WAVE 

                                       

        「なぁ、寝てもいいか?」

        車の助手席の椅子を倒しながら高耶が運転席の千秋に話しかける。

        「あ、いいぜ。着いたら起こしてやるよ」

        千秋は高耶の方をチラっと見てまた正面を向いた。
        今日は7月22日である。そう、高耶の誕生日の前日だ。
        前日祝いしてやるよ、との千秋からの誘いで夕飯を食べた後ゲーセンで遊んでいると、
        急に「海に行きたい」と高耶が言うものだから海に向かって運転しているところである。
        時刻は11時を少しまわったところだった。

        (まったく、お子様だな)

        千秋は赤信号で止まると、後ろに置いてある上着を高耶にかけてやった。
        高耶は気持ちよさそうに眠っている。

        海岸沿いを少し走ると車の置けるスペースのある場所に出た。千秋はそこへ車を止める。
        だが高耶は気が付かないのか眠ったままだ。

        「景虎。着いたぞ」

        千秋は高耶の体をゆすって起こした。
        高耶は「ん〜あと5分」などと言っている。寝ぼけているのだろうか。千秋は高耶の耳元で

        「景虎。起きねーと襲っちまうぞ」

        と言うと、高耶がガバっと起き上がったが、
        シートベルトをしているのでバウンドしてイスに体を叩き付けられた。
        「げほげほ」と高耶が咳き込む。千秋は目を丸くして

        「大丈夫か?」

        と高耶のシートベルトを外してやった。高耶は目に涙をためながら

        「痛ってー。千秋。何てこと言うんだよ!!」

        恨めしそうに千秋を見る。が千秋は悪いなんて少しも思っていない。
        高耶も本気で怒っているわけではない。それは表情でわかる。

        「リクエストの海に着いたぞ。降りようぜ」

        千秋はそういうなり車から外に出る。くるっと回って助手席の扉を開けてやった。

        「お姫様、どおぞ」

        千秋はエスコートするような格好をすると

        「俺は姫じゃねーよ」

        と、高耶は千秋を無視して車から降りた。

 

        世間は夏休みに入ったばかりなので海岸には人がいるかと思っていたが、
        夜の海に人はほとんどいない。遠くのほうに何人か人がいるようだったが別に気にならなかった。

        砂浜まで歩いて海水が届くか届かないかの場所まで歩いてやってきた。
        高耶がおもむろに座り込むと靴を脱ぎ始めた。千秋はそんな高耶の傍らに座って膝を抱えた。

        「おまえ海入るつもり?」

        「そうだけど?だって海に来たのに水さらわなかったら何の為に来たのか分からないじゃん」

        高耶はせっせと靴を脱いで海水に足を浸す。

        「げっ、生暖かい!!」

        高耶は顔をしかめながら楽しそうに波と戯れる。と、途端にふと波が大きくなった。
        ザッブーンと高耶の膝辺りまで波しぶきが飛ぶ。

        「うわぁ」

        高耶が浜辺に向かって歩いてきた。
        砂浜で待ってる千秋の方に歩いてくる。すると、千秋は立ち上がって

        「何やってんだよ。もう車乗せてやんね〜」

        と高耶に背を向けて歩き出した。

        「なんだよそれっ!!」

        高耶が後ろでわめいている。
        千秋のケチだのバカだの好き勝手言い放題だ。千秋は片目を吊り上げながら

        「そこでおとなしくまってろ」

        と言うと走って車に向かいタオルを持って戻ってきた。

        「ほら、これでちゃんと拭けよ。俺の愛車に海の匂いがしたらたまらんからな」

        高耶にタオルを渡すと高耶は濡れた足やズボンを拭き始めた。千秋は黙ってそれを見ている。
        大体拭き終わったところで高耶はタオルを首にかけた。

        「ふぅ」

        高耶が空を仰ぐ。空には星がキラキラと輝いている。

        「何がふぅ、だよ。ったく」

        千秋はポケットからタバコを出して火を付けた。煙が中に舞う。
        千秋はライターをしまおうと思って思い出したように景虎に向けてライターを付けた。
        青い炎がボウと浮かび上がる。ちょっと嫌そうな目で高耶が言う。

        「何だよ」

        「いや、誕生日じゃん。吹いてみっか?」

        「俺は子供じゃね〜っ!!!」

        高耶が大きい声で怒鳴る。子供扱いされるのは人一倍嫌いな高耶だ、悔しかったらしい。
        しかし、あははと笑っている千秋の肩にポンと高耶の頭が乗っかってきた。

        「どした?」

        突然のことに千秋が驚く。

        「……」

        「何考えてるんだ?」

        タバコを砂浜に押しつけて千秋が優しい声で尋ねる。

        「昔の誕生日。まだ小さかった頃はさ、ケーキがあって家族が居ての誕生日だったな。って思って。
        ローソク吹くのってなんだか楽しみだったよなぁ、誕生日の特権じゃないけどさ」

        昔を懐かしむような口調でずいぶん弱気なことを言ってくれる。

        「なーんだ。ホームシックか?」

        「そうかもな」

        からかうつもりで言ったのに、意外な言葉が返ってきたので
        千秋は次に何を言っていいのかわからなくなった。
        千秋はそっと高耶の頭の上に手を置くと

        「大丈夫だよ。俺が居てやるからさ」

        と言って体の向きをかえて高耶の顎に手をかけた。高耶は嫌がりもせずにじっと千秋を見つめている。
        そのまま千秋は高耶にそっと口付けた。暖かい温もりが伝わってくる。
        そのまま勢いで千秋は高耶の体を砂浜に倒した。視線がぶつかり合う。
        高耶がそっと千秋に手を伸ばしかけたとき、プルルルルと携帯電話。高耶の携帯である。
        だが高耶は電話に出ようとしない。見詰め合う二人を挟んで電話の音が鳴っていたが、やがて切れた。

        「いいのか?電話」

        千秋が問う。電話の相手は多分……

        「いいよ。今日はおまえと一緒にいる」

        まっすぐな瞳がとても綺麗だ。

        「ふぅん。後悔しないか?」

        高耶がこくっと頷く。

        「だったらいいけど」

        と言いながら千秋も高耶を今更離す気にはならなかった。
        そっと自分の唇を噛みそのまま高耶に口付ける。

 

        ———触れた部分が熱い。その熱さが体にも染み込んでいく。このま二人で海に溶けるのも悪くない。

             優しい波の音を聞きながら二人は互いに身をゆだねていった・・・・・・・・

 

               -END-


        やったらと長くなってしまった・・。純粋?なちーたかです。

        本当はN氏の邪魔が入る終わり方にしようとおもったのですが書いてるうちに
        直江は今回結構書いたから登場させるのやめよう。って事でやめました。(笑)

        今回お話に海が出てきましたが、私ここ何年も海に行ってません。(苦笑)
        小さい頃は行ってたんですけどね〜。(>_<)

        本当はこの話時間なくてやめようと思っていたんですけど、ちょっと書いてみたらすらすら
        (でもないけど/笑)と手が動いたのでUPが間に合いました。
        千秋に祝ってもらう誕生日ってのもいいですよね。私も祝ってくれ、千秋〜。

        19990720 沙良