片手を振り上げて平手打ちが開崎の頬に当たるはずだったがそれは寸でのところで開崎に阻止された。
   そのまま腕を捕まれる。

   「どうしてそんな事がいえる?おまえには関係無いだろ。」

   「関係あるって言ったら貴方はどうしますか?」

   「え…」

   「あなたの今すべき事は真実を知る事だと前にも言ったはず。はやく鍵を見つけないと…」

   そう高耶に告げる開崎の瞳はどこか寂しげだ。

   「おまえ…」

   といいかけたところで

   「諦めてもう帰りなさい。」

   それだけ告げると開崎は高耶に背を向けて歩き出した。
   とっさに置いて行かれると感じ高耶は不安になって叫ぶ。

   「わかんねーよ!なんなんだよ!!」

   開崎の背中思いっきり叫ぶ。誰でもいいから答えを知ってるなら教えてほしい。
   そんな悲痛な叫びだった。するとその叫びを聞いてそっと開崎が降りかえった。
   その顔にはどこか見覚えがある。あのやさしいまなざし。欲しかったモノ。

   「早く見つけて」

   聞こえはしなかったが唇がそう告げていた。
   それだけ言うと開崎は今度こそ振り返る事なく高耶を置いて歩いていってしまう。

   無意識に足が開崎を追いかけようとしたがギリギリのところで足を止めた。
   早く答えを見つけたい。高耶の拳に自然に力が入る。

   本当は高耶にも分かっているのだ。
   何かがおかしい、この迷路から抜け出さなければいけないということ。
   イコールそれは自分自身との戦いである。

 

   そう、答えは…・自分自身の中に。

 

END

 


   い、いかがえしょうか?(おどおど)久しぶりに書いたのでちゃんとした文章になってるのかメッチャ心配。
   でもずっと書きたかった番外編なので個人的には満足。

   この話の1作目を考えた時頃から書きたいな〜と思って考えてたネタなのであります。
   久しぶりに直高っぽかった話ですね。

   何気にこのお話は私的に気に入ってるのであと何作か書きたいと思ってます。(いつとは言えないけど/笑)

   それにしても・・・あんまり季節の統一感がない感じがするのは私だけでしょうか?(爆)
   1〜3を書いてるときは夏前くらいの感じで書いてたんですけど、今日はちょっと秋を意識して・・・
   (ってそれじゃ同じ日同じ時間じゃないじゃん!って感じですな/自爆)

   そこは突っ込みなしだと嬉しいです。いつか統一させまする。(あくまで予定ですが・・・・・・)

 

2000.9.23 沙良