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         ここから見える景色はとても綺麗だ。360度の角度から色々な場所が見える。

         (やっぱり高い所はいいな)

         千秋は東京タワーに来ていた。
         別に誰かと来たわけではないが急に高い場所に行きたくなってここに来た。

         今は東京近郊のマンションに住んでいる。
         いまさら東京タワーに来ても何もないのだが、あまり人がいなくて高いところと思ったら
         自然と東京タワーだった。エレベータで上まであがる。上に行くにつれて耳がキーンと痛くなった。

         チンと小さい音がして、エレベータが止まり扉が開く。平日だからか人はまばらだった。
         観光客らしき団体が1つと一般客がちらほらと広大な眺めを楽しんでいた。

         千秋は人が少ない場所を選んで外を眺める。
         どこまでも見渡せる景色。今日は天気も良いせいか眺めは最高だった。
         ふと、懐かしい人物を思い出す。
         ここ10年あいつらとは顔を合わせていないうえに連絡も一切取っていない。
         どうしているのか・・・・少し気になった。

         (おかしいな、自分から手を切ったくせに)

         自嘲ぎみに笑ってガラスごしに外を見た時に、何からか視線を感じる。
         ばっと後ろを振り向くが誰もいない。でも確かに視線を感じた。

         (誰だ?)

         千秋の第6感が何かを察知している。注意深く周囲の気配を探る。絶対に何かいるはずだ。
         ふと背後に何かを感じて千秋はもう一度振り向いた。するとそこには長身の青年が立っていた。
          千秋は青年と距離を置いて向き合う。

         (こいつ・・・・・!)

         「久しぶりじゃのう」

         青年が口を開いた。ニヤリと笑って

         「安田殿」

         !!千秋が衝撃を受ける。自分の原名を知っている。こいつは———————

         「高坂か」

         とっさに身構えた。

         「ご名答。何をしているのかと思えばこんな所でのんびりと、のんきだな」

         高坂は交戦しようとは思っていないらしく腕組みをしてのんびり構えている。
         それを見て千秋も身構えるのをやめた。

         「おまえには関係ないだろ」

         「そんな連れないことをいうな。今回は良い情報をもってきてやったのにな———景虎の」

         景虎という言葉を聞いた時、千秋の顔付きが変わった。

         「10年もほったらかしにしといたくせに気にはなるみたいだな」

         千秋の顔を見て高坂は嫌味を言う。

         「景虎がどうしたって?見つかったのか」

         高坂に一歩踏み出して千秋が尋ねる。
         手を切ったもののやはり400年間という時間は長すぎて忘れてくても忘れられないというのが
         本音なのかもしれない。

         「ああ、景虎殿も人が悪いな。記憶がないくせにしっかり使命は果たしておる」

         「どういう事だ?」

         「ま、会ってみればわかるとお思いだがね。実におもしろい」

         高坂はもったいぶって中々教えようとしなかった。

         「ここではなんだ、ゆっくり茶でも飲みながらいかがかね」

         千秋を促す。
         せっかく一人でゆっくりしようと思ったのに嫌な奴に会ったもんだと思いながらも話が気になるので
         しかたなく高坂に付いて東京タワーを後にした。
         駅前近くまで歩き喫茶店に入る。店の中の人はまばらだ。窓際の席に座りコーヒーを注文する。

         「んで、なんで俺がおまえとこんな所で茶しつつ話なんかしなくちゃならないんだろうな」

         千秋は運ばれてきたコーヒーにミルクを入れながらかき混ぜる。

         「景虎殿の貴重な情報をコーヒー一杯で教えようと言っているんだ。悪い話じゃないだろう」

         高坂は何もいれずにストレートのコーヒーを一口飲んだ。

         「それで、景虎は今どこに?」

         千秋の目が鋭くなる。

         「松本だ。」

         「松本…?長野か?」

         高坂はコーヒーカップをテーブルに置き角砂糖を一つ入れた。どうやら少し苦かったらしい。

         「松本で高校生などを流暢にやっている。」

         「高校生?!ったくあんにゃろ〜」

         知らず知らずのうちに声が大きくなってしまう。
         店にいた少ない客が千秋に注目をしてしまったので千秋はゴホンと咳払いをした。
         それに気付いてか客も視線を千秋から外す。それを見計らってか

         「だが…・」

         高坂がもったいぶった言い方をする。
         千秋はここまできたんだから話せよ。と目で訴える。

         「記憶がない。」

         「記憶がないだと〜?」

         今度は声を荒立てないように自分を押さえた。

         「ああ、どうやら自分が景虎だということを覚えていない。
         もちろんおまえら夜叉衆のことも直江の事も。」

         「直江の事もか?嘘だろ…・」

         今度は声が小さくなっていく。
         まあ、30年前の出来事を考えれば考えられるには考えられる…。

         (あんのやろう)

         千秋はテーブルの舌でこぶしを握る。

         「ま、しかたないだろう」

         上杉の内情を知っての発言である。
         高坂は千秋の反応を面白がっているのかもったいぶってまた口を開いた。

         「それにな、六道界の脅威」

         「…六道界の脅威?なんだそれ。」

         「それは自分で確かめるんだな」

         そう言って高坂は「ここは安田殿のおごりで」と店を出ていった。
         一人見せに取り残された千秋の頭の中には「?」が浮かぶ。

         (自分で確かめろ……か)

         外の景色を見ると薄っすらと夕暮れになってきていた。巣に帰るのか鳥がせわしく飛んでいる。
         もう何十年もたった。またなにか動きだそうとしているのだろうか。答えは…長野にる景虎…・・か…

         (ったく何やってんだか)

         軽くため息をつきながらも、千秋の中では長野に旅立つことを胸に決めていた。

         再会の時は近い。

 

END


        実はこのお話、カウントGETとか入れないと通産10作目になります。

        この話を考えたのは、読みなおしをした時に2巻のラストを読んででした。
        千秋が直江を車で病院に連れていくシーンですね。

        千秋は景虎の情報を高坂にもらったってどこでどうやって…・と思っていたら
         こんな話が出来あがりました。高坂は口調が難しいですね。書いたことなかったから。(^_^;)

        久しぶりに東京タワーに行きたいなぁ。行ってもお金かかるからあんまり上まで上がらないの。私(爆)

                          19990918 沙良